検索、調査……。業務の大半を占める“調べもの”の時間
多くの人が日々、スマートフォンやパソコン、また本などを使って、さまざまな調べものをしています。Q&Aサイトを運営するオウケイウェイヴ総研の調査によると、一般的な会社員は業務時間のうち1日平均1.6時間を「調べもの」に割いており、日本全体で1日当たり約1,057億円の賃金が調べものに充てられているのが現状であると報告されています。
出典元『オウケイウェイヴ総研』【社内業務に関する調査】 ビジネスマンが「調べもの」に費やす時間は毎日1.6時間。6割超の人が調べものに時間を取られていると感じている結果に
同調査では仕事中の調べものに利用するツールとして「インターネット検索」が93.3%も挙げられており、ほとんどの人が業務に必要な情報をインターネット検索から得ているという結果になりました。
出典元『オウケイウェイヴ総研』【社内業務に関する調査】 ビジネスマンが「調べもの」に費やす時間は毎日1.6時間。6割超の人が調べものに時間を取られていると感じている結果に
インターネットは便利な反面、探そうと思えば無制限に情報が出てくるため、必要以上に情報を集めてしまう「情報バイアス」に陥りやすい点に注意が必要です。
今回は、情報バイアスに関してご説明します。
情報バイアスとは?情報収集のやりすぎに注意
情報バイアスは、あきらかに不要な情報も(必要だと思い込んで)集めてしまうことです。これが行き過ぎると情報過多となり、「効率の良い判断ができない」課題が生じます。
一般的に人は自分の意志決定には材料(情報)を必要としていますが、情報バイアスは不要な材料でも集めてしまいます。報を集めすぎてしまう理由として、意志決定が不安なためであると言われています。一方で「自分は集めた情報を適正に取捨選択できる」と信じてしまう傾向が多くの人にあります。実際には情報過多になりすぎたために、仕事や作業効率が悪くなるなど、最適な決定はできていないことが往々にしてあるにもかかわらずです。
情報バイアスが起きる原因とは?
人は日常の仕事や生活の中で、数多くの情報に接しています。情報をいろいろな形で分析し解釈して、次に取るべき行動を決めています。
適切な意思決定を行うためには「情報は多いに越したことはない」という考え方があります。情報の量と適切な意思決定の関連性については、心理学の中で多くの研究や実験が行われてきました。特徴的なものとして、以下のようなものがあります。
ドイツのマックス・プランク研究所のゲルト・ギーゲレンツァー博士は、米国のシカゴ大学とドイツのミュンヘン大学の学生達に向けて「サン・ディエゴとサン・アントニオ、どちらの街の人口が多いでしょうか」という質問をしました。
質問当時の正解は「サン・ディエゴ」でした。サン・ディエゴはカリフォルニア州南部の有名な港湾都市で、サン・アントニオはテキサス州中部にある都市ですがサン・ディエゴほど有名ではない、というのが一般的解釈です。この質問に対する両大学の学生の回答を見ると、米国の街の人口に関する質問であるにもかかわらず、シカゴ大学の学生よりも、ミュンヘン大学の学生の方が、正答率が高かったという結果になりました。シカゴ大学の学生は、サン・アントニオの街をある程度知っていたために、かえって迷ってしまったのではと言われています。
ミュンヘン大学の学生は、サン・アントニオという街の名前を耳にしたことがなく、単に聞いたことのある街として、サン・ディエゴと回答していた学生が多数だったそうです。
※現在では、サン・アントニオの方がサン・ディエゴよりも人口が多い。
学生達の回答から、情報が多ければ正しい判断ができるとは必ずしも言えないことがわかります。
情報の過多は迷いや混乱を引き起こし、判断をミスリードすることがあります。しかし、人は情報が多い方が正しい判断ができると考えがちで、これが心理学でいう「情報バイアス」と呼ばれるものです。
情報バイアスによって引き起こされる問題点について
情報バイアスは、特に働く人の多くが大なり小なり影響を受けているものです。情報の収集は非常に重要ですが、そもそも情報を収集しようとした目的と収集した後にどのように活用して目的を達成するための結果を出すかが、何よりも大切です。デジタル社会においては最もありがちなバイアスとも言えますが、だからこそ問題点をしっかりと把握しておかなければ、始終バイアスに悩まされることになります。
そもそも情報は、収集に時間がかかることが問題です。集めることに時間をかけすぎて、重要な検証や検討の時間がなくなっては意味がありません。多すぎる情報はそれを適正に扱えない限り、それをまとめるのに労力がかかりすぎて、社員にストレスをもたらします。ひいては、組織の生産性を低下させることにもつながりかねません。
情報バイアスの対策方法について
本当に役に立つかどうかはともかく、情報には安心材料の意味合いがあります。人は「わからないことに不安を、知ることには安心を感じる」ということです。
オフィスでも、書類を捨てられずにデスクの上がさまざま資料であふれている人がたまにいます。こういう人は、ある種の情報バイアスに捉われているのかもしれません(ただ片づけが上手でない人の場合もあります)。
情報がないことよりも情報があり過ぎることで、かえって判断を誤ってしまうケースというのは、往々にしてあります。資料があふれている上記のような人物も、必要なものを必要な時に見つけにくいことでしょう。
こういったバイアスを防ぐためには、社内でもツールやシステム整備などで、情報を適正な内容と量を扱えるような環境を整えることが必要です。ビッグ・データが活用される昨今では、確かに、情報収集を強化して膨大なデータをストックすることに意味はありますが、情報の収集だけに偏ると、無意味なデータまで蓄積したり、せっかくの貴重なデータを整理できないというリスク、さらには必要なものが何かが見えなくなる恐れまであります。
情報を収集することと併せて、情報をいかに取捨選択して分析を進め、適切な行動・判断につなげるかが、今後ますます重要になるでしょう。
組織にある情報バイアスを取り除いていくために
社員の生産性を下げる原因のひとつとして情報バイアスがあります。情報バイアスによる生産性の低下は、主にインターネットの普及による情報収集の手軽さや過度な情報供給から起こっているため、研修やマニュアルなどで情報を整備・共有することで防止できます。
ナレッジワークが求められる現代ビジネスにおいて情報収集は極めて重要ですが、社内でよく必要になる情報はすぐ参照できるようにマニュアルや共有用のシステムを整備する、教育研修で情報バイアスの認識を広めて社員各自に注意を促すなどして、組織全体の生産性を向上させましょう。