新入社員の早期退職問題は改善されていない
ITがいくら発達しても、企業にとっての「人材育成」の重要性は不変なものです。人を育てることは時間と労力はかかりますが、長期的にはかかった分以上の大きな利益となって組織に還元され、より大きな発展につながっていきます。経営層や人事担当者は、目先の利益や経費だけではなく、一歩先の未来を視野に入れた全体最適の投資=人材育成を活用していくことが肝要です。
育てていくべき新社会人の側はというと、新しい環境にさまざまな不安を感じているものです。マイナビが実施した『新入社員の意識に関する調査』によると、新社会人が社会人生活で抱えている不安の1位が、「仕事をうまくこなせるか」。2位が「上司・先輩・同僚との人間関係」と、新社会人の過半数が、仕事や人間関係に大きな不安を抱えていることがわかります。
こうした不安が重なっていくことは、近年、多くの企業で問題になっている「早期退職」につながるリスクもあります。新卒入社1年以内の離職者が、中学校・高校生卒業者と比較した際に離職率が低い大学卒であっても、長らく10%以上であることからも、これは小さくない問題なのです。
実際に初職をやめた理由として「労働時間・休日・休暇の条件がよくなかった」「人間関係がよくなかった」「仕事が自分に合わない」が上位の理由として挙げられています。
今回は、学生が希望通りの配属を実現するための活動である「配活」について説明します。
配活(配属活動)とは?希望の部署に配属されるために
「配活」とは、就活で内定を得た学生ができる限り希望通りの配属になるよう内定先企業にアプローチすることです。「配属活動」を略して、ハイカツ(配活)と呼ばれています。
入社後に希望通りの職種や部署、勤務地に配属されるよう、内定先企業の希望部署に自身を売り込むことや、職種や部署に必要となるスキルを得るために専門学校に通うなど、さまざまな活動を行なう学生が増えているようです。
配活実施の背景について
長い就職活動後、希望の内定をもらった後でも、残りの学生生活をのんびり過ごすのではなく「配活」に励む学生が増えていると言われています。さまざまなツテをたどって希望する配属先の先輩社員に接触して自分を売り込む学生もいれば、やりたい仕事に関する知識を深めて入社前研修などでアピールしたり、提出する課題にそれとなく希望を書きこんだりと、それぞれの希望の伝え方はさまざまです。中にはフェイスブックで先輩を見つけ、配属に関する情報を集めようとする学生もいるといいます。
多くの企業は採用段階で、学生に「希望する部署に配属されなかった場合はどうしますか?」と確認をとっているものですが、実際に個人の希望はあったとしても組織の方針に従う意思をはっきりと表明できる学生でなければ、内定を得ることは難しいでしょう。
それにもかかわらず学生たちが「配活」に駆り立てられるのは、最近はやりの「自己実現」ということにとらわれ、何が何でも自己実現しなければならないという一種の強迫観念にとらわれているからではないか、と分析する専門家もいます。
最近は、いわゆるブラック企業問題などがクローズアップされていることを背景に、入社後の現実とギャップの違いに強い警戒心を抱く学生も少なくありません。内定者の「配活」には、自分の希望をかなえるというだけでなく、自分が自分らしくいられない部署や配属を避けたいという自己防衛という側面もあるのではないか、と言われています。
配活を行う学生にとってのメリットについて
配活は、内定を手にした学生にとって自分が意欲を持って仕事に取り組むために必要な活動と言えます。とはいえ該当の部署に空きがないこと、あるいは会社がその人材に期待する将来への道筋など、必ずしも自分の希望が叶うとは限らないのが実情ということを理解してもらうことも重要です。
配活のメリットの一点目としては、自分のキャリアプランを明確にできるものがあります。ただやってみたい、憧れているというだけではなく、自分がその仕事に就いてどう成長していくのかを考える機会として、企業分析も怠らないようになることが期待されています。
ここ数年で多くの企業も学生の声を柔軟に聞くような姿勢が見受けられます。学生としても、希望する職種に有効なスキルや経験などの自分の希望だけでなく、企業からもメリットとして受け取ってもらえる自己アピールを考える良い機会になります。
配活を受け入れる企業としてのメリットについて
企業としては、配活に関する学生の狙いはどうであれ、彼らが内定段階から意欲を示し、入社後を見据えて組織や仕事への理解を深めようとする姿勢自体は歓迎こそすれ、敬遠するものではないというのが一般的な見解です。
採用活動の後ろ倒しで応募から選考までの期間が短気になった分、学生本人の企業・業界研究が不足しやすく、企業と内定者のコミュニケーションを十分に取れない現状を考えればなおさらです。実際、内定者からの「いろいろな部署の先輩社員を紹介してほしい」という相談を受け付けている企業もあります。
モチベーションの高い学生の意思を良い形でつなぐことは、企業としても、配属の仕方を考える機会になったりもするというメリットもあるでしょう。
配活を行う学生にとってのデメリットについて
配属は個人の努力だけでは決まりません。そもそもの全社の方針や事業部の方針も影響します。人事の独断ではなく、配属先の部署からの影響も受けます。内定式で希望する部署の部長に「私たちの部署に来ればいい。人事には話をしておくから」といったことを言われることもありますが、配属時にはその部長が異動になっていることもあるでしょう。
希望通りの配属にならなくとも、意外な可能性を見つけることもあるかもしれません。ここで気をつけておくべきは、希望を無理に通そうとして信頼をなくすことをしてはいけないことです。
内定が決まった後でも、内定者は多くの社員、特に人事から見られています。内定後の時間に評価を下げてしまうということは割とあることなので注意が必要です。働き方に対して希望を出すことは、熱意を持って仕事に取り組む気持ちの表れと見てくれる人もいますが、悪く言えば、自分のやりたいことしかやらないという意思表示とも取られかねません。
配活を受け入れる企業のデメリットについて
企業としては、内定者が意識高く自分の配属先を考えてくれ、そのために努力をしてくれることは望ましいことではあります。時に学生の配活と企業側の考え方が合致せず、それによって人事部の労力がかかったり、将来有望な学生が会社を見限ってしまうことはデメリットになります。
内定者が内定段階から意欲を示し、入社後を見据えて組織や仕事への理解を深めようとする姿勢自体は歓迎こそすれ、敬遠するものではないというのが一般的な考え方です。個人の希望をある程度ハンドリングできないと、企業としてはただ疲弊するばかりです。
会社としては、特に有能な人材には、将来の幹部候補という期待を込めてさまざまな経験をさせたいというのが本音で、この点で双方の考えに相違が出てしまうこともあるでしょう。この考えの相違で仕事に対するモチベーションが下がってしまうことに懸念を抱く企業も多いものです。
新入社員・企業の双方に納得感のある配属先選定を
配活とは内定者が希望通りの配属になるために、企業研究や企業へのアプローチを行う配属活動のことです。学生もキャリアアップできるかどうか、仕事内容が自分にあっているかを不安に感じているものです。
人事部としては希望する配属先に配属できない場合は、適性などの根拠あるデータも踏まえて、配属先を決定した理由や根拠などについて説明しなければ、学生の希望と現実のミスマッチによるモチベーションの低下や離職を引き起こす可能性は十分理解しておくことが必要です。