解決されない日本企業の長時間労働問題
日本の長時間労働割合は諸外国に比べて高く、時間外労働の長さや育休・有給取得率などと合わせて、Karoshi(過労死)という言葉が日本の言葉として知られるように日本の労働環境は一般に過酷であると言われています。
長時間労働は出生率低下や女性の社会進出の阻害要因となっているとされ、日本社会が解決すべき課題であると認識されており、政府の推進する「働き方改革」においても長時間労働の是正のための労働時間規制が盛り込まれるなど対応が取られ、一方で生産性に悪影響を及ぼし企業の評判を下げることなどから各企業においても対策が行われてきました。
パートタイマーを抜いた一般労働者の労働時間は長らく横ばいが続いており、2019年に行われた調査においても40%を超える企業で違法な時間外労働が常態化していることが分かっています。
出典元『内閣府』第2章 働き方の変化と経済・国民生活への影響
参考URL『厚生労働省』長時間労働が疑われる事業場に対する平成30年度の監督指導結果を公表します
慢性的な長時間労働は企業にも、そして労働者にも深刻な影響を及ぼします。今回は長時間労働が労働者に引き起こす問題について説明します。
長時間労働が従業員に与える健康被害と精神障害リスク
長時間労働は、プライベートの時間が減少することによって休暇の時間が減少し、様々な健康被害を与えると考えられています。
- うつ病リスクの増大
- 過労死リスクの増大
- ワークライフバランスの悪化
- 創造性の低下
- 生産性の低下
1.うつ病リスクの増大
過剰な長時間労働は従業員を疲弊させ、意欲を下げていきます。繁忙期や期日などの短期的な長時間労働であれば、その後にしっかりと休みを取ることで回復が可能ですが、慢性的な長時間労働では睡眠や休養の機会がないままに疲労が蓄積し、うつ病の発症につながります。
通常うつ病からの復帰には一年以上かかるケースが多く、その間は会社に出社できず症状からの回復に当てることになります。復職までの間の給与保証や訴訟リスク、代わりの従業員の雇用・教育などのコストは数千万以上に及ぶこともあります。
うつ病は単に労働時間だけでなく、業務内容やノルマ、プレッシャーなどによるストレスも大きな影響を与えている上個人差も大きいため、発症を防ぐためには総合的な配慮が必要になります。
2.過労死リスクの増大
働き過ぎによって、心身の健康を損なった場合、従業員が死亡してしまうことも少なくありません。直接的な死因は自殺、健康障害など様々ですが、月80時間の時間外労働が「過労死ライン」と言われており、このラインを超える残業は過労死を招く危険な状態と言えます。
労災の認定が下った場合には、遺族からの損害賠償請求や訴訟などの大きなリスクを負うだけでなく、社会からの評判も地に落ちてしまいます。
3.ワークライフバランスの悪化
長時間労働が慢性化すれば仕事中心の生活となり、仕事に行き、帰ってきて寝るだけの生活になってしまいがちです。そうなれば他のことをする時間もなくなり、友達と遊んだり趣味に没頭したり、恋人と時間を過ごすことが難しく、日常に充実感・幸福感を得ることが難しくなってしまいます。
結婚して家族が居るような場合では、家族と過ごす時間も無く、家庭がうまくいかない原因になったり、家事や子育てに当てる時間がなく、精神的に追い込まれていくことになります。
4.創造性の低下
心理学の研究によれば、創造性は時間的・心理的に余裕がある状況において高く発揮されることが分かっています。
長時間労働によって時間的・心理的余裕が奪われてしまっている状況では、業務においてもそれ以外でも創造性を発揮することができなくなります。
5.生産性の低下
労働者は特定の業務時間において生産性を発揮しやすいことが分かっています。日本の労働時間は、生産性を発揮しやすい業務時間に比べて約22%高いとされています。生産性が上がれば労働時間を短縮するという考えを持っている企業は多いようですが、実際は労働時間が長いために労働生産性が上がっていないことも考えられます。
長く働くことが良しとされている会社では、仕事がなくても帰れない、帰りにくい、といった風潮があることも多く、生産性が軽視されている場合が少なくありません。
長時間労働を是正し、従業員の健康にも注意しよう
長時間労働は当然のことながら従業員(労働者)に悪影響を与え、深刻な問題を企業に引き起こす可能性もあるため、真剣に取り組むべき問題です。
RPAなどによる業務の自動化も進んでいるものの、非定型業務が自動化されるのはまだ先であると予測されており、組織運営には人材が欠かせないため、長時間労働の是正のためには、会社として個々の従業員を尊重する姿勢が求められています。