100年前のアメリカから発展してきたキャリア理論
人材の適材適所を考える上で人事担当者や経営者が知っておきたいのがキャリア理論です。キャリア理論は、約100年ほど前に職業指導の父と呼ばれたパーソンズによる特性因子理論が始まりとされています。当時産業革命の波がアメリカにも押し寄せ、人々の仕事や生活環境が大きく変わったことにより、失業者が増大して社会問題となっていました。
問題解決のため、パーソンズは個人の特性(性格や価値観)と仕事内容や求められるスキルなどの因子をマッチングさせることが重要であると考え、特性因子理論を提唱しました。
次いで登場するパーソナリティ理論は、特性因子理論を発展させる形で提唱された理論です。パーソナリティ理論では、個人個人は異なる存在であり、持ち合わせている特性も1つではなく、複数組み合わせて捉える必要があると考えられました。人は置かれた環境、育った環境によっても、取りうる行動が異なるとも考えられました。
今回ご紹介する意思決定理論は、人生は意思決定の連続であり、人がキャリア選択をしていく「プロセス」そのものが大切であるという考え方から発展した理論です。本記事では、意思決定理論を提唱した、研究者の第一人者であるジェラット(Harry B.Gellat)の理論をご紹介します。
ジェラットの意思決定理論とは?合理的な意思決定を行う
意思決定理論は、特性因子理論のように個人の特性や職業での必要要件にフォーカスした考え方ではなく、キャリアを選択していく意思決定そのものに焦点を当てた考え方です。
我々は進学や就職、結婚、異動など様々な場面で選択をしている訳ですが、意思決定のプロセスや意思決定スタイルは様々です。キャリアにおける意思決定理論は「意思決定プロセス」と「意思決定スタイル」の大きく二つに分類されています。意思決定プロセスにおいては、さらに合理的な意思決定論と実際的な意思決定論に分けて考えられています。
合理的な意思決定論は、論理的・合理的に最適な意思決定を行うための方法について述べているものです。もう1つの実際的な意思決定論は、人が実際にどのように意思決定を行うのかについて説明した理論です。
意思決定スタイルは、本人の自己理解の程度や自分が置かれている環境への理解がどの程度かなどにより、数タイプに分類したものです。
ジェラット(Harry B.Gellat)は、1960年代から意思決定に関する研究をアメリカで行ってきた人物で、スクールカウンセラー、カウンセラーとして経験を積んできました。現在はコンサルタントや執筆家として活動しています。
「合理的な意思決定モデル」や「積極的不確実性」が主要理論として有名です。ジェラットは、自身の研究初期においては理性的で合理的な意思決定の重要性を説いていましたが、後半では初期の理論を発展させる形で、合理性よりも右脳を使った直感などの非合理的な側面を14した意思決定の重要性に言及しました。
ジェラットの合理的意思決定モデルについて
ジェラットの研究初期に提唱された合理的な意思決定モデルについてご説明します。彼は合理的な意思決定をするための枠組みとして、以下のようなモデルを作成しました。
- 目的・主題:意思決定するテーマの明確化
- データ:テーマに関わる情報の収集
- 意思決定システム:
- 予測システム
- 価値システム
- 決定基準
- 決定:最終決定→テーマに対する最終結論
探索的決定→テーマについてのさらなる情報収集、吟味を行う意思決定
ジェラットによると、意思決定は選択肢とそれを選択した場合に予測される結果を評価し、適切なものを選択するというプロセスを繰り返すとしています。
「予測システム」のステップでは、選択肢それぞれがもたらす結果がどの程度起こりうるかを判断します。「価値システム」のステップでは、各選択肢の結果の好ましさを判断します。どういう結果が望ましいかは人それぞれですが、この段階で自身が認識していなかった自分の性格や価値観が見えてくることがあります。2つのステップを経て「決定基準」ができあがります。
彼は意思決定プロセスを行うにあたり「すべての選択肢に気づくこと」「十分な情報を得ること」「情報の関連性と信頼性を検討すること」「価値システムからそれぞれの結果を評価すること」が重要であるとしています。
ジェラットの積極的不確実性について
1989年に出版された著書の中で、彼は積極的不確実性を唱えました。
1980年代後半はへ労働市場の変化が激しい時代であり、収集した情報が必ずしもずっと真実であるとは限らない、人間が収集し得る情報量には限りがあることや、得た情報は受け手の解釈や考えにより変化することがあることにも触れ、意思決定には非合理的な側面(心の声)も大切であると考えたのです。
現在はどんどん複雑化しており変化の多い時代であるからこそ、不確実性を積極的に捉えて柔軟になることが大切だと唱えたのです。初期の合理的意思決定モデルを否定する訳ではなく、依然として意思決定においては、情報収集や選択肢の絞り込みは欠かせません。段階を経て意思決定をする訳ですが、その際に合理的な側面だけを考えるのではなく、直感や夢、創造性といった非合理的な側面がむしろ大切になってくるということです。
積極的不確実性による柔軟な意思決定が求められる
ジェラットは、研究当初意思決定は合理的になされるべきだという立場をとっていましたが、世の中の不確実性から、近年は不確実であることを積極的に捉えてキャリア形成していくことを唱えました。
選択肢を吟味する上で情報収集と選択肢の絞り込みは変わらず重要ですが、予測不可能な現代であるからこそ不確実性を受け入れた上でビジョンを持つことがより求められると考えたのです。より良い意思決定、効果的な意思決定のために、是非取り入れたい考え方と言えるでしょう。