バイアスは多くの人事業務に影響を与えている
現状の採用選考などの意思決定には「バイアス」が少なくない影響を与えていることはご存知でしょうか?
日本の広告代理店・ADKの調査によると「自社の採用において、明確な採用基準が設定されている」と回答した企業は3割以下となっています。
出典元『PR TIMES』新卒採用選考官経験者の大半が「採用基準が曖昧」なまま選考を行っていることが判明!自社にとって、本当に必要な人材を見極められていないことが大きな課題に
「自社に必要な人材像を理解している」と回答したのは4割でした。「自社の採用において、明確な採用基準が設定されている」「自社に必要な人材像を理解している」両方とも半数以下という結果でした。一般的な企業の採用は、人事担当者などの個人の基準が反映されているという実態が明らかになっています。
出典元『PR TIMES』新卒採用選考官経験者の大半が「採用基準が曖昧」なまま選考を行っていることが判明!自社にとって、本当に必要な人材を見極められていないことが大きな課題に
リクルートキャリアの「就職白書2019」の調査によると、採用における課題として「採用関係者への採選考基準の統一化」は6位に挙げられており、多くの企業では個人の基準ではなく、統一された基準で行うことが求められていることが見て取れます。
Googleの採用面接では、採用活動においては“ヒトの直観に頼らない一貫した採用要件”に基づいて採用決定を行う『構造化面接』というプログラムを導入しています。「判断の統一化」が明確に規定されており、この採用方法は多くの企業で以前から注目されるものです。
なぜ多くの企業で「直観」に頼った採用を行ってしまうのでしょうか。そこには『バイアス』が大きく関わっています。
今回は、バイアスが企業にもたらす問題と原因について説明します。
バイアスが持つ問題と原因とは
「バイアス」は、英語の「bias」をベースにしている日本での名称(カタカナ語)です。もともとの「bias」の意味は「傾向・先入観・偏見」などがあり、日本で「バイアス」として用いられる場合も、同じく「先入観」「偏見」を意味しています。日常生活においては心理・心情的な意味で使われることが多く、「上司の意見は常にバイアスがかかっている」と言った場合は、偏見や先入観が混じった意見であるということを指しています。
バイアスはビジネスシーンで用いられることが多い言葉とも言われています。心理学からビジネスに応用されることの多い「確証バイアス」や「認知バイアス」は有名でしょう。一般的な用法としては「彼の意見はバイアスがかかっている」「あのミーティングの結論にはバイアスがあるのでは…」という文脈で用いられます。
なぜバイアスが発生するのか
ヒトがサバンナで生きていた太古の昔は『リスクを見つけて(ヒトの天敵である猛獣など)素早くそれらを回避すること』がサバイバルの近道でした。
時代は移り変わり、現代のビジネスシーンにおいては、長期的な利益のためにあえて今のリスクをとる必要がある時もあります。そのような意思決定は「直観」からは出てこないと言われています。
人が持つ「ヒューリスティック(意思決定を取り巻く複雑な状況を、ばっさりと単純化して対処するメカニズム)」では、数万年前まで営んでいた狩猟や採集の生活に今でも適合しています。現代の複雑で高度な文明社会に適用すると、間違った方向に偏りが生じることもしばしば起こってしまいます。それがつまり“バイアス”だと言われています。
自転車の購入を考えたとしましょう。規範的意思決定論に基づけば、すべての車種について価格や安全性、デザインなどのあらゆる側面を的確に評価して、最善と思われる選択肢を見出して選ぶというプロセスをとるはずです。
人の意思決定は、本質的にはサバンナで生きていた時代のように、感情的で直観的なものです。「他より少し高いし性能もA社のものより劣るけれど、デザインがいいし、性能も悪くないとも思える」といって、最善の選択ではないものを選ぶという事象が発生するのです。
現在では規範的意思決定論の数理的な枠組みに従って、選択肢を点数評価するような意思決定支援手法がいくつも提唱されていますが、人は本来そのようなプロセスが苦手です。そのため、間違った選択肢を選んでしまうことが少なくないのです。
人間には直観と分析の2つの能力があり、それぞれに得手と不得手があります。両方を適宜組み合わせて意思決定するのが目指すべき方向性です。
問題なのはバイアスはたいてい無意識に作用するので、必要なタイミングで自力で自分のバイアスに気付くことができる人はほとんどいないことです。すべてのバイアスを防ぐことは非常に難しく、目指すことはほとんどの人にとって困難です。
大切なのは、人が意思決定においてどのようなバイアスを持ち、どのような影響を及すのか知っておくこと=知識を持っておくことなのです。
バイアスが企業にもたらす問題と原因について
会社員を続けていると、理不尽や不公平だという思いに駆られることが往々にしてあります。「自分の努力や成果が自分の評価に報いられていない」「自分は評価の面で“割を食っている”」と感じたことがない、などという人はほとんどいないのではないでしょうか。最大の原因は「人事評価」仕組みそのものが持っているさまざまなバイアスにあると言われています。
