あなたの会社では、ジョブローテーションを活用していますか?
多くの企業で導入されている「ジョブローテーション」。社員の能力開発を目的として行われるもので、人材育成計画に基づいて、定期的に職場の異動や職務の変更を行います。日本ではよくある人材研修の一つで、職場異動は短くて半年、長くて数年など、期間は企業によってさまざまです。
労働政策研究・研修機構の調査によると、定期的なジョブローテーションがある企業は53.1%と過半数の企業にジョブローテーション制度が存在し、従業員規模が大きくなればなるほど、ジョブローテーション制度を導入していることがわかります。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』企業の転勤の実態に関する調査
ジョブローテーションがある企業の人事異動は、約3年ごとが一番多く36.5%、次に5年ごとが18.1%と、中期的な異動が発生している現状です。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』企業の転勤の実態に関する調査
ジョブローテーションを実施する際には、従業員が希望するキャリアビジョンに従って運用することが効果的です。一方で、外資系人材サービス大手のAdeccoの調査では、そういった会社側の施策がありつつも、キャリアプランを描いていない一般社員は約47.3%にのぼっています。
出典元『THE ADECCO GROUP』働く人のキャリアに関する意識調査
今回は、ジョブローテーションを実施する目的やメリットなどについて説明します。
ジョブローテーションの概要やメリット・デメリットについて
ジョブローテーションとは、人材育成の目的を持って、計画的に、従業員の職務や職場を変更することをいいます。さまざまな場所で多様な経験を積んでもらうことで、社員のスキルアップや知識の充実、さらには組織の多くの仕事をカバーできる体制や組織風土を構築することを狙いとしています。
会社には多様な業務・部署があり、社員がそれぞれ属して日々生産的活動をすることで企業活動を行っています。さまざまな人員が日々活動しており、個人あるいは部署がどういった業務を行っているかをすぐに理解して把握することは物理的に不可能です。まずは新入社員時代に、組織の業務や各部署の特徴を把握すると同時に、人材交流の意味も含めてジョブローテーションを実施します。
基本的には、対象の部署に配属されて業務を学ぶOJTで進められます。新入社員の研修としては、数ヶ月間、会社内の状況把握や適性を判断する目的で実施する意図があります。
幹部候補社員の育成という目的もあり、短期間で会社内の人材や内容把握をさせるために実施して活用することもあります。
ジョブローテーションが重要視された背景やジョブローテーションの目的
「ジョブローテーション」とは、日本の終身雇用形態に適応する形で進化してきた、日本特有のもの、とも言われています。背景には、新入社員時代から時間をかけて社内事情や組織形態などを理解させたり、人脈を築く中でさまざまな経験を積ませ、ジェネラリストとしての経営幹部を育てていく、というものがあります。
「特定の職務に対して人材を募集して、その分野でキャリアを重ねていく」という形式は、業務ごとに個人と組織が契約する海外においてはほぼ見られません。「ジョブローテーション」は、社員一人ひとりの人材育成を勘案して行われる異動、とも表現できます。
1.人材育成
ジョブローテーションは、企業内のさまざまな職種や部署を経験させることができるため、新人研修などで多く用いられています。
入社後にさまざまな職務に就いて実務を経験しながら、適性や本人の意向を見極めて正式な配置を決定し、人材を育成することが大きな目的です。
2.組織の全体把握
事業規模が大きければ大きいほど、部署や職種の数も多くなります。社員が多くの部署でさまざまな職務を経験することで、企業の全体像を把握できる人材となります。
幅広い業務の視野をジョブローテーションから得ることで、考えが固定された部署に新しいアイデアを喚起させるきっかけを作ることもあるでしょう。
3.属人化の防止
特定の個人にしかできない仕事が多ければ、個人への負担は大きくなり、また社員の退職や不正など、業務におけるリスクも増大します。ワークライフバランスという観点においても好ましくありません。
ジョブローテーションは業務の属人化を防止し、従業員に業務の共有化を促すだけでなく、業務におけるさまざまなリスク軽減の役割も担っています。
ジョブローテーションを実施する企業のメリット
適材適所の配置を実現する
ジョブローテーションによって社員は、さまざまな職務や部署を経験するため、本人の適性や意思を見極めることが可能になります。その結果を受けて、より本人の適性にマッチした職務に配属することができます。
