よりよく生活し、いきいきと働くということ
日本でも問題となっている、長時間労働と低賃金の問題には、さまざまな背景や社会的事情があります。働き方を考える上では、現在でも大きな問題です。グローバル化などで企業を取り巻く環境が変化し、働き方なども多様化する昨今においては、「生産性向上」に関する議論もよく耳にするようになりました。
「労働生産性」自体は、現在の安倍政権が推進する『働き方改革』の柱の一つに取り上げられています。背景には、少子化による労働人口の減少や、売り手市場による労働力不足などの影響などがあります。こういった問題を解決すべく、外国人人材や女性の活躍推進などの労働人口の拡大とともに、1人あたりの労働生産性を向上させ、労働力不足の解消を目指していこうというのが、大きな骨子です。
少し前の資料になりますが、労働生産性の最近の国際比較を見てみると(2017年版)、以下のような特徴があります。
- 日本の時間あたりの労働生産性は46.0ドル(4,694円)
- OECD加盟35カ国中20位
- 主要先進国である7カ国の中で見れば最下位(米国の3分の2の水準)
労働生産性をOECD諸国と比較すると、日本は例年、働く環境や労働性は決してよいとは言えません。一方で、労働政策研究・研修機構の調査では、日本の長時間労働者の割合は、国際社会で比較すると未だに高いものの、減少傾向が見られます。
出典元『独立行政法人 労働政策研究・研修機構』データブック国際労働比較2018
理由としては、パートやアルバイトなどのフルタイムでない労働者の増加により割合が引き下げられた、ということが考えられています。厚生労働省の正社員を対象とした調査によると、リーマンショックが発生した翌年の2009年には一時的に長時間労働者の比率が改善されていますが、中長期的な視点では、長時間労働の割合は変化していません。
厚生労働省が公表した監督指導結果によると、4割以上の事業所で違法な時間外労働が確認されたため、実態はより長時間労働が発生している可能性が高いことが示唆されています。
出典元『厚生労働省』長時間労働が疑われる事業場に対する平成30年度の監督指導結果を公表します
平均手取り金額の中央値の半分以下の所得(平成26年時点で手取り132万円以下)以下の、相対的貧困率は15.7%であり、6人に1人が貧困ラインを下回っているという要素があります。
出典元『厚生労働省』図表2-1-18 世帯構造別 相対的貧困率の推移
今回は、日本が抱える長時間労働や低賃金問題を解決するために普及させようとしているディーセント・ワークの企業が取り組むべき内容について説明します。
ディーセント・ワークを推進するための取り組み
ディーセント・ワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。もともとは、1999年に国際労働機関・ILOにおいて、総会で提出されたファン・ソマビア事務局長の報告において初めて用いられたもので、「ILOの活動の主目標」として掲げられています。
具体的には「権利が保障され、十分な収入を生み出し、適切な社会的保護が与えられる生産的な仕事」であるとされており、「仕事がある」という事を前提として、「権利の確保」「社会保障の確保」「社会対話の確保」「自由と平等の保障」「生活の安定」という5つの条件を満たした「人間としての尊厳を保てる生産的な仕事」が、ディーセント・ワークとされています。
ディーセント・ワークは、単純に「働きがいのある人間らしい仕事」を指すのではありません。人々がそのような仕事を獲得するための環境整備、ひいては、グローバル化や貧困削減など、世界的な事象の解決への取り組みも指しています。
自社でディーセント・ワークを推進するためのポイント
組織の中で、ディーセント・ワークを推進する際のポイントをあげてみましょう。
ディーセント・ワーク達成度の判定軸
日本のおいて、ディーセント・ワークを推進する厚生労働省の2012年の調査「ディーセント・ワークと企業経営に関する調査研究事業報告書」では、企業のディーセント・ワークの達成度を評価する項目として以下の7つが挙げられました。企業内においてディーセント・ワークを推進するためには、7つのポイントが必要不可欠であるという事です。
◆ディーセントワークの達成度を判定するための軸(今回調査研究での捉え方)◆
①WLB軸:「ワーク」と「ライフ」をバランスさせながら、いくつになっても働き続けることができる職場かどうかを示す軸
②公正平等軸:性別や雇用形態を問わず、すべての労働者が「公正」「平等」に活躍できる職場かどうかを示す軸
③自己鍛錬軸:能力開発機会が確保され、自己の鍛錬ができる職場かどうかを示す軸
④収入軸:持続可能な生計に足る収入を得ることができる職場かどうかを示す軸
⑤労働者の権利軸:労働三権などの働く上での権利が確保され、発言が行いやすく、それが認められる職場かどうかを示す軸
⑥安全衛生軸:安全な環境が確保されている職場かどうかを示す軸
⑦セーフティネット軸:最低限(以上)の公的な雇用保険、医療・年金制度などに確実に加入している職場かどうかを示す軸
労働者目線のディーセント・ワーク
労働者目線でのポイントを日本労働組合総連合会の2014年の調査(対象:18〜65歳の男女1,000名)を元に、見てみましょう。
ディーセント・ワークの実現に重要なこととして、「労働環境・職場環境」「賃金」「労働時間・休日日数」「仕事内容」「社会保障」の5つの項目について「ディーセント・ワークの実現にどの程度重要だと思うか」という質問に対しての回答は以下のようになりました。
出典元『日本労働組合総連合会』ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査
出典元『日本労働組合総連合会』ディーセント・ワーク(働きがいのある人間らしい仕事)に関する調査
5つの項目は全てにおいて「非常に重要」「重要」「どちらかといえば重要」の合計が9割を超えており、ディーセント・ワーク実現に向けた取り組みの軸となる事が分かります。
ディーセント・ワークを推進するために不可欠なこと
ディーセント・ワークを推進するためには、長時間労働の是正や育児休暇などによるワークライフバランスの整備はもちろんのこと、賃金制度や評価制度の整備、女性や障害者などの活躍など、働き方改革によって法改正などによって、様々な施策に影響を与えています。
最低限のラインを超えることはもちろんのこと、働きやすい環境を作ることによって、中長期的な人材不足の解消などの、ポジティブな組織のありかたにつながるのです。