人事は、“勘違いの塊”といわれることが往々にしてあります。評価するほうもされるほうも、そこには多くの「勘違い」が存在しているためです。
採用面接にバイアスによって引き起こされる問題
バイアスによって自分と同じタイプを好んで選択する
性別や出身地、出身校などが同じ属性の人に対して強く親近感を持つ傾向です。無意識のうちに好感を持ち、選考内容に大きな影響を与えている可能性は少なくありません。
性別、学歴、出身地、前職社名など、採用基準とは関係のない属性に影響される
出身大学はもちろん前職の会社などから勝手にイメージを描き、実際に求める人材要件と関係なくても、採否に影響を与えることがあります。
組織の多数派の価値観を表現する
自社サイトなどでは多様性を謡う一方で、海外駐在者の紹介のページでは男性が多く、管理職募集では「強いリーダーシップを求める」といった“男性的”な表現を多用することも無意識のバイアスの一種です。
面接時などに、自分の“思い込み”を裏付けるデータを収集する
面接の最初の数分で「こういう人だろう」と判断してしまうことです。
「不真面目そう」と印象を持った上で面接を進めると、その後の質問が「不真面目そうなエピソード」を聞き出す内容に偏ってしまうなど、仮説を検証するための面接になってしまいます。ネガティブな印象を持った相手には、ネガティブな回答が返ってくることが想定できる質問を繰り返すこともあります。
人事考課にバイアスによって引き起こされる問題
直近に成果を上げた人を高く評価する。席が近い部下を低く評価する
利用しやすい直近のデータなどに人はバイアスをかけやすいものです。
1年周期の人事考課では、直近3カ月に成果を上げた部下を高く評価しやすいなどの傾向があります。 また席が近い部下は、彼らのミスは目立つので、評価が低くなる傾向があるとも言われます。
評価の低い部下には、それを裏付ける情報を集める
もともと評価を低めに設定している部下には、自分の思い込みを裏付ける言動を集めることが挙げられます。
それ以外の人が同じことをしても気にならないにもかかわらず、「できない」と思いこんでいる人材には、その部下の能力やスキルの低さを実証する情報を収集して、どんどん評価を下げるという身勝手な行為です。
人材育成にバイアスによって引き起こされる問題
性別、年齢によって、職種や役割を固定する
多くの業務がある中で、理由もなく雑務を女性や若手に任せていることはありませんか?介護職など家庭に通じる職種は女性、管理職などリーダーシップを発揮する仕事は男性と勝手に結びつけて考えることで、職種によってジェンダーのばらつきが生じてしまうことがあります。
“新人や女性はすぐに辞める”という風潮にまどわされる
自社の属性別の正確な離職率を把握していないにも関わらず「女性や若手はすぐ退職する」というステレオタイプの考えに固執してしまうことで、人事育成を平等にしないなどの影響を与えることがあります。
自分と同類・同カテゴリーの社員を優遇する
どこの国、職場でもある最も顕著な例が「オールド・ボーイズ・ ネットワーク」と言われています。
出身地や大学などの共通項のある男性部下だけに、有効なアドバイスや人脈を与えなどで、成長スピードを促進させることです。異なる属性はこのメリットを享受できず、成長スピードに不平等が生まれます。
配置・昇進にバイアスによって引き起こされる問題
昇進を能力ではなく属性で見る
昇進を検討する会議などで男性の名前が一番に挙がる、外国人の名前が挙がらない。このような現象がある企業では、客観的な数値や成果ベースではなく、属性による評価が影響していることを疑うべきでしょう。
属性別に過剰な配慮をする
「ワーキングマザーに海外出張や駐在は難しいかもしれない」「若手やシニアにこの仕事は重荷」というように、個人の能力や価値観、考えを知らないのに過剰な配慮をすることです。与えられるべき機会が失われていることに気が付くべきです。
バイアスを防ぐ方法について
人は心理的なバイアスから逃れることが極めて困難です。程度の差こそあれ、人事評価には常にバイアスが生じるのも致し方ないことです。できるだけバイアスを小さくするためにはどうするべきでしょうか。
有効な手段の一つは、評価者を変えることがあります。転勤などで上司を変えるなどです。これによって評価の偏りを少しでも小さくすることができます。
もう一つはできるだけ複数の人間に評価させることです。「360度評価」などで上司が部下を評価するだけではなく部下が上司を評価するなどがあれば、公平な評価となる可能性は高まります。
実際にこのような取り組みで公正な評価システムが構築できていても、評価される側の自信過剰バイアスがなくならない限りは不満が残ります。「しょせん人事は人が人を評価する」と割り切って、自分も含めて、ある程度の誤解はやむを得ないと考えておくことが健全でしょう。
無意識、無自覚なバイアスがあることをまずは知る
バイアスとは先入観・偏見を意味する言葉であり、過去の経験や知識などによって、多くのバイアスが生活やビジネスシーンに影響を与えているものです。
バイアスによって意思決定が成功していたとしても、成功するノウハウを自社に引き継ぐことができないため、担当者の退職などにより、今後深刻な問題を引き起こす可能性などもあります。