長時間労働の現状とは?日本企業の実態や国際社会からの比較について

是正すべき長時間労働の実態について

長時間労働は日本社会が抱える大きな問題として注目されています。政府が推進する「働き方改革」では、長時間労働は優先的に解決すべき課題として挙げられており、2019年4月1日より施行された働き方改革関連法案でも、労働時間規制などの内容が盛り込まれています。

政府が長時間労働に着目した背景には、慢性的な長時間労働による精神障害の労災請求や支援決定件数が増加していることや、過労死などが社会的な問題として取り上げられていること、出生率の低下などとも関連していると考えられていることなどが挙げられます。

長時間労働の実態はどうなっているのでしょうか?内閣府の報告によると、一人当たりの年間労働時間数は減少してますが、その要因として「非正規・パート職員」などの短時間労働者の増加を挙げています。長時間労働者割合の推移を見ても、リーマンショックが発生した2008年以降は急激な低下が見られたものの、長時間労働者の割合は再度高比率に戻っています。


出典元『内閣府』第2章 働き方の変化と経済・国民生活への影響 

長時間労働は企業にとっても大きな問題であり、慢性的に労働時間が長い企業は、労働環境が悪い「ブラック企業」であると言われてしまう大きな要因になっています。

今回は長時間労働の現状や国の取り組みなどについて説明していきます。

長時間労働の定義とは

長時間労働の定義から説明していきます。

周りの企業や人間が比較的長く働いている環境にいれば、自分が長時間労働をしているという自覚も薄れてくるように、長い、短いといった感覚は相対的なものなので「具体的に何時間以上が長時間労働になる」という明確なラインはありません。

労働時間は労働基準法により原則「1日8時間、週40時間以下」と定められており、法定労働時間を超えて残業させる企業はサブロク協定の届出が必要になります。

協定で許されている時間外労働は原則月45時間以下なので、月に60時間前後の残業が長時間労働のおおまかな基準になるでしょう。心身に危険が及ぶ「過労死ライン」はおよそ80時間と言われています。

日本国内における労働時間の推移

全労働者をみると、日本国内における労働時間はおよそ年間1700~1800時間程度で推移しており、近年は減少傾向にあります。主な要因はパートタイマーの増加にあると考えられています。

実際の労働時間はより長時間になることを示唆した調査データもあります。日本労働組合総連合会の調査によると、賃金不払い残業(サービス残業)をせざるを得ないことがあると回答した労働者は約4割であり、正社員においては過半数を超えています。

サービス残業をせざるを得ないことがあるか
出典元『日本労働組合総連合会』労働時間に関する調査

同調査では、一ヶ月の平均残業時間についても触れられています。正規労働者における残業時間が40時間を超える労働者は、最も比率の少ない一般社員でも14.0%となり、内閣府の報告よりも多い比率となっています。

一ヶ月の平均残業時間
出典元『日本労働組合総連合会』労働時間に関する調査

経団連の調査では、300人以上の従業員規模の企業であれば総労働時間が減少しているのと報告がありますが、300人未満の企業では総労働時間が増加していることがわかります。日本は中小企業が99%を占めていることからも、実態としての総労働時間は長時間になっていることが読み取れます。

従業員規模別総労働時間
出典元『日本経済団体連合会』2018 年労働時間等実態調査 集計結果

国際社会における日本の労働時間について

日本は長時間労働が課題として指摘されることが多いですが、突出して高いわけではありません。ただし、国によって調査方法が違うことや、経団連の調査では日本の正社員の労働時間が2,000時間を超えていることから、実態としては長時間労働が突出して高くなる可能性があります。

日本においては育児休暇の取得率や有給休暇の消化率も低いため、年間総労働時間は労働時間の短いドイツなどと比べて約400時間も長いなど、大きな差がついています。

一人あたり平均年間総実労働時間
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』国際労働比較 2018

長時間労働の根本的な解決を目指して

日本の企業において長時間労働は常態化しており、2017年の調査では、実に4割以上の企業で違法な時間外労働が常態化していました。

平均労働時間は一般に事業規模に応じて増加するとされていますが、事業規模が小さくなればなるほど実労働時間が増加する傾向にあるため、長時間労働は事業規模にかかわらず大きな問題として扱わなければなりません。

一般労働者の労働時間は長らく変化していませんが、定例業務であるマニュアルワークから付加価値を生み出すナレッジワークが求められるようになり仕事の質が変化したこと、市場のグローバル化に伴う競争激化の一方で、労働力人口が減少しているため、1人あたりの仕事の量が増加していることなどから、従業員を取り巻く労働環境は厳しい状況にあります。

人事目線では、上限時間の設定などの長時間労働を是正するための取り組みも重要にはなりますが、経営者目線での根本となる労働生産性の向上などの取り組みも同時に行わなければ、真に長時間労働を是正することはできないでしょう。

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