ピグマリオン効果と表裏一体のゴーレム効果
「バイアス」は、英語の「bias」をベースにしている日本での名称(カタカナ語)です。もともとの「bias」の意味は「傾向・先入観・偏見」などがあり、日本で「バイアス」として用いられる場合も同じく「先入観」「偏見」を意味することが多くあります。日常生活においては、心理・心情的な意味で使われることが多く、「上司の意見は常にバイアスがかかっている」と言った場合は、偏見や先入観が混じった意見であるということを指しています。
バイアスはビジネスシーンで用いられることが多い言葉とも言われています。特に、心理学からビジネスに応用されることの多い「確証バイアス」や「認知バイアス」は有名でしょう。一般的な用法としては、「彼の意見はバイアスがかかっている」「あのミーティングの結論にはバイアスがあるのでは…」という文脈で用いられます。
人間は性格や価値観に基づいて行動を行うが、バイアスなどの心理効果によって、良い効果・悪い効果をもたらす可能性があり、ビジネスシーンも含む様々な心理効果が心理学で研究されています。
カオナビの調査によると、上司からの理解が仕事にパフォーマンスに影響を与えると考えている部下は過半数を超えており、実際に上司からの理解があると考えている人ほど職場満足度が高い一方で、過半数以上の部下が上司からの理解が不十分だと感じている実態があります。
出典元『カオナビHRテクノロジー総研』上司は私のことを分かってない!?~「上司と部下の関係性」に関する調査結果1~
今回は、「上司からの期待」とも関係のあるバイアスの一種・「ゴーレム効果」が、どのように生じるか、その原因と対策を説明します。
ゴーレム効果の原因や改善方法とは?
ゴーレム効果とは、他者から期待されないことによって成績や成果などの結果が低下する現象です。この学説はピグマリオン効果と同じくローゼンタール氏によって提唱されたものです。
ローゼンタール氏はピグマリオン効果の実験と同時期に行ったもので有名なものがあります。まず「成績の良い生徒のクラス」と「成績の悪い生徒のクラス」を作ります。好成績の生徒たちのクラスの担任教師には「このクラスは成績が悪い」と伝え、成績が悪い生徒たちのクラスの担任には「成績の良い生徒たちだ」と伝えました。それぞれの担任がこの言葉を信じて指導した結果、「成績の良い生徒たちのクラス」の生徒は成績が下がり、逆に「成績の悪い生徒たちのクラス」の生徒は成績が上がったという事象が起こりました。
この実験結果は、ピグマリオン効果の実験でみられた「期待する」と「成績が向上する」因果関係は、その逆の「期待しない」と「成績が低下する」でも成り立つことを明確にしました。
ビジネスシーンでは人材育成やマネジメントが「ゴーレム効果」にならないよう注意しておくことが必要です。上司のネガティブな言動が部下のモチベーションを低下させ、結果能力が発揮できず、成果が出ないという事態を招く恐れがあるためです。
ゴーレム効果の内容とは?
「ゴーレム」の言葉の由来は、ユダヤ人に伝わる『泥形(ゴーレム)』から命名されたと言われています。ゴーレムは意思がなく主人の意思の通りに行動しますが、額の文字を一部消すと泥に戻ってしまいます。この様子が、能力がある人が相手からネガティブな言葉や態度によって自信を失ったら、その力を発揮できなくなってしまうことを表しているところから名付けられました。
ゴーレム効果は「人に対して悪い印象を持ったまま対応すると、実際に相手が(自分にとって)悪い人になってしまう効果」なので、周囲が悪い印象をもつと、本来その人が持っている個人の長所を打ち消してしまい、周囲が思う通りの悪い影響が出てしまいがちなどの現象を言います。
ゴーレム効果が生まれる原因や理由について
ゴーレム効果の意味を端的に述べると、相手に対する無関心の度合いと相手の結果は反比例する、と言えます。つまり「相手に対してこちらが無関心でいる場合、相手もその無関心の度合いを察知し、それによってモチベーションなどは低下。結果として、良い成績・成果は出せない」ことです。
こちらが相手に対して無関心でいる場合、相手は「自分に価値はないのではないか?」とネガティブに受け取るようになります。その思いが相手のさまざまなモチベーションを下げ、それによって結果が出ないという状況を生み出す…という負の連鎖が生まれます。もともと「ゴーレム効果」という心理効果は「ピグマリオン効果」というバイアスの発見がベースとなっており、「ピグマリオン効果が成り立つなら、その逆の理屈=ゴーレム効果も成り立つはず」という考えから誕生したものだと言われています。
ゴーレム効果を解消する方法について
ネガティブな評価ばかりを伝えないよう意識する
相手をゴーレム効果に陥らせないために何よりも重要なのは、相手に対してネガティブな評価を続けることをやめることです。たとえば、部下に「〇〇さんは何をやってもダメですね」などの言葉を繰り返し使用していると、相手はゴーレム効果の悪循環に陥ってしまいます。もちろん実際に相手のがんばりや成果が足りない場合もあり、時に批判も必要になることもあります。とはいえゴーレム効果によって相手の作業効率を低下させたり、ミスを誘発することは本末転倒です。批判の頻度や方法を工夫して、健全な指導をするように心がけましょう。
実際に何かを失敗した部下には「この仕事のここは〇〇が良くなかった。しかしこう改善すればよくなるはずです。後、この部分はよくできていました」というように、反省を促す部分とともに、必ず良かった部分を的確に伝えると効果的です。
失敗した相手には、挽回するためのチャンスを与える
部下が仕事で失敗してしまった場合などは、どうしても注意や叱責が必要な場合があります。
そういった時は、ただ単に「だめだった」というだけでなく「次のチャンス」を与えることが必要です。失敗したままで挽回のチャンスがないとその人の評価はその時点の悪い状態のままになってしまいます。
ネガティブな評価を挽回していくチャンスを与えれば、相手のモチベーションを高め、そこから成功につながる可能性もあります。
適切なタイミングで褒める
ゴーレム効果を引き起こしやすい人は、批判ばかりしてしまい褒めることをおろそかにしているタイプです。「アメとムチ」ではありませんが、適切なタイミングで褒めることは部下のモチベーションを上げるだけでなく、信頼を高めることにもつながります。
「自分のことをきちんと正当に評価をしてくれる上司だ」と感じることができれば、部下は自身の成長の方向性を見つけやすいだけでなく、注意や批判も正しく受け止めて今後の改善に役立てようと努力しやすくなります。
ゴーレム効果を理解し、ネガティブ要素を助長しないよう配慮する
ゴーレム効果は、相手に期待しないことで能力の高い人材であってもパフォーマンスを低下させてしまうことです。
ゴーレム効果の反対のバイアスで『相手に期待することでパフォーマンスが向上する』というものがピグマリオン効果です。ゴーレム効果に陥ることなく、ピグマリオン効果を最大限に活用することが、マネジメントなどのビジネスシーンで有効となるのです。