激化する新卒市場と企業が抱える問題
昔から日本では、ほとんどの新卒学生は同じような就職活動を行っています。
人材サービスを展開する「マイナビ」の調査によると、たとえば、新卒学生が内々定を獲得した企業を発見したツールとして、「就職情報サイト」「インターンシップ」「合同企業説明会」などが挙げられています。
出典元『マイナビ』2020年卒 マイナビ学生就職モニター調査 7月 の 活 動 状 況
そういったウェブや合同説明会などで自社を効果的にアピールをする際には、自社が持つさまざまなデータを表やグラフなど視覚化して説明することは往々にしてありますが、同じデータであっても「フレーミング効果」によってアピール力の強弱が異なると言われています。
今回は、この「フレーミング効果」について、その概要をご説明します。
フレーミング効果とは?伝え方一つで印象が変わる!
フレーミング効果とは、実質的には同じ意味を表す選択肢であっても表現方法などが異なるだけで、受け手が全く異なる選択をしてしまう現象のことです。「人数や売り上げ、効果などといった事象を表すのに、表現方法が違うだけで受けての受け取り方が変わる」という行動経済学に基づいた理論で、認知心理学や行動経済学などの分野で研究されています。
人は複数の選択肢から選択をするとき、絶対評価よりも相対評価をする傾向があると言われています。客観的に見て合理的な判断をしないケースはよくあるのです。フレーミング効果は、広告のキャッチコピーや営業担当の営業トーク、マーケティングなどに利用されることが多く、日常のさまざまなシーンで使われています。
フレームというのは“枠組み”という意味で、つまり事象が持つ意味を囲んでいるものを指しています。クライアントやカスタマーが望ましい行動をとるような文章やデザインなどの表現を使うだけで、売上に変化が生まれるのは周知の事実で、現代では一般化したテクニックの1つ、とも言えます。
フレーミング効果の具体例について
ある一つの質問に答えてみてください。「10%の確率で9500円をもらえるが、90%の確率で500円を失うくじ引きがあります。」あなただったら挑戦してみますか?
次に、こちらの質問に答えてみてください。「10%の確率で10000円をもらえ、90%の確率で何ももらえないクジがあります。あなただったらこれを500円で購入しますか?」
内容をよく確認すればわかりますが、上記2つの質問は論理的には同じことを言っています。どちらも当たれば9500円が手元に残り、外れたら500円を失う結果になる事象です。一般的に合理的に物事を考えた場合、2つの質問の答えは両方とも同じになると推測できるのですが、この実験の結果、2つ目の質問のみに「はい」と答える人が圧倒的に多かったのです。1つ目の質問では500円を「損失」として捉え、2つ目の質問では、同じ500円を「費用」として捉えている事が原因だと言われています。
多くの人は“費用”よりも“損失”に圧倒的にマイナスの印象を受ける傾向があり、結果として「損失」のイメージの強い1つ目の質問には「いいえ」という回答が多数だった、ということです。
論理的には同じ意味の質問であっても「質問の仕方が違うだけ」で結果が大きく変わってしまうケースもあります。参考までに、過去の実験によって“損失”よりも“費用”と表現した方が、よりギャンブルを受け入れやすくなる傾向があることも分かっています。
単純に「お金を出す」と述べる場合でも「費用」「出費」「損失」「投資」などの表現の仕方を変えるだけで「言葉から受けるイメージ」は大きく変わります。普通の出費としてお金を出すのか、それとも「将来への投資」としてお金を出すのか、と言われると違いがわかるかと思いますが、所有しているお金が出ていく結果は同じですが、どう説明するかでその印象は全く異なるわけです。
フレーミング効果の活用方法について
毎年野球のシーズンが終わりに近づくと、セールを期待する人が増えると言われています。その年に優勝したチームの地元では「優勝おめでとうセール」などとしてセールがおこなわれるのが恒例となっているためです。
しかし優勝を逃した2位3位のチームの地元でも、もしかすると優勝するかもと仕入れた品物をさばく必要があります。そこで「感動をありがとうセール」などという言葉に置きかえて広告を作ったりします。こうしたポジティブなワードは、顧客にとってもプラスに働くということはわかっています。
他にも「毎月5のつく日は5%引きデー」「土曜は毎週特別プライス」などとうたうスーパーはよくあります。これは他の日より安いという比較が簡単にできるため、顧客は企業のマーケティングにまんまと乗って「5」のつく日や土曜に買い物をするようになります。さらに「〇〇売り尽くしセール」などという広告があると、何となく行かないと損するとまで思ってしまうのが人情です。
広告ではこうした方法が多く取られますが、同じように、企業の営業担当者は巧みなトーク術にフレーミング効果を使っています。建築関係の会社とやり取りをしているとします。顧客がリフォームの出費について聞いてきたとします。営業担当者は「リフォーム『費用』としてはこのくらいです」と、「出費」を「費用」に言い換えます。出費はいやだけど、費用であれば出さなければならないものだという心理にうったえるのです。さらに「投資」と言い換えると、ますます顧客の気持ちは軽くなるのです。
フレーミング効果を採用活動に活用する方法について
私たちは、何らかの「解釈の枠組み=フレーム」の眼鏡をかけて世界を見ており、周りの環境や人からもたらされる情報なども「フレーム」を通して受け取っています。世の中の多くの人は「フレームを通して物事を解釈している」こと自体を認識していない傾向があるため、無意識のうちに、周りから自分の行動や思考の選択肢をコントロールされている可能性もあるのです。
「自分自身のフレームを認識する」ことは、他人からのこういった影響力を受けにくくするだけでなく、生活習慣の改善など「セルフコントロール」にも非常に役立てる事もできます。「この人(情報)はどんなフレームで物事を見ているのか?」「自分はどんなフレームで物事を見ているのか?」などを、なるべく普段から意識することが望ましいでしょう。何か問題を提示された時は、「逆の見方(言い方)をすればどうなるか?」を意識することで合理的な判断をしやすくなるため、そういった思考習慣を身に付けることも非常に重要です。
フレーミング効果の特性を考慮することは、採用活動でも同様のことが言えます。相手の主張を相対的に判断しつつ、重要なのは「相手の良いところに目を向ける」というポジティブな行動を積極的に行うことです。
フレーミング効果のメリット・デメリットを熟知した上で、シンプルに応募者を観察し、できるだけ良い点を評価していけると、優秀な人材、自社にマッチする人材に巡り合える可能性はアップするでしょう。
表現の仕方で人の受け取り方は変わる
フレーミング効果とは、実質的には同じ意味を表す選択肢であっても表現方法などが異なるだけで、受け手が全く異なる選択をしてしまう現象のことです。
フレーミング効果はマーケティングなどの世界で用いられる手法ですが、採用活動の資料作りでもフレーミング効果を意識して、求職者に対するアピール力を高めましょう。