若手人材に求められる実行力
経済産業省は「人生100年時代の社会人基礎力」を題して、3つの能力と12の能力要素を定義づけました。3つの能力は「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」。実際に、これらの採用市場での需要は高まっています。
マイナビによる「(新卒の)選考時に重視する力」の調査結果です。項目は前述の経済産業省によって掲げられた「人生100年時代の社会人基礎力」で挙げられた12の能力要素ですが、「主体性」「実行力」で特に高い数字が出ていることは注目に値します。両者は「前に踏み出す力」を構成する要素として位置付けられており、若手人材にはこの力が強く求められている傾向があることがわかります。
日経新聞と日経HRは「企業の人事担当者からみた大学のイメージ調査」をみてみましょう。このランキングで査定項目となったのは、「行動力」「対人力」「知力・学力」「独創性」の4つです。ランキングの第1位となった九州大学は、その4つのなかでも特に「行動力」で高いスコアを出しています。大学が基幹教育として「アクティブラーナー」の育成を目指していることにもよります。アクティブラーナーとは文字通り「能動的に学ぶ人」です。学び続ける意志を持ち、未知の問題や課題に対して挑戦する精神を持った人であり、「指示待ち族」の対極とも言えるこうした人材の社会的な需要は、ビジネスシーンの多様化とともに増大しています。
参考URL『日経HR』企業の人事担当者から見た大学イメージ調査 『就職力ランキング 総合1位は北海道大学』上位を国公立が占める
現在の採用市場では「実行力」や「行動力」など、能動的な活動精神を持つ人材の需要が高い傾向にあることがわかります。今回は、若手人材の見極めで大切な「実行力」に注目します。汎用性が高い実行力をつけるにはどうすれば良いか、すぐに試せる4つの行動がありますので人事業務でもぜひ参考にしてみてください。
実行力とはどんな能力か?
実行力とは、ある目的を実現するための計画的な行動を起こせる力のことです。単純に「なにかをする」だけではなく、実行力では目的に対して現状とどんな差があり、その差を埋めるために必要な要素を見つけ、段階的にどのように解決していくかを論理立てて考える能力も求められます。
「実行力」と「行動力」を区別するポイントについて
「実行力」と似た概念として「行動力」があります。違いは「行動力の概念の一部として実行力がある」と考えれば理解しやすくなります。行動力も実行力も、ともになんらかのアクションを起こす力に変わりありません。
両者の違いは、目的に対する行動に「計画性」が伴うか否かです。行動力とは計画の有無にかかわらず行動を起こすことであり、実行力とは目標に対する計画を設定し、その計画を実行するスキルのことです。つまり「計画」という条件設定がなされた状態での行動力が「実行力」であるとも考えられます。実行力とは、行動力のなかでも思考力を特に要する能力です。
実行力がある人・ない人の3つの違いについて
実行力のある人・ない人を見極めるポイントとして以下の3つが挙げられます。採用活動や人事采配で参考にしてみてください。
1:計画力
実行力では、目標に対してどのように近づくかという経路の設計が大切です。重要になるのが計画力です。計画力は、物事を完遂するための手順を設定する能力です。
これがなければ、目標を達成しようにも「次になにをすればいいのかわからない」という状態に陥りやすくなります。
2:論理的思考力
目標は大きくなるほど抽象性が高くなる傾向にあります。大きな目標を達成するために不可欠になるのが、抽象的なイメージを具体的な事柄に落とし込んで理解する力です。論理的思考力のひとつだと考えられます。
実行力がある人には、現状にどんな問題がありどのような解決策をとるべきかを原因・理由をベースに思考する習慣があります。
3:最後までやり抜く力
実行力は「行動力」でもあります。現状と目標の距離を知り、解決しなければならない問題を見つけ、実際にするべきことが決まったら、それらを最後まで絶対にやり抜かねばなりません。
行動に移すからこそ経験が生まれ、新たな行動動機が生まれます。別の仕事のモデルケースにもなり、よかったこと・悪かったことを振り返ることで成長の糧にもなります。
実行力をつけるには?
実行力をつけるには、因果関係に基づいて「目標設定→行動計画→実行→結果振り返り」を習慣化させるのが必要です。これはいわゆるPDCAサイクルで、よく言われるがゆえに習慣化しようとして挫折したという人も少なくないのではないでしょうか?
ここでは、すぐにでもできることを4つ紹介します。
1:目標を立てる
目標といっても、この段階では漠然としたもので大丈夫です。
たとえば1年後になりたい自身の理想像など、自分がどんなことを思い描いているか自分で知ることからはじめてみましょう。
2:やることを書き出す
決めた目標と現状ではなにが違うかを考えてみましょう。たとえば紙を半分に折り、左に現状を、右に理想像を書いてみるとわかりやすくなります。
両者のギャップに目を向け、それを乗り越えるためにすべきことをひとつずつ書き出してみましょう。
3:やることに優先順位をつける
書き出したやることを「緊急度」と「重要度」の二軸で評価・分類しましょう。すると自然といますべきことが明らかになります。当然ですが、早急にやらねばならないのは「緊急度が高く、かつ重要度が高いこと」です。まずはこれを片付けていくと物事が前に進みます。
注意しなければならないのは「緊急度は高くないが重要度が高いこと」です。これは中長期的なビジョンを達成するには不可欠であるにもかかわらず、つい後回しにしてしまいがちな仕事。この仕事を取り組む時間を作り出すためにも、ToDoリストを使ったタスク管理・優先順位の決定は大切です。
4:実際にやってみての結果を記録
実行力をつけるために大切なことのひとつに「やりっぱなしにしない」ということが挙げられます。
行動を起こせば、そこには良いものであっても悪いものであっても必ず結果がついてきます。それを記録・分析することで次の目標を見つけることができ、実行力が磨かれていきます。
実行力は後天的に成長させることが可能
実行力とは、目標を設定して行動する能力のことです。似た概念で「行動力」がありますが、目的に対して起こす行動に計画性があるかどうかが、両者の違いとなっています。
実行力は業界・業種を問わず有用なスキルです。汎用性の高さゆえに、求人市場では実行力がある人材の需要は高く「伸びしろ」のある人材という評価もできます。実行力は入社後に伸ばすこともできますので、採用時の見極め要素にするだけでなく、中長期的な育成を視野にいれて検討しましょう。
実行力は教育研修で育成することが可能です。単に「実行力」を向上させるのではなく、向上させたいスキルを明確にするのが限られた時間内での育成では重要です。効果的に高めるためには、自社の従業員の実行力を細分化し、どのようなスキルがあるのか・ないのかを明確にすることが大切です。