経営人材の育成は国としても重要な課題となっている
経営人材の育成は、人事の重要課題として上位に挙がるテーマのひとつです。
経済産業省の調査によると、将来の経営人材の確保・育成について「順調」と答えた企業は7.2%しかなく「どちらかというと順調」を含めても37.6%となっており、過半数の企業が経営人材を確保・育成できていない現状が明らかとなっています。
経営人材の育成は、日本を支える各企業にとっての課題であるため、国にとっても重要な課題となっています。経済産業省は、日本企業の成長を支援するために「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」を策定・公開しています。
今回の記事では、経済産業省が公開している経営人材育成ガイドラインの内容を分かりやすくご紹介します。
経営人材育成のガイドラインとは?策定された目的やガイドラインの内容について
経済産業省が経営人材育成ガイドラインを策定した目的としては、日本企業のグローバルビジネスにおける競争力の向上が挙げられます。
従来の日本企業では、新卒一括採用から始まって組織の経営層を目指す、いわば「平等主義的な年功序列型の人事管理」で維持・発展してきました。また、日本独自の「職能型」の人事制度を活用して社内でさまざまな経験を積ませ、組織独自のスキルを築かせることで、自社ならではの優秀なジェネラリストを育成してきました。
日本型雇用システムは、右肩上がりの成長期においては非常に有効でしたが、ビジネスを取り巻く環境が大きく変化した現代においては、多くの制度疲労を起こしていると言われています。ビジネスが多極化する今の時代では、類似の経験を培ってきた人材のみで構成される硬直した組織では、海外の勢いのある企業と比較して競争力が低くなります。
経営リーダー人材のマネジメント能力という観点では、日本企業の多くは40才前後から管理職としてマネジメント経験を積みはじめる方で、欧米をはじめとする海外の企業では、20~30才代の段階から実務を通じて経験を積んでおり、同じ年齢で比較した際に経験値に大きな差が生まれています。
先進的なグローバル企業では、経営人材の早期選抜を行い、候補者に自社のフィロソフィーの徹底や経営リテラシーの教育を若手の頃から受けさせています。旧来の日本企業とグローバル企業の体質違いは、多様な人材が働くグローバル企業の経営層に日本人が少ない原因のひとつになっているといわれています。
経営人材育成ガイドラインの内容とは?
経済産業省がまとめた経営人材育成ガイドラインでは、経営人材の育成における重要な要素として、以下の4つを挙げています。
- ビジョンや経営戦略を実現する上で重要なポストおよび要件の明確化
- 人材の把握・評価と経営リーダー人材育成候補者の選抜・確保
- 人材育成計画の策定・実施と育成環境の整備・支援
- 育成結果の評価と関連施策の再評価・見直し
1.ビジョンや経営戦略を実現する上で重要なポストおよび要件の明確化
経営人材の育成における重要な要素の1つ目として、ビジョンや経営戦略を実現する上で重要なポストおよび要件の明確化が挙げられます。
経営人材を育成しようと思っても「どのポストに就く人材が欲しいのか」「そのポストにはどんなスキルが求められるのか」が明確でなければ、誰をどのように育てればよいのか、具体的な目標が何も分かりません。
経営人材の育成を始める前に、自社のビジョンや経営戦略を実現するために重要なポストを選定し、それぞれに求められるスキル・能力を明確化した上で、必要なスキル・能力を育成するための経営人材育成戦略を策定しましょう。
2.人材の把握・評価と経営リーダー人材育成候補者の選抜・確保
経営人材の育成における重要な要素の2つ目として、人材の把握・評価と経営リーダー人材育成候補者の選抜・確保が挙げられます。
経営人材の育成は長期的に実施するプロジェクトなので、何をいつまでに決めるかという時間軸の視点がなければ、効果的に実行できません。
育成対象となる人材の選抜については、できるだけ早い段階から選抜する「早期選抜」をどのように実現していくかが重要です。企業によっては、新卒採用の時点で経営人材枠での採用を実施したり、入社時から公募・選抜を行うところもあります。
社内人材のスキルや能力を把握・評価し、経営人材として育成する候補者を選抜するとともに、適切な人材がいない場合には経営人材候補者の採用に取り組みましょう。
3.人材育成計画の策定・実施と育成環境の整備・支援
経営人材の育成における重要な要素の3つ目として、人材育成計画の策定・実施と育成環境の整備・支援が挙げられます。
経営人材候補者の選抜以降は、候補者たちの成長を管理するシステムが必要です。システムの形式は企業によってさまざまですが、経営陣を中心としたメンバーが候補者一人ひとりの特徴や成長状況などを定期的に確認し、今後の育成プランを検討する場を設けます。
選抜された候補者はハイパフォーマーでしょうから、候補者の配置や異動を行う際は、全社的な調整が必要になります。特定の部門だけでなく全社で最適な人材を現場で育成していくためには、経営陣が複数人参加する会で進めていくのが効果的です。
一定期間チャレンジさせてみた後は、候補者の成長度合いを分析します。さらなる成長は期待できるのか、思いのほか伸び悩んだのかなどを確認して新しい課題を与え、実行と検証を繰り返して候補者の適性を見極めましょう。
4.育成結果の評価と関連施策の再評価・見直し
経営人材の育成における重要な要素の4つ目として、育成結果の評価と関連施策の再評価・見直しが挙げられます。
経営人材候補者にとっての成長機会は、大きく分けると「実務経験」と「研修」の二種類があります。
実務経験を通じた学習を意図的にもたらすためには、配置や異動をよく考えて行い、時には修羅場を経験させることも重要です。新しい業務や厳しい環境でチャレンジングな任務を与えることで、候補者の大きな成長を促し、適性を見極めやすくなります。企業によっては、国を越えて優秀な人材を登用する企業もあれば、候補者のために新しい仕事を一から創り出していく企業もあるほどです。
実務経験だけでなく研修から得る学習にも、日々の業務に役立つ知識だけでなく、日常業務だけでは学びきれない経営視点の知識を補完するという役割があります。経営人材の育成で最近特に注目されているのが「アクションラーニング型研修」です。
アクションラーニング型研修とは、研修前半にインプットをした後、後半で自分なりのアウトプットを考えさせるという形式の研修です。アウトプットは「事業の成長戦略の提案」や「新規事業提案」になるケースが多いと言われています。
経営人材の育成に取り組む際には、育成計画だけ立てて本人や現場に任せっきりにするのではなく、定期的に経営人材候補者の育成結果を評価して候補者や育成計画へのフィードバックを行い、経営リーダー人材の育成に関する施策の再評価や見直しを行いましょう。
ガイドラインを参考にして、自社ならではの経営人材を育成しよう!
日本企業の成長は日本経済の成長につながるため、多くの企業が課題としている経営人材の育成に対して、経済産業省が「企業価値向上に向けた経営リーダー人材の戦略的育成についてのガイドライン」を策定・公開しています。
経営人材育成ガイドラインには、経営人材の育成戦略はもちろん、根拠となる様々な調査データも併せて記載されています。本記事はガイドラインの内容を簡単にまとめたものですので、より詳細を知りたい項目についてはガイドラインを熟読し、自社の経営人材育成戦略へ落とし込んでみることをお勧めします。