経営人材の確保・育成は多くの企業で課題となっている
経営人材の育成は、人事の重要課題として上位に挙がるテーマのひとつです。
経済産業省の調査によると、将来の経営人材の確保・育成について「順調」と答えた企業は7.2%しかなく「どちらかというと順調」を含めても37.6%となっており、過半数の企業が経営人材を確保・育成できていない現状が明らかとなっています。
経営人材の育成方法は、過去の多くの調査や文献などで、基本的なプロセスやポイントが示されてきました。また、米国GE社やP&G社といった有名企業の事例は、リーダー育成のベストプラクティスとして共有されています。
経営人材の育成に関しては、日本でも具体的な取り組みをしている企業の数は過半数に達する一方で、有効に育成できていない現状が上記の調査からはっきりしており、多くの企業で重要な課題として取り上げられているのが現状です。
今回の記事では、経営人材の意味や定義、経営人材を採用・育成するために必要な要素についてご紹介します。
経営人材とは?意味や定義、採用・育成のために必要な要素について
経営人材とは、経営や事業の目的・目標・課題を設定できる素質を持つ、経営感覚を兼ね備えた人材を意味する言葉です。
経営人材は、単に業務遂行能力が優れているだけではなく、ビジネスにおける長期的な目線や周囲の信頼を集めるリーダーシップなど、さまざまな要素が求められます。
経営人材に求められている役割とは?
経営人材の役割は「意思決定をする」「戦略を立てる」「組織をつくる」「目標を決める」「計画を立てる」「予算を決める」「既存事業を進める」「新規事業を考える」「人材を育成する」など、挙げ始めればきりがないほど多元的です。
経営人材の仕事は、ひとつの業務や領域でプロフェッショナルになることではありません。かの有名な経営学者のドラッカー氏は「経営人材は、組織や社会において、何を実現しようとしているのかを明確な言葉で特定し、何をすべきで何をすべきでないかをはっきりさせ、自分がいないところでも、組織の人員一人ひとりが物事を判断できる物差しをつくること」だと示しています。
経営人材の役割は、組織の使命の明確化や目標を決定し、目標に対する優先順位や評価基準を設定して、なおかつ維持することなのです。
経営人材に必要な視点としては「長期・大局・根本・高志」の発想が大切であると言われています。
- 長期:長期的な視点で、5年後・10年後・30年後と、世の中の事象を捉える
- 大局:自分や自部門のことだけではなく、組織・市場・社会全体を見ている
- 根本:今起こっていることの、本質的な原因を把握している
- 高志:世の中に対する思い、貢献したいという想いがあるか
(自分の志だけでなく、企業の理念・ビジョンにも共鳴していること)
経営人材を育成するための経営層の役割とは?
経営人材の育成における経営者・経営層の役割は、主に以下の4点が挙げられます。
- 求める人材像の明確化
- 経営資源の提供
- 継続的に関心を示す
- 健全な危機意識と安全心理の醸成
1.求める人材像の明確化
経営人材の育成における経営者・経営層の役割の1つ目として、求める人材像の明確化が挙げられます。
求める人材像を考える上で重要なのは、経営戦略を踏まえて考えることです。新しい製品やサービス開発を戦略の柱とする場合であれば、常にマーケットの最新情報にアンテナを張り、既存の枠組み以上の発想ができる人材が求められます。
2.経営資源の提供
経営人材の育成における経営者・経営層の役割の2つ目として、経営資源の提供が挙げられます。
経営資源とは、人材育成を担う管理職やOJT担当者などの「人」、育成のための「時間」、必要な「資金」などを指します。
人材の育成には時間を要し、かつ成果の可視化が難しいからこそ、経営層が強い意思を持って継続的に経営資源を配分する必要があります。
3.継続的に関心を示す
経営人材の育成における経営者・経営層の役割の3つ目として、継続的に関心を示すことが挙げられます。
人材育成の指示だけして現場に任せっきりでは、実際に育成を行う現場の社員にしてみれば、経営層の人材育成への関心が場当たり的な思い付きなのではないかと感じてしまいます。
経営層が組織の人間の成長に対して常に関心を示し、人材育成に対する意識の高い環境を醸成しましょう。
4.健全な危機意識と安全心理の醸成
経営人材の育成における経営者・経営層の役割の4つ目として、健全な危機意識と安全心理の醸成が挙げられます。
経営人材の育成に取り組む際は、市場・競争の厳しさを社員に認識させて自己を高める意識を醸成しつつ、失敗を恐れず自己変革に取り組める安心感を与えることが大切です。
経営人材に求められる要素とは?
経営人材に求められる要素としては、物事がうまくいっている時でも驕り高ぶらず、逆境時でも落ち込まない、精神的な安定感が挙げられます。
ビジネスを前進させるためにあえて喜怒哀楽を表す必要がある場合もありますが、経営人材の立場としては「頭の一部は常に冷めている」ことが大切です。いかなる局面でも状況を冷静に分析し、次に何をすべきか・何をしないべきかを考え、時には自分の感情を殺してでも行動できる一種の冷徹さが求められます。
経営人材に求められるのは「この人であれば、企業や組織、社会へのコミットメントを実現できる」と周囲から期待される能力やカリスマ性であり、経営にかかわりたいという意欲を持っているだけでは経営人材に向いているとは限りません。
経営人材に向いている人とは、組織や事業が重要な局面を迎えた時にこそ、自らのテーマや覚悟を持ってメンバーと共に乗り越えようと奮闘し、局面を打破するための問いに常にこたえられる人なのです。
経営人材を育成するために人事部門ができる取り組みとは?
経営人材の育成は、中長期的に、継続して取り組む必要があります。人事主導で経営人材の育成に取り組むためには、大きく分けて4つのステップがあります。
- 人材要件を設定する
- 人材を把握し、候補者を選ぶ
- 候補者を評価・プールして育成計画を立てる
- 候補者に成長機会を与える
人事部には、既存事業を安定して継続させる人材の採用・育成と、新しい価値を創造する人材の採用・育成が同時に求められます。資金が多少枯渇していても優秀な人材がいれば事業は上向きますが、潤沢な資金があっても人材がいなければ組織はやがて縮小してしまうでしょう。
企業や事業の存続は、人材を育成できるかどうか、特に経営人材を育成できるかどうかにかかっています。経営人材を育成する上での人事部門の役割は、誰を・どのように育てるのかを考え、育成に必要な人的・時間的・金銭的コストを捻出することといえるでしょう。
自社にとっての経営人材像を明確化しよう!
経営人材とは、経営や事業の目的・目標・課題を設定できる素質を持つ、経営感覚を兼ね備えた人材を意味する言葉です。
経営人材の採用・育成は、多くの企業が取り組みつつも思った通りの効果があげられず、人事部の重要な課題となっています。
経営人材の育成や採用に成功している企業には、自社における経営人材に求められるスキルや能力を明確にしている傾向があります。自社における経営人材とは具体的にどのような人材なのか、経営層や人事部が主体となって明確化し、採用・育成業務に落とし込みましょう。