ワークプレースメントとは?日本でも活用されているのか
少子高齢化に伴う学生人口の減少により、優秀な学生を獲得する競争はしばらく続くと考えるのが妥当でしょう。文部科学省の報告によれば、2040年には今よりも10万人以上減少すると見込まれており「良い時期が来るのを待つ」のは得策といえません。積極的に人材戦略を立て、実施していかなくては企業の人材力が低下してしまう状況が現在だといえます。
リクルートによる就職白書2019では、「入社予定者への量的・質的満足度」の「量・質ともに非満足」の割合が増加してきており、学生の獲得がより厳しくなってきている現状が報告されています。
人材獲得の難易度が高まる一方、マイナビの調査によれば、採用予定数を増やす企業が多く、17年卒と比べて約20%も増加していることが分かります。人材獲得競争がさらに激化することが予見され、採用活動ではターゲットの裾野を広げる戦略が不可欠となります。業界・業種にとらわれず、経験や専門性でなく、汎用性の高い実務スキルを持った人材を上手に見極めることが大切になります。
人材との早いタイミングでの接触、また、自社で働くメリットを多方面からアピールできる場として近年、企業・学生双方から注目を集めているのが『ワークプレースメント制度(プログラム)』です。
ディスコの調査によると、学生のインターシップの参加率は86.2%にもなり、ほとんどの学生が参加していること、企業の実施率も74.9%と、4社に3社はインターシップを実施してます。実施目的としては、「仕事を通じて、学生に自社を含め、業界・仕事の理解を促進させる」ことが最も多いという結果になっています。
出典元『株式会社ディスコ キャリタスリサーチ』インターンシップに関する調査
今回はインターンシップとは少し異なる、有償型の就業体験プログラム、「ワークプレースメント」について説明します。
ワークプレースメントとは?インターンシップとどう違うのか
ワークプレースメント (Work placement) とは、学生が在学中に一定期間、派遣社員という形で企業で就業体験を行う取り組みのことです。ワークプレースメントは、インターンシップとアルバイトのメリットを融合させた新しい就業体験プログラムと言われています。
ワークプレースメント制度は、1970年代に英国で大卒者の就職状況が悪化した際に導入されたのがはじまりとされています。大学などの教育機関が企業と連携しながら、実践的なビジネス人材の育成を向上させる取り組みとして普及しました。英国などの欧米は、在学中の生活費は自分で賄うことが当たり前とされている土壌があります。報酬を得ながら、社会人としての実践力を身に着けることができるワークプレースメント制度は、学生には不可欠なものとなっています。
ワークプレースメントが普及した背景について
英国におけるワークプレースメントは、1970年代、大卒者の就職状況が悪化したことを受けて導入されました。主に理工学系や語学系の大学で制度化され、普及・定着していきました。
実施にあたっては、まず2年間大学で学業に専念します。次の1年間は企業での実習などに充て、最後の1年で再び大学で学ぶ“サンドイッチ方式”で行われることが多く、1年程度の長期間における就業が伝統的なワークプレースメントの形式として定着しています。
近年では短期間で実施されるものも増えており、実施形態は多様化しています。報酬を得ながら実際に社会に出た際の就業力を向上させるワークプレースメントというプログラムは、英国などの学生にとって、不可欠の制度になっています。
ワークプレースメントを実施する企業としてのメリットとは
ワークプレースメントを実施する企業のメリットとしては、就業体験を通して、自社に興味のある学生に直接PRでき、その資質などをじっくり見極めながらアプローチすることができる点が挙げられます。また「学生の就職のための社会貢献」に積極的な企業として、CSR評価も高まることが期待されます。
実験的にワークプレースメントを行った企業では、ワークプレースメント採用された学生のうち実際に就職を希望していた人は、体験前は17%だったものが体験後には57%にまで上昇したというところもあります。実際に就業を体験してもらうことで、企業自体のイメージアップにもつながる面もあります。
ワークプレースメントを実施する企業としてのデメリットとは
ワークプレースメントを実施するためには、通暁の業務に与える影響を理解しておく必要があります。学生を受け入れるにあたっては、どの部署で誰に担当してもらうかを決める必要があります。社会経験のない学生に対して、基礎的なビジネスマナー、企業理念から実際の業務のノウハウまでを最所から説明し理解してもらう必要があるため、簡単に引き受けることができる業務ではありません。通常の業務時間を割く必要があるため、ワークプレースメントの意義やメリットについて、社員に理解と協力を求めることは不可欠なのです。
プログラム実施のための求人には広告費用などがかかります。大企業など知名度がある企業は自社のホームページに募集情報を出すだけで十分かもしれませんが、そうでない場合は各種就職情報サイトや情報誌など、学生の目に触れるメディアでの広告宣伝活動が必要になります。
プログラムを実施するにあたっては、支給するパソコンなど備品の手配や、交通費、宿泊費の手配なども検討事項となります。とはいえ新卒採用1人の採用コストを考えると、ワークプレースメントは低コストで採用に高い効果が見込めるといったデータもあることから、一度コストを試算して検討する価値はある、というのが一般的な見解です。
ワークプレースメントに参加する学生としてのメリットについて
日本の大学生も、長引く景気低迷の影響で仕送りが年々減少しています。アルバイトとインターンシップのメリットを融合させたような、ワークプレースメントに対する学生の潜在的ニーズは少なくないでしょう。
日本で実施されているプログラムでは、派遣社員として職場に受け入れるのが特徴です。在学中の学生なので、学業に支障のない働き方が基本になりますが、学生に提供される就業体験そのものはアルバイトより実践的で、正社員とともに、営業や企画、マーケティングなどの実務が経験できる内容になっています。本人の姿勢次第では、即戦力としてのスキル修得も可能という意味では、学生側のメリットは大きなものになります。
その会社の「社員」として働くことで、組織について学ぶことができるのもメリットです。業務をすすめる上ではどのように協力しなければならないのか、自分自身の役割や期待されているものはなにかを実践しながら学ぶことができます。社会人としてのビジネスマナーやコミュニケーションを効果的に身につけることが出来ます。
就職活動前に企業や専門的な仕事を知ることで、自身の視野が広がり、企業研究・就職活動にも役立ちます。学校で学ぶ勉強と入社後に学ぶ勉強の違いを理解し、将来実現したいことなどについて具体的なイメージをわかすことができます。
ワークプレースメントを組織活性化につなげる
ワークプレースメントとは英国発祥の有償型職業体験制度のことであり、アルバイトとインターンシップを兼ね合わせたような形式の制度の総称です。
実際に実務に携わってもらうことで、業務内容とのミスマッチを防げる効果もありますが、業務に携わってもらう以上、最低賃金以上の報酬を支払わなければ違法になるだけでなく、労働契約書などの手続きも必要になります。無償のインターンシップと同じように実施するのは難しいものですが、ポイントを押さえておけば、採用や定着においても非常に効果のある施策となります。