コミュニケーションの基礎になる「傾聴」スキル
20代前半の若手人材や、業界・業種未経験の求人では「コミュニケーション能力」が重視される傾向にあります。
経団連の調査をみると、特に新卒採用の現場では2000年以降ずっとコミュニケーション能力は他の項目を大きく離して圧倒的に重視されていることがわかります。
出典元『一般社団法人 日本経済団体連合会』2017年度 新卒採用に関するアンケート調査結果
コミュニケーション能力が重要な理由はたくさんあります。業務上で生じるやりとりを円滑にすることで、生産性の向上はもちろん職場の雰囲気が良くなります。それ以外にも、会議での発言の促進は組織の発想を豊かにし、社外コミュニケーションは顧客との信頼関係構築に不可欠です。
しかし問題は「何をコミュニケーションと呼ぶか」というところにあります。採用面接では「私の長所はコミュニケーション能力の高さです」とアピールする方が多くいます。しかし、詳しく聞いてみると、どうやらプライベートでの人間関係の豊かさだったということは少なくありません。大切なのは、プライベートとビジネスでは想定している「コミュニケーション」が違うということです。
「コミュニケーションスキル」という概念は抽象度が高く、ビジネスで役立つ形で習得するには具体的に理解することが大切です。そのためにもコミュニケーションスキルを細分化し、具体的なスキルに落とし込んで考えることが重要になります。
この記事では、コミュニケーションスキルのなかでも基礎にあたる「傾聴」について説明します。
コミュニケーションスキルとはなにか?
コミュニケーションスキルとは、対人関係を健全に保つための能力です。プライベートでもビジネスでも「対人関係で不必要な対立を回避する」という必要性がさまざまなシチュエーションで必要になり、人と人のやりとりの摩擦を軽減することが前提としてあります。
もちろん、それだけでは足りません。ただやり取りをするだけでなく、やり取りを通して意思疎通を行うことにコミュニケーションの真価があります。ですので、コミュニケーションスキルとは「他人との十分な意思疎通を行う技術」と考えることもできるのです。
コミュニケーションスキルは具体的にはいくつかのものに細分化することができます。代表的なものとして挙げられるのは以下の3つです。
- 傾聴
- アサーション
- コーチング
このうちで最も基礎的なスキルになるのが「傾聴」です。
プライベートとビジネスでの「コミュニケーション」の違い
採用面接の現場では「コミュニケーションスキル」の見極めが大切になります。コミュニケーションスキルをアピールする求職者は多くいますが「ビジネスのコミュニケーションスキル」を理解しているのかどうかをチェックするようにしましょう。
ビジネスのコミュニケーションは、「他者と仲良くする」ことを目的としたプライベートのコミュニケーションとは異なるものです。
コミュニケーションスキルとは「他人との十分な意思疎通を行う技術」と説明しましたが、ビジネスにおいてはどのようなものが求められるのでしょうか?
特に近年ではIT技術の進歩により、他人と意思疎通を図らなければならない状況が「他人と対面している」という状況のみではなくなりました。電話はもちろん、メールやSNS、チャットなど、コミュニケーションを取らなけらばならない状況はたくさんあります。
会社の内部でも外部でも、コミュニケーションが必要となるビジネスシーンは多くあります。「ストレスなく業務を円滑に行う」ことや、「こちらの意見を受け入れてもらう」ためには、高いコミュニケーション能力が必要です。ビジネスのコミュニケーションスキルとは、他者を理解し、業務に生じる摩擦を低減させるスキルでもあります。
「傾聴」の定義と意味について
ビジネススキルとしての「傾聴」とは、「耳を傾けて聴く」ということです。
「聴く」は「聞く」よりもさらに注意深く捉えようとする意味が込められているのです。「聴」という漢字は「十四の心」に「耳」をすませて成り立つ漢字ですので、このことを思い出すとどういう行為かを理解しやすいのではないでしょうか?
「聴く」ことによりもたらされるのは「相手の意見の理解」だけではありません。相手の意見だけでなく、相手の性格や思考をも理解でき、それが信頼にも繋がります。
ビジネスシーンでは、クレーム対応など相手の言い分をしっかりと受け止めることが大切な場面で重要になるスキルです。ただ理解するだけでなく、相手に対しての真摯さを伝える意味でも「傾聴」は大切なスキルです。
傾聴に必要な3つの要素、ロジャーズの3原則とは
「傾聴」という概念を提唱したのは、アメリカの心理学者カール・ロジャーズです。ロジャーズはカウンセリング理論の大家としても知られていて、彼のカウンセリングは特に「積極的傾聴」というスタイルで知られています。
ロジャーズが主張した「話を聴く側に必要な3つの要素」は「ロジャーズの3原則」と呼ばれています。
- 自己一致(congruence)
- 共感的理解(empathic understanding)
- 無条件の肯定的配慮(unconditional positive regard)
「相手の話を聴く」のは大切ですが、「実際にどれくらい聴けているか?」ということを把握するのも、コミュニケーションスキルでは重要です。「聴けている程度」については、以下のように3つの段階で分類されています。傾聴スキルの評価基準として有効な指標になります。
- 内的傾聴
相手の話を聴きながらも、意識は自分の方向へ向かっている状態。 - 集中的傾聴
相手の話にしっかりと意識を向けられている状態。 - 全方位傾聴
相手の話にしっかりと意識を向けられているだけでなく、周囲や場の雰囲気までも的確に読み取れている状態。
傾聴スキルがもたらすメリット
傾聴スキルを持った従業員が増えると、会社としてはどのようなメリットが期待できるのでしょうか?
傾聴ができると「相手がいまどんな立場にいるか」を具体的に想像できるようになります。それゆえに「してほしいこと」と「して欲しくないこと」を瞬時に把握できるようになり、全体として業務の無駄がなくなることが期待できます。チームワークが最適化される、という風に考えることができるでしょう。
また、傾聴がもたらすのは意味上の「理解」だけではありません。「自分の話を聞いてくれている」という安心感をもたらすこともまた、傾聴の重要な効果です。
「自分のことを理解してくれている環境で働ける」という安心感は、職場環境を良質なものにしてくれます。
「傾聴」というコミュニケーションスキルの客観的な位置付けを
コミュニケーションスキルを採用・実務で重視する企業は非常に多くあります。コミュニケーションスキルは抽象的な概念であるため、見極め・教育を行うためには具体的なスキルまで落とし込んで考える必要があります。傾聴とはコミュニケーションスキルを細分化した1つのスキルで、最も基礎的なスキルと位置付けることができます。
コミュニケーションスキルの理解において、プライベートで必要とされるコミュニケーションスキルとビジネスで必要となるコミュニケーションスキルが異なることには注意しましょう。自社では具体的にどのようなコミュニケーションスキルが必要としているのかを細分化して考えなければ、活躍人材の見極めを失敗してしまう可能性があります。