「労働生産性」を意識した働き方が難しい日本
働き方改革で解決したい課題の一つに、「労働生産性の向上と効率化」があります。少子高齢化などでの労働力不足への対応が急がれる昨今、労働人口の拡大はもちろんのこと、一人あたりの労働生産性向上が注目されています。
しかし実際には、OECD加盟国中の日本の時間あたり労働生産性(就業 1 時間当たり付加価値)は46.0 ドルで、35カ国中20位で、これは米国の 3 分の 2 の水準で、先進主要7カ国中(フランス、アメリカ、イギリス、ドイツ、日本、イタリア、カナダ)最下位の状況が続いています。また、就業者1人当たりでみた2016年の日本の労働生産性は、81,777ドル(834万円/購買力平価(PPP)換算)。順位は、OECD加盟35カ国中21位となっています。特に、運輸や卸売、小売業、飲食・宿泊業などの主要分野が弱い状況にあるのも特徴の一つです。
出典元『公共財団法人 日本生産性本部』労働生産性の国際比較 2017 年版
労働生産性の指標には、さまざまな計算式の“からくり”のようなものがあり、確実に日本の労働生産性が低下している、ということは言えない、というのが最近の主流の意見です。ただ、日本企業によくみられる、「内向き」で「非効率」な仕事の仕方は、いずれにしても、ビジネスのスピードが速い現代においてはマイナスでしかないと評価されています。
日本の労働生産性は、いかにして向上させていくことができるのでしょうか。
労働生産性の向上について考える
「生産性」とはそもそも、投入資源と産出の比率を意味します。投入した資源に対して産出の割合が大きいほど、生産性が高いということになります。
生産性=産出(Output)/投入(Input)
労働生産性とは「産出(労働の成果)」を「労働量(投入量)」で割ったもの、言い換えれば「労働者1人あたりが生み出す成果」あるいは「労働者が1時間で生み出す成果」の指標です。
出典元『BOWGL』労働生産性とは?混同しがちな定義と計算式をわかりやすく解説
労働生産性は、労働者が成果を産み出すうえでの効率を数値化したものであるため、「労働者のスキルアップ・業務効率化」「経営効率の改善」によって上昇します。
労働生産性の向上を考える場合、売り上げを単に増やすだけではなく、売上単価の上昇や、原価率を引き下げる努力も必要となります。とはいえ、人件費の削減などは簡単に着手できない領域でもあります。
付加価値額をあげる方法について
売り手市場や労働者不足と言われる現在の日本において、労働者の人件費を減らしてしまうと、より採用が困難になってしまったり、退職(転職)を引き起こしかねません。結果、そもそもの成果が生まれなければ、企業活動を継続することが困難になる恐れもあります。
人件費を減らすのではなく、まずは同じ労働投入量で付加価値額を上げることが重要です。では、どのようにして付加価値額を上げればよいのでしょうか?
効率の追求よりも、高付加価値型のビジネス創出を
労働生産性を向上させるには、大きく2つの方法があります。「業務効率の改善」と「ビジネスの高付加価値化」です。
業務の効率化を追求することはもちろん重要ですが、採用力を強化し優秀な人材を獲得し続けるためには、社員の持つ能力やスキルが付加価値に直結し、獲得した付加価値が社員の報酬に反映されるようなビジネスモデルが必要となります。
社員の持つ能力が発揮できる会社であれば、社員一人ひとりが活き活きとして働くことができます。仕事を通して、一人ひとり内容は違うものの、自己実現をすることも可能となります。魅力的な社員が多ければ、求職者に対してもアピールすることができ、結果優秀な人材が集まるという好循環が生まれます。
評価制度の見直し
組織を活性化させるためには、評価制度の見直しも重要です。既存の年功序列を前提にしたような評価制度を見直し、成果を適正に報酬に反映するシステムへと変えていくことが重要です。
従来の日本企業の報酬形態では、フルタイム勤務の社員や残業が多い従業員に、相対的に多くの賃金を支払っているケースが大半でした。今後は労働の時間ではなく、個人が創出させた付加価値を評価できるような制度の構築が求められます。
採用市場においても、自分の力を試したいといった優秀な人材へ「年功序列ではなく、成果を適正に報酬に反映する」ことをアピールできます。成果を上げれば上げるだけ報酬に反映されることは、優秀な人材のモチベーション向上にもつながります。
産業構造の転換
製造業が大きな役割を担ってきた日本経済ですが、最近では、製造業に依存した経済政策から新たなイノベーションによる新しいサービスの創出が求められています。
自動車メーカーのトヨタは、2018年1月にアマゾンやUberなどと提携して「単なる自動車メーカーではなく、モビリティを提供する会社」となろうとしています。一方で、Googleの自動運転車開発部門が分社化したウェイモが、自動運転車の人工知能に関する特許を多く取得し、特許競争力においてはウェイモが1位、トヨタ自動車が2位となっています。製造業だけの競争力だけでなく、他の業界との競争力が必要とされています。
参考URL『日本経済新聞』グーグル、トヨタを逆転
今後、鈍化するであろう日本の経済において、新たな雇用や需要の確保はもちろん、高付加価値型を実現できる産業構造の刷新とイノベーションの創出は、日本企業全体の課題でもあります。
労働環境の改善
労働生産性を向上させるには、労働環境の改善は欠かせません。
マネジャーが社員の労働時間を適正に管理し、業務を効率化すべきは効率化し、時間をかけて検討する部分はスケジュールや予算をしっかりと組み込むなど、メリハリをつけた業務形態に見直す姿勢が求められています。
フレックスタイム制の拡充やテレワークの実施など、柔軟性の高い労働環境の整備が必要なのです。
グローバル市場への進出
労働生産性向上には、日本市場だけでなく、海外の市場を見据えることも重要です。当然のことながら、日本国内の市場よりも世界全体での市場の方が大きく、日本企業が予想もつかない部分にニーズがある可能性もあります。
多くの経営者が注目している経営戦略として「リバース・イノベーション」という手法があります。新興国に研究開発拠点を置き、現地のマーケットに即した開発技術やサービス、アイデアを先進国に逆輸入するというイノベーションです。
海外市場での経験値が企業に新たな付加価値を生み出し、労働生産性の向上につながる可能性があります。
自社のビジネスモデルを再確認するところから始める
労働生産性を向上させるためには、まずは付加価値額を上げる必要があり、ビジネスモデルの見直し・業務の効率化を実施することが求められています。非効率だった業務で発生した残業代などを、新規ビジネスモデルや更なる業務の効率化への投資など、より生産的な活動に使うように転換させていくことも必要でしょう。
生産性向上のために組織や構造を見直すことは、組織自体へのインパクトは大きく、時間や手間など物理的な労力はかかりますが、まずは業務の効率化を阻んでいる理由を分析し、改善していくところから始めてみてはいかがでしょうか?