風邪をひいても働き続ける日本企業の労働者
働き方改革が叫ばれて久しいですが、会社によってはすぐにフレキシブルな働き方に移行できないこともあるでしょう。最近、社員の生産性を語るうえで重要なワードの一つに「プレゼンティーイズム」があります。
HR Proの調査によると「年次有給休暇の取得率」は40%が4割の企業であり、81%以上の企業は7%と、有給休暇が取得されていない現状について報告されています。
出典元『HR Pro』HR総研:「働き方改革」への取り組み実態調査【3】有給休暇取得
2019年4月1日から有給休暇の取得が義務化されていますが、実際にはまだまだ各企業が施策段階です。有給休暇を取得させるのは企業としての義務ですが、100%の取得率があるヨーロッパなどと比較すると、日本企業の取得率には大きな差があります。
日本人がなかなか休暇を取らない理由として「人手不足」「緊急時のためにとっておく」などが挙げられており、風邪でも仕事を休まない人は過半数を超えているのが現状です。
今回は、プレゼンティーイズムが発生する原因や改善策について説明します。
プレゼンティーイズムが発生する原因と改善策について
プレゼンティーイズム(Presenteeism)とは、社員が出社していても、何らかの不調のせいで頭仕事の能率が上がらず、本来発揮されるべきパフォーマンスが低下している状態のことです。日本語では「疾病就業」と訳されています。社員の健康に関するコストの中には、医療費や欠勤なども含まれますが、プレゼンティーイズムが蔓延することによる労働損失コストは、それらを大きく上回るとされています。
体調不良などで社員が会社をたびたび、あるいは無断で欠勤することを「アブセンティーイズム(absenteeism)」と言います。プレゼンティーイズムは、このアブセンティーイズムに「プレゼント(present)=出席している」を組み合わせて考案された造語とされています。
これまで企業の労務管理では、伝統的にアブセンティーイズムによる生産性の低下が問題視されてきました。最近は、出社はしているけれど業務に身が入らない「プレゼンティーイズム」のほうがより組織全体としての損失に与える影響が大きいことが判明しています。
出典元『厚生労働省』「健康経営」の枠組みに基づいた保険者・事業主のコラボヘルスによる健康課題の可視化
プレゼンティーイズムが発生する原因について
日本でプレゼンティーイズムが多くなる背景には、効率よりも、個人のがんばりや協調性などが評価される職場環境や価値観があるといわれてます。仕事への責任感が強い人は、現在の会社の状況や人手不足などの状況を考えて「自分が休むわけにいかない」と感じてしまいがちです。
同僚や上司とのコミュニケーションが良好な人ほど体調が悪いときはしっかり休養する傾向があるそうです。つまりは、個人の意識だけではなく、職場内でのコミュニケーションやサポート体制の良しあしが、プレゼンティーイズムに影響しているということがいえます。
病気や疲労などで体調が悪いときは、十分な休息を取ることでその後の仕事のパフォーマンスが高まります。職場全体としての効率と成果を上げるためには、困ったときは助け合える、風通しの良い職場環境の整備も重要です。
プレゼンティーイズムの原因の上位に挙げられた疾病や症状を紹介します。
1.メンタル面の不調
不安感や不眠、イライラ、人間関係に起因するストレスなどは、仕事の生産性に最もネガティブな影響を与えます。
2.心臓の不調
不整脈、狭心症など心臓の不調も生産性に大きな影響を与えます。心臓の不調は、集中力やモチベーションの低下につながりやすいという結果も出ており、注意が必要です。
3.月経不順、PMS(月経前症候群)などによる不調
女性の場合、避けることができないのが月経です。これによりプレゼンティーイズムに陥ることもあります。
月経不順やPMSなどによる不調では「自分が役に立つ人間だと思えない」と自己否定してしまう傾向があるともいわれており、身体とともに精神面でもケアが必要です。
4.偏頭痛、慢性頭痛
頭痛による集中力の低下は大きな問題です。これも、プレゼンティーイズムの要因となりうるものの一つです。
5.その他の要因
ある調査では、以下のいずれの症状も生産性を通常の70%前後まで低下させるという調査結果が出ています。
・胃腸の不調、呼吸器の不調 ・目の不調(眼精疲労、ドライアイ、緑内障など)
・首や肩のコリ ・腰痛 ・花粉症などのアレルギー性鼻炎(季節性・通年性)
・糖尿病 ・風邪(ひきやすく、なかなか治らない)
日本のビジネスパーソンの中では、今でも「勤勉は美徳」という価値観があり、多少の風邪程度であれば体調が悪くても出社する人は決して珍しくありません。
気象情報会社のウェザーニューズが行った「日本の風邪事情」調査によると、「日本人が風邪で会社などを欠席するボーダーラインは平均で37.9度」という結果になっており、38度まで上がらなければ、休もうとはしないことがわかっています。
プレゼンティーイズムの改善策について
プレゼンティーイズムは、職場の労働生産性低下要因として注目されています。経済産業省の『企業の「健康経営」ガイドブック』によると、健康関連総コストのうちプレゼンティーイズムによる損失は、約78%とも言われています。
企業としてもさまざまな課題の多いプレゼンティーイズムですが、解消は企業の損失を防ぎ、生産性向上に大きく貢献します。まずはプレゼンティーイズムの観点から、常日頃から従業員の状態を管理することが重要です。そのためには、主に、2つの対策が考えられます。
健康管理プログラムなどの組織としての実施
社会にはさまざまな健康管理プログラムがあります。こういったプログラムを適切に活用して、従業員の健康を管理することも組織としての責務です。プレゼンティーイズムを低減、ゼロにするため、定期的な健康診断だけでなく、より短期的なサイクルで健康管理を推進しましょう。
社内で健康に関するセミナーを実施するなどして、社員の意識を向上させることも必要です。
社員が気軽に健康相談できる場を社内に作る
健康プログラムの実施推進だけでなく、日常的に健康相談ができる場所を用意することも重要です。たとえば「自分自身の健康問題について気軽に話せる同僚や上司、部下がいる」と答えた人は、メンタル面の不調が少ないというアンケート結果もあります。
周囲に相談できる環境があるだけで、心身の不調が軽減できることが調査結果から明らかになっています。
組織として「プレゼンティーイズム」対策を徹底する
プレゼンティーイズムは「金銭的な不安」や「休んでも協力してもらえない」など様々な要因で発生し、短期的な改善が可能なものから中長期的な改善が必要なものなどさまざまです。
プレゼンティーイズムは企業の生産性を大きく左右するものです。今回紹介した手法でプレゼンティーイズムを測るだけでなく、社員の労働時間や休暇状況などを踏まえて、総合的に対応することが求められているのです。