ジョブローテーション制度は無駄なのか?批判内容を検討する

多くの企業で導入されているジョブローテーション制度

多くの企業で導入されている「ジョブローテーション」。社員の能力開発を目的として行われるもので、人材育成計画に基づいて、定期的に職場の異動や職務の変更を行います。日本ではよくある人材研修の一つで、職場異動は短くて半年、長くて数年など、期間は企業によってさまざまです。

労働政策研究・研修機構の調査によると、定期的なジョブローテーションがある企業は53.1%と過半数の企業にジョブローテーション制度が存在し、従業員規模が大きくなればなるほど、ジョブローテーション制度を導入していることがわかります。

ジョブローテーションの有無
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』企業の転勤の実態に関する調査

ジョブローテーションがある企業の人事異動は、約3年ごとが一番多く36.5%、次に5年ごとが18.1%と、中期的な異動が発生している現状です。

人事異動の頻度が何年ごとであることが多いか
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』企業の転勤の実態に関する調査

ジョブローテーションはスキルを身につけるだけでなく、社内ネットワーク形成など多くのメリットがありますが、実際に取り入れても、ジョブローテーションが成功する企業と失敗する企業が存在します。

背景には、ジョブローテーションが数年ごとに職種が変わる制度だから、などという理由が存在します。入社して4年間は営業、その後人事を3年間、その後再び営業職に…のようなものをイメージしてもらえればよいでしょう。もちろん、まったく異動を経験しない人も一定数いますが、全体で見るとやはりローテーションをさせるのが一般的でしょう。

ジョブローテーション制度が社員にとっては無駄な制度でしかない、という意見も一部にあります。ジョブローテーションのどの辺が問題視されていて、「無駄である」と考えられているのか、実際にそうなのかなどについて、今回は掘り下げていきます。

ジョブローテーション制度は無駄なのか?

ジョブローテーションのメリットは、人としての深みが増すことが挙げられます。逆にデメリットは、さまざまなところで言われていますが、スペシャリストになれない点でしょう。

「深みを増す」というのは、ジョブローテーションを行うことでさまざまな職務を経験するため、どの部門の部長や課長などの役職に就いても、それぞれの仕事の大変さを熟知していることが背景にあります。さまざまな経験を積むことは、仮にその職種に最終的に就かなかった場合でも、他の場面で応用できる意味では無駄ではない、というのが一般的な見解です。

一方で、ジョブローテーションが人材育成や組織活性化の弊害になるという意見も必ず出てきます。そういった意見はどういった背景から起こっているのか、その内容を見てみましょう。

一貫性のあるスキルを身につけにくいから

ジョブローテーションによって関連性のない部署を回されることで、スキルに一貫性が生まれにくい、というのは間違いなくあります。「新卒から10年間営業職の人」と「最初の5年間は営業、その後5年間は人事」だと、どちらのタイプが「営業スキルを十分に」身につけることができるかといえば、前者のほうが有利です。

確かに人により適性や能力が異なるので、一概にその仕事を経験した時間だけでは測ることはできませんが、スキル習得はある程度経験値と比例します。同じ仕事を長い時間携わっていた方が「一貫性のあるスキル」を身につけやすくなり、労働市場からは評価されやすい傾向にあります。

こういった主張に対し「営業に適性があまりない人が10年間営業の部署にいるより、どこかでやり方を変えて、さまざまな職種への適性を探すという意味でジョブローテーション制度は有効なのではないか」という意見もあります。そういった場合には、手っ取り早く自己申告制度で違う部署に異動すればいいだけかもしれません。

ジョブローテーション制度を利用しなくても、他の方法で対応できるというのも一理あります。

部署を異動すると、それまでに培った経験がリセットされてしまう

部署を異動すると、それまでに培った経験がリセットされてしまうリスクもあります。人事の業務で営業スキルが役立たない場面はゼロではないですが、営業と人事で必要なスキルは、基本的には異なるという意見もあります。たとえば「商品を売る力」と「優秀な人材を見つけて獲得する力」などがそれにあたります。

新しい部署に異動した場合、その職種では新人です。あまりないケースかもしれませんが、マネージャーがローテーションで新しい職種に就いた場合、スキル的には新人のマネージャーが、役職的に経験のある部下より立場が上になるという現象が起こります。上記の例で言えば、営業の仕事で実績を積んで昇進して、その後ジョブローテーションで人事部に異動になって、人事スキルはゼロなのに役職的には上になる、ということです。

その部署に昔からいる部下からすればストレスになることもあるでしょう。スキル的には自分の方が高いにも関わらず、役職的にはその人の下でかつ、報酬もその人より少なくなるからです。

こういった現象を生み出している一因として、日本の大企業の多くが「階層的な組織」ということがあります。日本は海外と異なり、企業の多くは「業務内容」ではなく「地位」に対して報酬が払われる仕組みだからです。

社員のモチベーション低下、離職につながるリスクがある

現在の部署で経験を積み、これからも頑張ろうというモチベーションの高い時期に、ジョブローテーションで違う部署に異動させられた場合、多くの人は、モチベーションが確実に低下するでしょう。特に専門性の高い職種でスペシャリストになりたい人からすれば、その会社ではこれ以上経験が詰めないと、退職を考えてしまうリスクさえあります。

逆に「何でもそつなくできて、仕事へのこだわりがあまりない従順なタイプ」がジョブローテーションが活発な組織には向いているとも言われています。

ジョブローテーション制度と終身雇用制度は相性が良い

日本の多くの大手企業でジョブローテーション制度が採用されている理由の一つに、大企業の多くで活用されている「終身雇用制度」を活用した組織作りという前提があるからです。終身雇用制度の下では、ある程度は年齢に応じて昇進します。役職が上がるにつれて「特定の専門領域で優秀なスペシャリスト」ではなく「全体視点を持ったジェネラリスト」が求められる傾向があるため、その企業の中でさまざまな部署を経験した結果、社内事情に精通したり社内で人脈を築き上げたりした人の方が重宝されるのです。

「年功序列」など日本で昔から存在する組織作りを前提とした人材を育成するために「ジョブローテーション制度」は非常に有効で相性がよいロジックがあるのです。

ジョブローテーションありきではなく、自社に必要な人事戦略を

ジョブローテーションが失敗する原因は必ず存在します。ジョブローテーションを自社の組織作りに上手に活用ためには、マイナスの原因を解消することが大切です。原因を解消できない場合などは、そもそもジョブローテーション制度自体が会社に合っていない可能性も踏まえて、廃止を検討することも視野に入れる必要があるでしょう。

社員のスキルや価値観を理解し、ジョブローテーションの実施でどのようなスキルが身につけられるのかなどのメリットを具体的に落とし込んで考えることが大切です。会社独自のルールやスキルを身につければ、会社という狭い世界の中では視野が広がるかもしれませんが、裏を返せば、その企業でしか通用しない人材になる可能性もゼロではありません。

ジョブローテーション制度が形骸化していないか、人事戦略としてプラスになっているかなどをきちんと吟味するところから始めてみることが重要です。

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