日本の労働生産性を国際比較すると…?
グローバル化などで、企業を取り巻く環境は刻一刻と変化し、働き方なども大きく様変わりしている昨今。「生産性向上」に関する議論も、よく耳にするようになりました。日本に関して問題視されているものの一つに『日本の労働生産性は世界各国と比較した場合、それほど高くはない』事象があると言われています。
「労働生産性」が現在の安倍政権が推進する『働き方改革』の柱の一つに取り上げられている背景には、少子化による労働人口の減少や売り手市場による労働力不足などの影響を受けて、外国人人材や女性の活躍推進などの労働人口の拡大だけでなく、1人あたりの労働生産性を向上させ、労働力不足の解消を目指していこうとする考え方があります。
労働生産性の最近の国際比較を見てみると(2017年版)、以下のような特徴があります。
- 日本の時間あたりの労働生産性は46.0ドル(4,694円)
- OECD加盟35カ国中20位
- 主要先進国である7カ国の中で見れば最下位(米国の3分の2の水準)
日本の労働生産性は、他の主要先進国と比較すると順位はふるわず、運輸や卸売、小売業、飲食・宿泊業などの主要分野が弱い状況にあるのが特徴の一つです。
日本の労働生産性の現状を把握するために、他の先進諸国の状況や特徴などと比較しながら掘り下げてみます。
日本の労働生産性を国際比較した場合の現状と違い
公益財団法人日本生産性本部が2017年 12 月に発表した「労働生産性の国際比較 2017 年版」は、日本の労働生産性が国際的にみてどのあたりに位置しているのかを明らかにするためのデータです。
日本の労働生産を見てみると、日本の時間当たり労働生産性は46.0ドルで、順位はOECD加盟35ヵ国中20位と、1980年から見ても大幅な順位変動がないことが分かります。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
「1人あたり」の労働生産性と諸外国との数値の開き
日本の就業者1人当たり労働生産性は、81,777ドルで、OECD加盟35ヵ国中21位となっています。1時間あたりの順位と同じく、1980年から大幅な順位変動はありません。
時間当たりでみても、就業者1人あたりで見ても先進諸国の中では低水準であり、アメリカと比較しても2/3程度の数値に留まっています。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
製造業での労働生産性と数値の開き
高い技術力を武器に、世界市場でも存在感の大きい製造業における労働生産性を見てみましょう。日本の製造業の労働生産性は、95,063ドル。OECD主要29か国中14位となっています。
1995年~2000年ぐらいまでは世界1位でしたが、順位が低下しています。労働生産性自体は1995年の88,091USドルに比べると、2010年の95,063USドルの方が上がってはいますが、他国の労働生産性の成長が目覚ましく、順位を落とした形となっています。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
順位が低下した原因の一つとして、為替レートが円安になったことも一つの要因です。2015年は前年比で、円ベースでは7%向上していますがUSドルベースでは円安により14%程度低下した結果となっています。
2005年の時点では上位15カ国に入っていなかったスイスが2010年に1位になった背景として、充実した社会保証による生活の質の高さや教育の質の高さによって、精密機械や医薬品、バイオテクノロジーなどの分野でグローバル展開する企業がスイスに本拠点を構えるようになったことが挙げられます。精密機器かつ高級腕時計メーカーの一つであるOmegaも展開するスウォッチグループ、製薬会社の売上高2位のロシュや3位のノバルティス、世界の売上順位12位を誇り亜鉛や銅の世界シェアが50%を超えるグレンコアなどがスイスに本拠点を構えています。
OECD諸外国と日本の労働生産性に大きな開きがある理由とは?
日本の労働生産性があまり高くないことは、労働市場やワークスタイルを考える上で大きな問題と言われています。国際比較の数値は目安として重要である一方で、明確な評価材料とはいえない部分もあります。
国際社会における労働生産性はGDPを元に算出されており、日本企業が算出する労働生産性の計算式とは異なります。
国際社会における労働生産性は「国民経済生産性(GDP/1年間の平均就業者数×労働時間)」で算出されており、労働者一人当たりの労働生産性とは異なります。国際社会において、日本の労働生産性が低いと指摘されている数値の根拠は「国民経済生産性」であり、労働者一人あたりの労働生産性を指摘されていないという点も理解しておかなければいけません。
国民経済生産性は国ごとに事情が異なるため、実際の生産性と比較すると、算出結果が前後します。計算式に使用されている就業者数は、その国独自の雇用体制・慣習によっても影響されます。日本においては、終身雇用などメンバーシップ型雇用が前提となっており、失業者(完全失業者)や求職者が出にくい労働環境にあるため失業率が低く、国民経済生産性の数値は低く算出されがちです。
各国の経済状況、為替変動の影響、法人税や所得税のルールの違い、雇用についての法律や個人の働き方などが異なります。さらに国民性やその国のさまざまな事情を背景に、得意産業も異なってくるでしょう。これらの点は、上記の統計には反映されにくいという点は認識しておくべきでしょう。
つまり、日本と国際社会の労働生産性の違いを語る場合は、
- 国ごとの経済構造によって1人あたりGDP換算は異なる
- 地方ごとの経済発展格差を考慮できていない
- 企業労働生産性の代表値ではなく、全体の平均としてのマクロ的数値
といった点で検討の余地があります。
独立行政法人・労働政策研究・研修機構の調査による「国民1人あたりの年間総労働時間の推移表」を見てみると直近の数値では、日本は年間総労働時は1,735時間まで減少しています。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研究機構』一人当たり平均年間総実労働時間(就業者)
「主要先進7か国の時間あたり労働生産性推移」とあわせて見た時「日本の1人あたり総労働時間が減少している中で、生産性の順位は変わっていない」ということが読み取れるのですが、「日本人の労働生産性はむしろ上がっているのでは」という意見が出ることもあります。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
しかし、1人あたりの就業時間が減少した背景には
- 非正規(パートタイマー・アルバイト)が労働力人口の4割を占めるまでに増加している
- 上記総労働時間はパート・アルバイトの非正規も含んでいる
という2点があることを留意しておく必要があります。
フルタイムの正社員に限定すると、日本の1人あたり年間総労働時間は20年以上「2000時間前後」で横ばいなのです。つまり、極端な言い方をすれば、「フルタイム社員の時間あたり生産性は1980年代から変わっていない」という表現もできてしまうのです。
一概にこの考え方が正しいと決めつけることも危険です。マクロな数値だけを見て、企業・業界レベルの労働生産性を論じることは適切ではないのです。
日本と国際社会の労働生産性の現状を知り、組織の活性化について考える
国際社会で見た日本は労働生産性が低いとされていますが、失業者の定義や国外からの労働者の流入、パートタイマーなど有期雇用労働者の増加などから、単純に比較して「良い・悪い」が語れるものではない、ということが分かりました。
現在の働き方改革で「労働生産性の改善」が推進される背景を改めて振り返ると、労働力人口が長期的に見て減少していくこと、その中で発展していくためには1人あたりの労働生産性を高める必要がある、ということが挙げられます。
労働生産性を向上させる本来の目的を考えた際、まず私たちが考えるべきは「自社でいかに労働生産性を高めていくか」ということでしょう。昔からずっとやっているからではなく、無駄な業務の見直しや業務の効率化など、自社での労働生産性を向上させるための施策を推進していくことが今求められているのです。