人材を適材適所に配置できれば、個人のモチベーションアップにも寄与しますし、生産性の向上は企業にとっても大きなメリットとなります。
社内ネットワークの構築をスムーズにする
ジョブローテーションによって、個人は多くの社員と知り合いになります。ジョブローテーションは、社内の新しいネットワーク構築に大きな影響を及ぼします。
社内ネットワークがたくさん構築されれば、部署ごとの連携も取りやすくなり、さらに、社内の雰囲気やカルチャーにも一体感など良い雰囲気が生まれます。
幹部候補の育成
どの組織も幹部候補の育成には時間がかかるものです。特に日本企業では、経営幹部が多くの現場を知っていることは、非常に強みになると考えられています。
ゆくゆくは経営を担ってもらいたい優秀な人材を、早くから多様な現場を経験させることで、各部署への理解が深まるでしょう。将来幹部になった際、現場で得た知識や人脈が役立つのです。
ジョブローテーションによって起こる従業員のメリット
実践や経験から自分の適性を把握できる
社員にとってジョブローテーションは、未経験の職種にトライできる機会でもあります。実際に実務に携わることで、業務自体の知識が得られるだけでなく、自分の興味や嗜好に合致しているかという適性も見極めやすくなります。
最初から仕事を特定するよりも、他の職種を経験することで相対的にそれぞれのメリットやデメリットが見えてくることも大きな利点でしょう。特に社会人経験のない新入社員の場合などには、納得度の高い仕事とのマッチングは離職確率にも影響を及ぼします。
出世との関連性
企業の中にあるさまざまな仕事を経験することで、事業の全体像を俯瞰する視点を得ることができます。他部署の業務も理解し、人的ネットワークが構築できることは、ポジションがあがるほどその必要性は高まるでしょう。
ジョブローテーションは、組織の多様化をもたらす効果もあります。個人の仕事への姿勢や考え方、発想にも変化を与えます。仕事の成果に役立つことは多いですし、企業も人材育成としてこの点は期待していることです。
マネージャー職などを目指す人たちにとっては、ジョブローテーションによって組織人としての重要な視点が得られる時間でもあります。スキルアップにおいて、ジョブローテーションは、多様な視点を学べるという点で大きな意味があるのです。
ジョブローテーションを実施する企業のデメリットや注意点
スペシャリストの育成に不向き
ジョブローテーションは、半年~数年くらいでさまざまな職種を異動するものが大半です。業務の深層部を短期間で理解することはほぼできないという前提に立って設計されています。背景には、初めて体験する業務がほとんどのため、習熟度の浅さから比較的難易度の低い業務を割り当てることが多くなるからです。
高度な専門性や技術が必要なスペシャリストの養成という観点で見ると、ジョブローテーションは不向きといえます。
離職した場合に教育コストの損失が大きい
さまざまな職務や部署を経験させ育成してきた社員でも、退職リスクは常にあります。企業の育成戦略が成功すればするほど、当該従業員のキャリア志向は高まるため、転職が増えることも見込まれます。
一つの職場に定着できないといったマイナス感情を持つ従業員がいる場合も、退職リスクになるでしょう。せっかく育成した従業員を失ったときの教育コストの損失は、予想以上に大きなものとなります。
ジョブローテーションによって起こる従業員のデメリットや注意点
掘り下げたい分野から離れスペシャリストになりにくくなる
さまざまな職務や部署を経験させ育成すると、社員の思考や考えにも徐々に変化が生まれます。特定の業務で専門性を高めてほしいと期待した社員でも、「ジェネラリストになりたい」と組織とは異なる希望を口にすることもあるでしょう。
企業の育成戦略が成功すればするほど、当該従業員のキャリア志向なども高まるため、当初、企業が掘り下げてほしいと思っていた分野から離れてしまい、結果としてスペシャリストになりにくくなることは大きなデメリットです。
ジョブローテーションのメリット・デメリットを理解しよう
ジョブローテーションは長期的に見た人材育成施策であり、様々な職場・業務を経験することで自社の知識を深めながら人間関係を構築できる方法です。ジョブローテーションによって引き起こる問題もあるため、ジョブローテーションがどの企業にとっても良いわけではありません。
市場競争のグローバル化やテクノロジーの発展などにより、業務内容そのものが変化しやすい状態にあるため、ジョブローテーションを行ったとしても、数年前の知識や経験が陳腐化してしまう可能性も踏まえて、ジョブローテーションを実施すべきかの見直しや検討を行うことが重要です。