職場の人間関係の重要性について
人間関係の問題は、90年以上前から注目されています。ホーソン実験が行われるまで「人間の感情は労働生産性に影響を与えない」と考えられていましたが、ホーソン実験によって「職場の人間関係やリーダーシップが生産性に大きく影響を与えている」ことが明らかになり、従業員のモチベーション管理やリーダーシップなどの近代研究につながっています。
Googleが行った「成功するチームの要因」を研究したプロジェクト・アリストテレスでは、心理的安全性が最も重要であると突き止めました。心理的安全性とは、メンバー全員が思ったことを発言したり行動したりしても対人関係を損なうことはないと信じている状態のことで、良好な人間関係が必要不可欠であることを意味しています。
人間関係の一つとして、上司と部下の関係である上下関係が挙げられます。カオナビの調査によると「上司からの理解が仕事のパフォーマンスに良い影響があるか」という質問に対して約60%の人が「良い影響がある」と答えています。
出典元『カオナビ』カオナビHRテクノロジー総研が、「上司と部下の関係性」に関する調査結果を公開。約6割の社員が「上司からの理解が不十分」と回答
リクナビネクストの調査によると、転職者の退職理由の本音として「上司・経営者の仕事の仕方が気に入らなかった」「同僚・先輩・後輩とうまくいかなかった」といった職場の人間関係に関する回答が多く挙げられています。
参考URL『リクナビNEXT』転職理由と退職理由の本音ランキングBest10
上の立場の人間との関係が従業員の生産性や離職率に大きな影響を与えるため、社内の上下関係をどのように扱うかは組織のマネジメントを行う上で非常に重要です。
会社の上下関係については、あった方がいいという人もいればといらないという人もいますが、どちらが正しいのでしょうか。
会社の上下関係を厳しくするメリット・デメリットとは
上下関係を厳しくするメリットには、指揮命令がしやすい、責任の管理がしやすいなどがあります。会社の中での上下関係は、組織をスムーズに運営するために必要な指示系統です。必要なルールとして、責任の所在が役職によって表されます。
上下関係を厳しくするデメリットは、下の立場から意見や提案がしにくくなることが挙げられます。いじめやパワハラの原因になる可能性もあります。
「役割としての上下関係」が適切に稼働しているか
上司の指示に強制力があるのは、上司しか知りえない情報を基に判断される場合があるからです。代わりに、上司には責任を負う義務があります。部下には、部下の視点からの意見を言う権利と指示を全うする義務があります。
役割が適切に稼働しているならば、上下関係の存在は問題にはなりません。あまりに上下関係が厳しくなってしまうと、理不尽な関係になる事があります。
ルールとして実施するのは必要ですが、あくまで人と人は対等なものです。上からのストレスを下にぶつけて発散するような関係になっていたとしたら、上下関係が適切に働いていないと言えるでしょう。
会社の上下関係をなくすメリットとデメリットについて
上限関係をなくすことのメリットは、上司との人間関係におけるストレスの軽減です。結果として、意見や提案をしやすくなりイノベーションの創出につながります。
上下関係をなくすデメリットは、指揮系統の混乱を生む、責任の所在が曖昧になることです。
上下関係がなくなると、経営陣と現場が近くなります。これまで情報が届かなかった末端まで、情報が届きやすくなります。社員同士の情報交換も活性化され、新たな業務改善やイノベーションへとつながるのです。
同時に上下関係がもたらすメリットを手放すことになります。上下関係の役割分担が無くなるという事は、情報量が増えることにつながります。個々人の情報の選別や、個人間のコミュニケーションに労力が必要とされます。
必要とされるのは、各社員の主体性と役割の自覚です。責任の所在が不明瞭なままトラブルが発生すると、混乱が起こるでしょう。
上下関係のない会社を実現する方法について
上下関係が存在しない会社について考えてみましょう。階級や上下関係が存在しない組織として、ティール組織やホラクラシー組織があります。
ティール組織とホクラシー組織の違いとは
ティール組織とは、世界各国で活動しているフレデリック・ラルー氏によって提唱された概念です。
フレデリック氏の理論によると、組織は従来の価値観を大きく変えるような変化にパラダイムよりパラダイムシフトを起こし、意識の発達段階を次のステージへ進めます。組織のステージは、経営者やトップマネジメント層の意識の発達段階に比例して、進化していくとされます。
ホラクラシー組織とは、米国ソフトウエア開発会社の創業者ブライアン・ロバートソン氏によって提唱された概念で「階層や上司・部下の関係が存在しない組織体制」を意味する言葉です。
ホラクラシー組織は「階層構造や管理マネジメントの仕組みが存在しない」「社員全員で意思決定をしていく」など、ティール組織との共通点が多く存在します。ホラクラシー型組織の特徴は、実践するためのメソッドやルールが存在し、ルールに則って運用が進められる点です。
上下関係をなくす場合の注意点について
上下関係のない組織を作るときには、ただ役職をなくせばいいわけではありません。従業員全員が強い主体性や倫理観、当事者意識やセルフマネジメント能力を持つ必要があります。従業員の自律性が伴っていなければ組織の崩壊につながります。
ティール組織についてのよくある誤解として「組織の階層構造を無くしてフラットにすればティール組織になる」という勘違いがあります。1人1人の自覚がないまま組織構造をなくしてしまうことは、混乱と不信を招きます。
ホクラシー組織でも、社員それぞれがセルフマネジメントする事が大前提になっています。役職が存在しない分、責任の所在が不明瞭になります。特に対外的なトラブル時に動けるように、外部向けの役職を残す必要があるかもしれません。
上下関係の有無は組織の優劣とは無関係です。それぞれのメリットデメリットを理解した上で、自社に必要な在り方を選択することが肝要です。
上下関係の緩和のために必要なことは何か
会社の上下関係は従業員の生産性や離職率に影響するため、会社の経営や組織のマネジメントを行う上で非常に重要です。
上下関係のない組織形態としてティール組織やホラクラシー組織がありますが、実現するためには従業員全員の高い意識が必要不可欠です。上下関係の緩和・撤廃を検討する際は、自社の社員の質やビジネスモデルなどと照らし合わせて、上下関係のない組織体系が向いている組織かどうかを慎重に検討しましょう。