「辞めない人材」が大切な理由
1つの会社で働き続けるか、それとも転職をするか。日本では長く終身雇用の文化が定着していましたが、グローバル化や雇用のダイバーシティが促進され、人それぞれのキャリアプランの幅が広がりました。
とはいえ、人材不足は深刻です。人が採りにくい現状だからこそ離職率の改善は多くの企業で急務となっています。しかし、大学新卒者の三年離職率は3割を超えているという状況が何年も続いており、具体的な対策が進んでいないことが示唆されています。
厚生労働省の調査によると、50代半ばまでの転職回数は0回が約半数という結果が得られました。
終身雇用の考え方が残る世代とも考えられますが、2回以上転職している人は30%以上おり、これは転職する人と転職しない人には特徴があることが推測されます。
今回は、採用活動で「辞めない人材」を獲得するために「求める人物像」をどのように設計していくべきかを説明します。
「求める人物像」の大前提は性格と価値観のマッチング
大切なことは「全ての人間にとってベストな会社など存在しない」ということです。人も会社もそれぞれに価値観や大切にしたいものが異なっていますので、全ての人間を対象にその差をゼロにするのは原理的に不可能です。だからこそ、まずは自社にフィットする可能性がある人材をしっかり見極める必要があります。
人には2つの性質があります。1つはこれから改善・成長が期待できる「後天的性質」、そしてもう1つは生涯を通じてほとんど変わらない「先天的性質」です。採用の段階で特に注意深く見極めたいのが後者の「先天的性質」で、これは性格や価値観が該当します。
仕事を辞めない人づくりには、まず「会社が掲げる理念や目標に共感できる人材」を探すことが前提条件となるのです。
「辞めない人材」を「求める人物像」に落とし込む
価値観や考え方は企業側も求職者側も簡単に変えられるものではありません。一方で「目標達成に向けて熱意を持って活動した経験がある」や「コミュニケーション能力が高い」などの要素は、多くのひとに当てはまります。業界・業種未経験者など募集の敷居を下げるためには、こうしたものを「求める人物像」に組み込んでいくと、不必要に間口を狭めてしまうのを回避することができます。
「辞めない人材」のポイントは、前提条件にあげた「価値観・考え方の一致」のほか「粘り強くひとつのことに取り組める」ことや「コミュニケーション能力が高い」という特徴があります。このままでは抽象的で判断しづらいので、具体的な物事に置き換えて求職者へ訴求することが大切です。
「粘り強さ」を「求める人物像」に落とし込むなら、キーとなるのは「成功体験」です。離職理由ではよく「仕事のやりがいが感じられない」が挙げられますが、仕事を辞めない人材の特徴は「業務内容によらず仕事を通してやりがいを自ら見つけられる」傾向があります。
ヒントになるのが「現在活躍している社員」です。入社前になにをしていたか、学生時代に打ち込んだことはなにか、どんなことにやりがいを感じたか……などのインタビューを求人広告に掲載すると、同様の経験を持つ求職者からの共感を得られやすくなります。
コミュニケーション能力を「求める人物像」に落とし込むにあたって注意しなければならないのは、ビジネスとプライベートで必要なコミュニケーション能力は別物であることです。プライベートでは単に他人と仲良くできる能力を指すことが多いですが、ビジネスでのコミュニケーションは「相手が求めていることを察知し、それを適切に差出せること」です。
「求める人物像」に落とし込むなら、数あるコミュニケーション能力のうちのどんな能力を重視するのかを細分化し、社内で検討・共有することが大切です。
たとえば「仕事を辞めない人材」をターゲットにしたいなら「チームプレイが好きな人」や「教育やマネジメントが得意な人」が挙げられます。ポイントは「人が好き」などの漠然とした言葉で訴求するのではなく、具体的な行動を想起させるピンポイントの事柄を「求める人物像」に盛り込むことです。
「辞めない人材」のデータを在籍中に集める
「辞めない人材」を「求める人物像」に落とし込むには、これまでの従業員やいま活躍している従業員のデータの取得・活用が有効です。
仕事を辞めてしまった人・辞めずに続けている人を分析し、行動レベルの特徴を言語化することからはじめましょう。辞めてしまった人のデータは取得しづらいため、在籍中からデータを取得しておくことが大切です。
「仕事を辞めない人材」の分析が採用成功のカギ
仕事を辞めない人材を求める人物像に落とし込むためには、特に入社後に変わりにくい性格や価値観などに着目することが重要です。
自社を辞めてしまった人材、定着している人材の特徴を比較することで、「辞めない人材」がどのような行動的特徴を持っているのかを把握しましょう。当然のことながら、「辞めない人材」を「求める人物像」に落とし込むだけが採用業務ではありません。採用段階でどのように見極めるのか、客観的かつ根拠のある判断ができる仕組みづくりも同様に重要です。