内定取り消しでの損害賠償事例とは?過去の裁判例から判断基準を学ぼう

内定取り消しにはさまざまなリスクがある

せっかく採用しても、企業としてのさまざまな理由で内定辞退や内定取り消しに至ることは少なくありません。リクルートキャリアの『就職白書2019』によると、目標の採用人数100人で、167.2人に内定を出しても、実際に入社するのは90.6人。内定辞退率にすると、約45%と非常に高い状態であるのが現状です。

「採用予定数を100」とした場合の内定出し人数および内定数の割合
出典元『リクルートキャリア』就職白書2019

近年の大学生の内定取得者数の平均値は2社以上を超え続けており、学生も複数の内定を取得しているのが現在では主流となっていることも見て取れます。

内定を取得した企業の総数
出典元『リクルートキャリア』就職白書2019

内定辞退が発生することを前提に多くの内定を多めに出してしまうことがありますが、内定後に企業・求職者の状況が変わった後に行われる「内定取り消し」は、法的な制約も多く実際に行うにはさまざまなリスクがあります。

今回は内定取り消しが違法になった事例について説明します。

内定取り消しにおける裁判例を確認してみよう

内定取り消しが認められなかった事例

1.大日本印刷事件

学生A氏は、大学の推薦でB社の求人募集に応じて就職試験や身体検査などを受け、採用内定の通知(文書)を受け取りました。しかし入社予定日が迫った2か月ほど前にB社から突然、内定取り消しの通知を受け、通知には取り消しの理由も記載されていませんでした。

A氏の大学では『推薦する企業を二社に限り先決優先』という方針を徹底していました。そのため、A氏はB社からの内定通知後に応募済みだった他社の応募を辞退していました。B社からの内定取り消しの通知時期が遅かったため、A氏は他社への就職を決められないまま卒業を迎えることになりました。

この内定取り消しは無効であると判断されました。判断の根拠となったポイントは大きくは3つあります。

1つ目は、労働契約の成立とその効力発生時期を内定時点とし、就労の始期は「大学卒業直後」で、それまでの期間は解約権を留保した労働契約が成立しているとした点です。解約権留保付労働契約によって、会社側と内定者の間で取り交わした誓約書に記載された内定取消事由などにあたることがあれば会社側は解約ができることになります。

2つ目は、採用内定の取消は採用内定当時知ることができない、また知ることが期待できないような事実であり、これを理由として採用内定を取消すことが客観的に合理的と認められ社会通念上相当として是認することができるものに限られる点です。判決では、内定を取り消す理由が適法か否かは、解約権留保の趣旨や目的と照合し、客観的合理性と社会的相当性の点から判断する必要があるとしました。

3つ目は、個人の印象での内定取り消しは社会的相当性を是認できるものではない点です。B社は内定者が陰気な印象で当初より不適格と思われる面があったといいます。ただし、それを打ち消すような材料が出てくることを期待して内定を出したものの、そのような材料が出てこなかったために内定取り消しをしたのです。

以上から、解約権濫用というべきとして内定取り消しを無効と判断しました。

2.インフォミックス事件

ヘッドハンティングでスカウトした個人に対し、経営悪化を理由に行われた内定取り消しを無効とした事例です。

採用内定者は実際に勤務していませんが、労働契約が成立しているため他に就職することができないなど拘束された状態にあるとしました。そのため、解雇権濫用法理のほかに整理解雇の有効性を判断する際の要素を総合的に考慮して判断すべきとしています。

「整理解雇の4要素」ともいわれる有効性の判断に関する要素は以下の4つです。

  • 人員削減をする必要性
  • 人員削減の手段として整理解雇をする必要性
  • 解雇者に選定された理由の合理性
  • 整理解雇の手段の妥当性

裁判では、経営悪化のために既存の社員に希望退職を募ったことや、内定者に辞退勧告や相
応の補償を申し入れた、また職種変更を打診したなどの企業側の努力は認めています。その点で企業の状態は人員削減の必要性が高く、取消事由には客観的合理性があると判断しました。

しかし内定辞退の勧告日は入社日のおよそ2週間前という時期で、その時点ですでに退職届を提出しており、内定者は前職に留まることができない状態でした。企業側の対応によって内定者はさまざまな不利益を被ったことを考えると、取消事由が客観的に合理的で社会的にも相当とはいえないとして無効にしたのです。

3.宣伝会議事件

入社前に行った研修不参加だった内定者に対し、研修の欠席を理由とした内定取り消しについて争われた事例です。(東京地判:平成17年1月28日)

判決では、内定者が研修参加に対して明確な合意ではなく、特に意義を述べなかったという黙示的な同意であったとしても会社と内定者には研修参加の合意が成立していたとしました。一方で、内定は効力始期付の労働契約であり、入社日に効力が発生するという立場を採用しています(効力始期付労働契約説)。効力始期付労働契約説を取り入れる場合、入社前の内定者に就業規則を適用することや入社前研修への参加を命じることはできない、と考えられます。

判決はで、入社前研修と内定者の勉学(研究など)の両立が困難なときには、内定者は学業(研究)を優先して研修を欠席することが可能であるという留保が付いた労働契約であるとしました。結果として、内定取り消しを企業側の債務不履行として企業に対し損害賠償を命じる判決が下されました。

本件は内定者が学業に支障があるなどの客観的合理的な理由により、研修の欠席を申し出た場合、企業は入社前研修を免除するなどの義務を負うことを示した事例とされています。

内定取り消しが認められた事例

4.日本電信電話公社事件

公安条例等違反の現行犯として逮捕、起訴猶予処分を受けた学生に対して、企業側の行った内定取り消しを認めた事例です。(S48.10.29大阪高判)

判決では、学生が反戦青年委員会の指導的地位にある人材で、かつ指定の機関に届け出なくデモなどの違法行為を起こしたことなどを企業は内定前に知ることができず、取消事由は合理的であるとしました。

この事例では、労働契約の成立および効力の発生時期を次のように考えています。「社員公募に対する応募は労働契約の申込であり、これに対する同公社の採用通知は申込に対する承諾であって 、これにより、応募者と同公社との間に、労働契約の効力発生の始期を採用通知に示された採用の日とし、解約権を留保した労働契約が成立したものと認めることができる」

本件は、労働契約の効力発生時期を「採用の日」とし、内定後の期間は始期付解約権留保付労働契約が成立しているという立場を採用しています。留保解約権の行使は、留保解約権の趣旨や目的に照らして、客観的合理性や社会的相当性が是認できるものに限られるとし、当該内定取り消しを有効と判断しました。

内定における雇用契約は、実際に働き始めた労働者の雇用契約とは若干の相違はありますが、解雇に相当するような特段の理由がない限り、内定取り消しは難しいと考えるべきでしょう。

内定取り消しによるリスクを理解しておくことの重要性

内定取り消しによる損害賠償請求裁判はいくつもあり、同様の判断基準が下される内容であれば、即座に違法としてみなされる可能性が高いものです。

労働契約締結(採用内定)時に説明があるか、説明がないのであれば客観的かつ合理的な理由があるのかなど、法的な観点から判断しなければならないこと、判断が難しい場合には弁護士などと相談しておきましょう。

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