インターンシップに似たジョブシャドウイング制度
日本の経済が堅調な状態が続いているのに比例して、売り手市場も進んでいます。昨今の新卒採用市場で、優秀な人材をいかに集め就職に結びつけるかは、多くの企業が悩む問題です。人材との早いタイミングでの接触、自社で働くメリットを多方面からアピールできる場として企業・学生双方から注目を集めているのが『インターンシップ制度(プログラム)』です。
多くの企業がインターンシップを実施し、多くの求職者もインターンシップに参加しています。ディスコの調査によると、学生のインターシップの参加率は86.2%にもなり、ほとんどの学生が参加していること、企業の実施率も74.9%と、4社に3社はインターシップを実施してます。
出典元『株式会社ディスコ キャリタスリサーチ』インターンシップに関する調査
実施目的としては「仕事を通じて、学生に自社を含め、業界・仕事の理解を促進させる」ことが最も多く、実施期間でも1日の開催が最も多いという結果になっています。
出典元『株式会社ディスコ キャリタスリサーチ』インターンシップに関する調査
しかしながら、半日や1日などの短期であるほど、学生からの満足度が低い傾向にあります。伝えられることが限られている中で、参加者を満足させるプログラム内容を考えることも課題となっています。
出典元『株式会社ディスコ キャリタスリサーチ』インターンシップに関する調査
今回は、インターンシップの1種類である「ジョブシャドウイング」について説明します。
ジョブシャドウイングとは?インターンシップとの違い
ジョブシャドウイングとは、児童や生徒、大学生が企業の社員として、社員がどのような仕事をしているかを観察して学ぶ取り組みのことです。もともとは米国で子供達の職業体験プログラムとして誕生しました。
インターンは実際の業務に携わりますが、ジョブシャドウイングは実際の仕事はせずに観察に徹するので、インターンの前段階という位置づけとも言われています。日本では中学校や高校のキャリア教育として採用されることが多く、また大学生の早い段階で行われることもあります。ジョブシャドウイングを通して実際の労働を間近で観察することで、子供たちの就労への意識が明確になる機会になります。
ジョブシャドウイングを実施する目的について
ジョブシャドウイングは、企業訪問を通じて、座学や本、ウェブサイトなどではわからない実際の業務を体感できる機会です。1dayインターンシップなどで見られる「ワークショップ」や「オフィスツアー」といった企画に参加するのとは異なり、実社会で社会人がどのように働いているのかを見ることで、将来自分が「働く」姿をより具体的にイメージできるようになります。
ジョブシャドウイングでは、訪問先企業の社員や、他の大学・高校生など、さまざまな年代の学生が出会う貴重な時間にもなります。学生たちは新しい価値観や考え方を知り、自分が持っている社会に対する固定観念を改めることをほぼ同時に学ぶことができ、“働く目的”や“働くことの魅力”を感じることもできます。
マクロな視点で企業活動を捉えることで、学生の「業種・職種の認識」の拡大が促進されると同時に、どの仕事でどういったスキルが必要なのか検討できるので、学生・生徒が納得のいくキャリア選択を始めるきっかけにもなります。
ジョブシャドウイングを実施する企業としてのメリット
ジョブシャドウイングは、子供達を受け入れる企業側にもメリットがあります。近くで子供たちに観察されることで、自分の仕事の意味を改めて感じる機会になり、仕事の意義を明確にする時間になることでしょう。子供の新鮮な視線や素朴な疑問を聞くことで、新たな気づきを得て仕事にむかえるようになります。
第三者がいることで、ジョブシャドウイングに関係ない社員も含め、職場全体が活性化される効果も期待できます。企業として若手社員にジョブシャドウイングを任せることで、社員自身が自分のキャリアを見直す機会にもなり、彼らが成長する一つの手段としても活用できます。
- 企業イメージの向上、宣伝効果が期待できる
- 未来の人材育成への貢献
- 人材の採用活動や教育研修費などの削減につながる
- 社員のモチベーションが向上する
- 地域社会への貢献につながる
ジョブシャドウイングを実施する企業の社員にとってのメリット
ジョブシャドウイングに参加した学生が実際にその会社に就職するなどの形は、学生にとっても企業にとっても大きな効果です。学生を受け入れる担当社員の中には、自分が教育を享受し、今の自分の仕事が恵まれていると感じる機会にもなり、自分が享受したことを地域社会に貢献するいい流れもできます。
学生たちに仕事内容を説明することで、自分の仕事の重要性を再認識でき、モチベーションを高めることにもつながっています。
- 学生世代との関係を構築できる
- 自分の仕事を見直す機会になる
- 地域社会に貢献できる
ジョブシャドウイングへの参加者としてのメリット
多くの職業に対して漠然とした興味があるものの、どの道に進めばいいか迷ってしまい一つに絞り込めないような生徒は、ジョブシャドウイングの利点を活かして、短時間で複数の職業を体験することによって自分の嗜好や適性が見えてきます。
職業を美化したり、給与の高さなどの条件のみを重視する傾向がある若者には、仕事の現実をきちんと知ることが大切です。実際に職務を見学することで、どのようなスキルや知識が必要とされ、習得するためには学習の継続が不可欠であることに気づけます。
米国には年齢に合わせた多様な職業体験プログラムがあり、地域ごとに非営利団体の支援組織が活動しています。支援組織は教師や企業の負担がかかりすぎないよう、専門スタッフを派遣して企業や学校にアドバイスをしています。ボストンでは小学生から中学生向けにはジョブシャドウイング、高校生には夏休みを利用して短期間の就業体験をするサマージョブを実施しているところもあります。
日本でも、中学2年生が5日間職業体験する兵庫県の「トライやる・ウイーク」や、沖縄県キャリーセンターが実施したジョブシャドウイングが注目を集めました。若年者の失業率の高止まりやフリーターの増加が問題になっているだけに、米国のように幼いうちから職業観を育てる教育を充実させていく必要があります。
- 学校での自分たちの学習と仕事のつながりを認識できる
- 学習へのモチベーションが向上する
- 進路の選択に役立つ
- 将来に向けてさまざまな職業の選択肢があることを学ぶことができる
- 希望の職業に就くために必要な情報を得る機会になる
ジョブシャドウイングは従業員にも良い影響を与える
ジョブシャドウイングとは社会人の1日を観察するインターンシップであり、米国などでは中~高校生などを対象として実施されていますが、大学生を対象として実施することもある制度です。
1日のみのインターンシップでは、実際に業務を体験しようとすると教育などの説明の時間によって業務の一部分のみを体験する形になりがちですが、観察することによって実際の業務の全体像を把握することができる注目を集めている方法です。