起業家精神の特徴と育成方法とは?価値観とスキルを分けて考える

グローバル化する市場でのキーワードは「起業家精神」

インターネットが一般化して以降、情報の量や速度が飛躍的に向上し、その影響でビジネスモデル自体も変革を余儀なくされてきました。何をビジネスにするか、どのように働くかについて、現在の会社経営では重要な課題となっています。

日本能率協会はそうした時代を背景とし、現在日本企業が当面している経営課題のトレンド調査を行いました。アンケート調査では、現在においては「収益性向上」や「売り上げ・シェアの拡大」が1位と3位、2位に「人材の強化」が挙げられています。そして3年後の課題では「人材の強化」と「新製品・新サービス・新規事業の開発」、5年後では「事業基盤の強化・再編、事業ポートフォリオの再構築」「新製品・新サービス・新事業の開発」が課題として上位に挙げられています。

経営課題
出典元『日本能率協会』日本企業の経営課題2018 

常に早急に取り組まなければならない課題として収益やシェアがあり、中長期的な課題として人材マネジメントや新規事業の開発が位置付けられているということです。これからのビジネスを展開する上では、後者の中長期的な課題に対する取り組みをいかに前倒しできるかが鍵となります。

こうしたビジネス課題の背景にあるのが、国際化するビジネスシーンにおける日本の競争力です。日本企業の国際的な競争力を客観的に把握するのに役立つのが、IMD (International Institute for Management Development)が作成する「世界競争力年鑑(World Competitiveness Yearbook)」です。日本は30年前は国際競争力第1位でしたが、1997年以降は20位前後に低迷、2019年現在では30位となっています。下図は1989年~2018年の日本の総合順位の推移です。

IMD「世界競争力年鑑」日本の総合順位の推移
出典元『株式会社三菱総合研究所』IMD「世界競争力年鑑」からみる日本の競争力 第1回 IMD「世界競争力年鑑」とは何か?

アントレプレナーシップに着目したとき、企業が行う対策の論点となるのが「新規事業の開発」と「人材育成・マネジメント」の2つです。日本では年功序列の評価制度や終身雇用などが根強く残っており、スピーディーかつ柔軟に対応していかねばならない現代のビジネスシーンにうまく適応できていない企業が多数あります。

今回は、以上のような課題を打破するキーワードである「起業家精神」がどのようなものかを説明し、そのマインドをどう育成できるかを紹介します。

起業家精神の意味・定義とは?

起業家精神とは、欧米諸国では「アントレプレナーシップ」という言葉で認知されている行動理念や価値観のことを指しています。起業家精神はベンチャー企業やスタートアップ企業を創業するようなアクティブなビジネスパーソンには不可欠なもので、諸外国のビジネススクールではこの精神に基づいた教育が盛んに行われています。

アメリカのハーバード・ビジネス・スクールのハワード・スティーブンソン教授によれば、アントレプレナーシップとは「コントロールできる経営資源を超越して、機会を追求する姿勢」と定義されています。

アントレプレナーシップの解釈は多様にあり、「起業家精神」をアントレプレナーシップとみなすのは、どちらかといえば狭義な意味でもあります。

同音異字で「企業家精神」という言葉がありますが、「起業家精神」に加え、長期的に組織を運営していくための戦略性なども含んだ概念となり、広義のアントレプレナーシップとして解釈されています。

起業家精神の3つの特徴について

起業家精神とは価値観や考え方ですので、教育や訓練によって短期的に成長させるようなものではありません。その人の人間性に関わるものですので、生涯通じて変わりにくい性質だともいえます。

アグレッシブで野心的なイメージが浮かびやすい「起業家精神」という言葉ですが、具体的にはどんな特徴があるのでしょうか?

その特徴として、ざっくりと以下の3つが挙げられます。

1.他責にせず、責任感が強い

何らかの失敗が起きたとき、他人や環境のせいにせず、自分の行動に原因を求める傾向があります。

失敗したときに自分で変えられることを丁寧に見つけ出し、同じ轍を踏まないことで前向きに成長していける人は、起業家精神が備わっている可能性があります。

2.自分に厳しく、妥協しない

1と同様に、自分のどこをどう直したら次はうまくいくかを検討でき、さらに自分にどれくらいの能力が必要かを客観的に把握できるのがこの性質です。

目標と現状の距離を正しく測り、その距離を埋めるためにすべきことを計画的かつ戦略的にこなしていけるというスタンスは、起業家に求められるものです。

3.他の人を信頼できる

創業したり新規事業を起こしたりするのは、自分一人の力だけでは不可能です。

自分の能力だけに頼るのではなく、他人を信頼して仕事を任せられる器量も起業家精神には重要です。

起業家精神を活かすために必要なスキル

上記の3項目については価値観・考え方についてでしたが、ここで紹介するのは教育や研修で後天的に伸ばすことのできるものです。

いわゆるアントレプレナーシップに該当するマインドは、ハーバード大学のロバート・カッツによるビジネススキルのうち、コンセプチュアルスキルとヒューマンスキルを訓練することである程度の習得が可能です。

コンセプチュアルスキルとは、抽象思考に関するスキルで、1つの課題を一般性の高い問題として解釈する思考力や、現状から目標までの距離を詰める方法を導き出す論理的思考力を指しています。

ヒューマンスキルとは、コミュニケーション能力をはじめとする対人関係の処理能力です。意見のすり合わせや他者への気配りのほか、商談などでの交渉力もこの中に含まれます。

上記のスキルは多くの企業で盛んに教育研修として導入されていますので、自社で始める敷居も低いのが特徴です。

起業家精神を活かすも殺すも人事次第

起業家精神の特徴や活かすスキルを理解することで、人材の抜擢や教育研修制度などの具体的な人事施策に落とし込むことができます。

大切なのは情報です。どんな人材がどんな長所を持っているのかを客観的に把握できる体制を整えることで、経営課題を解決するソリューションを提供できるようになります。

起業家精神はどのような特徴なのかを理解することは当然のことながら、自社従業員の特徴やスキルについても十分に把握することが、人材マネジメントの最適化には求められます。

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