日本における労働生産性の違いとは?推移や産業・都道府県別に比較すると

OECD加盟国の中で低水準な日本の「労働生産性」

働き方改革で解決しようとしている課題の一つに「労働生産性の向上と効率化」があります。少子高齢化などでの労働力不足への対応が求められており、外国人採用や女性の活躍推進・定年後の再雇用などでの労働人口の拡大はもちろんのこと、一人あたりの労働生産性向上が注目されています。

日本の労働生産性をOECD加盟国で比較した場合、日本の時間あたり労働生産性(就業 1 時間当たり付加価値)は46ドルで35カ国中20位です。米国の 3 分の 2 の水準で、データが取得可能な 1970 年以降、最下位の状況が続いています。また、1人あたりの労働生産性も81,777 ドルで、35 ヵ国中 21位と、英国(88,427 ドル)やカナダ(88,359 ドル)をやや下回る水準です。

労働者1人あたりの労働生産性 時間あたりの労働生産性
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版

他国との比較で労働生産性を語る上では注意が必要です。国際比較を行う上では「労働生産性を計算する上で必要な数字」を用いていますが、これらの数字の算出方法が国によって異なるからです。例えばGDP(国民経済生産)は経済格差や物価の違い、税金などの違いについては反映されていません。

日本国内でもGDPの算出方法が変わったり、物価・税金の違いはあります。しかしながら、日本国内で見た場合と他国でみた場合、まだ違いは少ない方です。

今回は、企業が自社の労働生産性を向上させるための指標を明確にするために、日本の労働生産性の概要やポイントなどについてご説明します。

日本国内における「労働生産性」の違いとは?

労働生産性について確認しましょう。「生産性」とはそもそも、投入資源と産出の比率を意味します。投入した資源に対して産出の割合が大きいほど、生産性が高いということになります。

生産性=産出(Output)/投入(Input)

「労働生産性」とは「産出(労働の成果)」を「労働量(投入量)」で割ったもののことです。言い換えれば「労働者1人あたりが生み出す成果」あるいは「労働者が1時間で生み出す成果」の指標です。

労働生産性とは
出典元『BOWGL』労働生産性とは?混同しがちな定義と計算式をわかりやすく解説

労働生産性には、物的労働生産性と付加価値労働生産性の2つの種類があります。

  • 物的労働生産性:「産出」の対象を「生産量」「販売金額」として置いたもの
  • 付加価値労働生産性:「産出」の対象を「付加価値額」として置いたもの

さらに「付加価値労働性」には「実質労働生産性」と「名目労働生産性」の2種類があります。

  • 実質労働生産性:「産出」の対象が「固定価格」としておいたもの
  • 名目労働生産性:「産出」の対象が「時価」としておいたもの

日本の労働生産性の推移と考察について

現在の日本の労働市況を見ると、戦後 2 位の「いざなぎ景気」を超え、2016 年度から2017年度にかけても景気拡大基調にあるとされています。実際、内閣府の景気動向指数をみても、月単位での短期的な落込みこそありますが、上昇トレンドが継続しています。

日本の労働生産性の推移
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』日本の労働生産性の推移

日本の名目労働生産性は、リーマン・ショックを契機に大きく低下したものの、2011 年度(780.9万円)から緩やかながら改善傾向が継続しています。2016 年度も832.9 万円と、過去最高を更新しています。

景気回復基調はあるものの、人手不足に対応する形で女性や高齢者を中心とした就業者の増加が生産性を下押しすることにもつながっており、それが2016 年度、労働生産性の上昇幅の鈍化要因の 1 つにもなっています。

業種別の労働生産性の違いと考察について

業界によっても労働生産性の傾向は違いがあります。

従業員1人あたりの付加価値額(労働生産性)
出典元『総務省統計局』経済センサスと経営指標を用いた産業間比較

日本では、情報通信業や学術研究、卸売業は一人当たりの付加価値額が高くなる傾向にあり、飲食サービスや宿泊、福祉や介護といったサービス産業では、一人当たり付加価値額は低くなる傾向がみられます。

サービス産業においては、労働者のスキルアップにつながる社員教育や労働環境の整備、労働生産性向上を目的としたIT設備への投資などが求められています。

従業員規模別の労働生産性の違いと考察について

従業員規模別でみてみると、全体の労働力のうち約7割を占める中小企業の労働生産性の平均値は、大企業における労働生産性の平均値を下回っています。こうした状況に鑑みるに、日本全体の総付加価値額を引き上げるためには、大企業だけでなく、中小企業の労働生産性も向上させることが重要であるといえます。

大企業は中小企業と比べると資本が潤沢なため、労働あたりで動く金額が大幅に違うことが理由として挙げられます。しかしITの利活用ができていない、生産性向上のための設備投資ができていないなどの改善が可能な点は多くあり、ビジネスモデルの見直しでなく、既存業務の見直しでも改善が可能です。

労働生産性絵と労働構成比(規模別、業種別)
出典元『中小企業庁』中小企業の生産性分析

「宿泊業、飲食サービス業」をはじめとするサービス業については雇用全体に占める構成比が高い一方で、他業種と比較して労働生産性の平均水準が相対的に低くなっています。

都道府県別の労働生産性の違いと考察について

日本国全体の総生産を表すのにGDPがあるのに対して、都道府県単位の総生産を表すのが「県民経済計算」です。

理屈上は県民経済計算の合計がGDPにあたりますが、都道府県間の取引は把握が困難なため、名目ベースで1%程度の誤差があると言われています。(実質だと数%になると言われますが、大枠で違いは無いとされています。)

都道府県単位の平成25年度版県民経済計算【生産側、実質】を、平成25年度版県内就業者数で割り算=都道府県単位の労働者1人あたりの生産性にあたります。


出典元『マーケティングメトリックス研究所』「日本の生産性は先進国に比べて低い」という数字を疑って見る~1人あたりという罠~

赤い棒が、全県の平均を表しています。一番左端の東京都が突出して高く、一番右端の沖縄県が抜きんでて低いことが分かります。

経済活動別の「1人あたり生産性」を、平成22年国勢調査を参考に算出してみると、経済活動単位で見ると1人あたりの生産性、分野により大きな差異があることが分かります。

都道府県と産業別比較
出典元『マーケティングメトリックス研究所』「日本の生産性は先進国に比べて低い」という数字を疑って見る~1人あたりという罠~

労働生産性の変遷と現状を、まずは把握する

日本の労働生産性は過去最高水準とはなっているものの、産業や会社規模、都道府県別に大きな開きがあるのが現状であり、自社の労働生産性を向上させる目安としては、自社の条件と最も近い条件で決めるのが最適です。

日本企業の労働生産性を向上させるには、従業員のスキルアップや業務改革が重要となります。従業員満足度の向上や労働環境の整備、IT投資の促進、業務に対する意識改革など、さまざまな角度での小さい積み重ねも必須です。多方向の積み上げが、将来の労働生産性の向上につながるのです。

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