なぜ日本は飛躍的な経済成長を遂げることができたのか?
「生産性と信頼」の関係性は今からおよそ90年前のホーソン実験により注目されるようになりました。労働条件の改善だけが生産性の向上に必要だというわけではないと示したホーソン実験は、のちのモチベーション研究やリーダーシップ研究にも影響を与えています。
現代では、組織を運営するために必要なのは「状況ごとに違ったスタイルのリーダーシップをとること」と考えられており、課題や環境に合わせて組織のありかたを随時見つめ直すことが重要だとされています。
現在ではビジネスの軸が格段に増え、それに合わせてグローバル化やワークスタイルも多様化が進みました。それゆえに、組織の形態もよりフレキシブルな対応が可能なものが求められています。
ドラッカーと並んで称される経営学者ヘンリー・ミンツバーグ教授は、昭和期の日本の経営スタイルに注目しました。「社員を家族のように扱う」マネジメントにより生まれるメリットを検討し、帰属意識の高まりが組織の信頼関係を強固なものとし、生産性の向上につながったと考えられています。
今回は、ミンツバーグにより提唱された「コミュニティシップ」という概念について紹介します。
コミュニティシップの定義について
コミュニティシップとは、カナダ・マギル大学のヘンリー・ミンツバーグ教授により提唱されたコミュニティ論です。
コミュニティ論の定義は「組織は士気の高い人たちのコミュニティ(共同体)になったとき、最もよく機能する」という理論に基づく組織マネジメント論だと言えます。
コミュニティ論では、構成員1人ひとりの影響力を重視し、個々が互いにカリスマ型のリーダーシップを発揮することで生まれるコラボレーションが、組織の生産性を飛躍的に増大させると考えられています。
コミュニティシップはなぜ大切なのか?
ミンツバーグはコミュニティシップの例として、昭和期の日本企業を例にあげました。
かつての日本といえば、「モーレツ社員」という言葉が登場したように「会社のため国のために献身的に働く」風潮がありました。この考え方は時代とともに改められるようになり、多様化が重要視されると「時代遅れ」とも見なされるようになりました。
しかし、ミンツバーグは当時の日本企業が持っていた「社員の帰属意識の高さ」に注目しました。会社が1つのコミュニティとして存在することによって、社員は会社に強くコミットしようとするようになります。同時にミンツバーグはバブル崩壊以降の日本企業の長期低迷は「社員の帰属意識の低下に起因する現象」と捉えています。
コミュニティシップのメリットについて
コミュニティシップを重視したマネジメントがもたらす最大のメリットは前述のように「メンバー1人ひとりのコミットが強くなる」ということです。
かつての日本では「良い大学に行って良い企業に就職する」ということが一種のステータスとなり、この実現が良くも悪くも強い自己肯定につながっていました。コミュニティシップはある意味でこれに近い誇りを社員にもたらすことだといえます。
「自分はこの組織の一員だ」という自己肯定が、業務へのモチベーションを高め、野心をかきたてます。
コミュニティシップの注意点
コミュニティシップは構成員に強い自己肯定を与え、それをエンジンとして高い生産性を発揮するというメリットがありました。
かつての日本は、組織への強い帰属意識を持った会社員が多くいましたが、平成になると徐々に薄れていきました。かつての働き方に見直しが必要だと考えられたからです。
特に注意しておきたいのが「ブラック企業化」の懸念です。
昭和期の日本では組織への貢献のため、自身や家族をかえりみない働き方が一般的に認知されていましたが、これは当時の社会のありかたにより形成されたものです。かつては「男が働き、女が家事・育児をする」という考え方が主流だったため、会社に勤める「男性」は会社への貢献に集中できたのですが、今は全く事情が異なります。
コミュニティシップは組織内の信頼関係を強固にするために重要な考え方ではありますが、価値観が多様化・複雑化する現代社会において、新たなスタイルの検討が必要な概念でもあります。
「社員は家族」というコミュニティシップの是非
コミュニティシップとは組織をコミュニティとして捉え、個を尊重しながら協働していく意識のことです。
古くからある日本企業はコミュニティシップが存在しましたが、欧米風のワークスタイルの輸入や価値観の多様化によりコミュニティシップは次第に失われてきたという説もあります。
時代の変化もあり、昭和期の日本のようなコミュニティシップの構築は現代では難しいのが実情です。しかしながら、家族同然とまでは言わずとも、チーム間の人間関係や信頼関係構築は会社にとっても生産性の向上につながります。だからこそかつてとは違う「現代のコミュニティシップ」を作り上げていく必要があるのです。