様々な心理効果がビジネスシーンで活用されている
ビジネスシーンでは様々な行動心理学やその効果が活用されていることをご存知でしょうか?
たとえば、人の行動から何を考えているか推定できる行動心理学に精通していることで、商談などで有利に事を運べることもあります。行動心理学を上手に活用できれば、相手から自分がどのように思われているかがわかります。顧客のニーズを捉えることで、おすすめの商品の広告を配信したり、新商品を開発する参考にしたりすることも可能になるでしょう。広告にも行動心理学のテクニックが数多く活用されています。
具体的な心理効果の例を挙げてみると、「人気のある企業であれば安心して応募できる」と人が人を呼ぶ現象でもあるバンドワゴン効果、「後輩や部下に期待するほど、期待に答えようとパフォーマンスが向上する」ピグマリオン効果などもその一部です。
ビジネスの現場の多くでさまざまな心理効果が活用されていますが、人事や経営に携わる人にとって活用したいのが、人材採用の場面ではないでしょうか。人材サービスを展開するディスコによると、母集団形成状況で想定よりも応募者が少ないと回答した企業は過半数以上で、多くの企業が母集団形成に苦戦を強いられています。母集団形成を実現するためにも、自社に興味を持ってもらい、応募してもらうことが課題となっています。
出典元『株式会社ディスコ キャリタスリサーチ』2019年卒採用活動の感触等に関する緊急企業調査
ツァイガルニク効果とは、達成できた出来事よりも達成できなかった出来事や中断した出来事のほうがより強い記憶や印象を持つ心理現象のことであり、営業やマーケティングなどで活用されている心理効果です。
今回は、ツァイガルニク効果をビジネスシーンで活用する具体例について説明します。
ツァイガルニク効果が良い影響を与える具体例とは?
ツァイガルニク効果とは、未完了のことは完了されたことよりも緊張感が持続しやすく、記憶に残りやすい現象のことです。ツァイガルニク効果は、80年以上も前の心理学者、ツァイガルニク氏の研究で明らかになりました。
たとえば友人に「相談があるんだ。好きな人ができて……。でもやっぱり話せない…」と言われたり、テレビ番組で「この後主人公はどうなる?! 続きはCMのあとで」などを見聞きしたとしましょう。その後の続きが非常に気になりますよね?ツァイガルニク効果は、自分にとってそれほど重要でなかったことも、未完了であるように問われることで、答えや結果が知りたくて仕方がなくなる現象です。テレビドラマやバラエティ番組で、CM直前に「90秒後に衝撃の展開が!」といったテロップなどが流されると、CM後もその続きが見たくなります。言うまでもなくツァイガルニク効果を狙ったものです。
人間は、完成・完結した物事に対しては「終わったものだ」ということでスッキリとし、ほかの物事へスムーズに意識を移すことができます。しかし未完成・不完全なものに対しては、心地の悪さを感じてしまいます。「やり残し感」のようなものが記憶に残り「完成させたい」「スッキリしたい」という欲求を湧き立たせることで、欲求が興味や関心となり、深く印象付けられると言われています。
ツァイガルニク効果が有効となるビジネスシーンの例
ツァイガルニク効果を上手に使うと日々の業務にも非常に役立ちます。
Webマーケティングの常套手段として知られる「続きはリンク先ページで」などの誘導がありますが、「続きが気になる」心理現象がツァイガルニク効果です。新聞広告やCM広告等、他の広告媒体に「続きはWebで」と表示して、Webサイトへの集客を図るケースをよく見かけるでしょう。
人事業務においても同様のことが頻繁に行われています。たとえば自社に興味を持ってもらう人を増やしたい、次回の説明会に多数の応募者の出席者を獲得したい場合などは、一度目の会社説明会で「〇〇に関しては、次回詳しい担当社員が実際に講演します」など、もっと知りたいと思わせる工夫をして、次回に誘導したりすることがあります。現場社員が離職した後輩のことを気にかける場合などにも有効と言われています。
ビジネスでのアポイントメント取得時も「ツァイガルニク効果」を活用します。電話で訪問依頼をする際、単に都合を聞くのではなく、相手が興味・関心を抱きそうな話題を持ちかけたり、参考資料を送ったりしてある程度盛り上げておいて「詳細は訪問時にお伝えします」と伝えることで、訪問確約率を大幅に上昇させることができるのです。
ツァイガルニク効果を活用する具体例について
ツァイガルニク効果は特にマーケティングと相性がよく、ビジネスで広く使われています。ツァイガルニク効果を応用する方法は以下のようなものがあります。
「気になるところ」を作って会社説明会などを始めとするセミナーへの集中力を高める
採用説明会などのセミナーにおいて、ツァイガルニク効果は参加者の集中力を高めることができます。話の冒頭で、プレゼンターが「この話はとても重要なので、後ほど詳しくお話しします」と前置きすることで、聴衆者に「引っかかり」や「終わっていない状態」の状態を作ることができます。応募者は「さっき話していた重要な話はいつ話すのだろうか」という気持ちになるため、集中力が高まります。
キャッチコピーを、質問形式や虫食い形式にする
ツァイガルニク効果は広告のキャッチコピーなどで頻繁に使われています。
「たった3つの方法とは?」のように質問形式にしたり「その秘密は〇〇にあった」のように虫食い形式にすることで、見た人に「答えが知りたい」気持ちを想起させることができます。
情報の一部を無料または格安で提供する
サービスなどに関係する情報の一部を無料または格安で提供することは、ツァイガルニク効果を活用する上で有効な手段です。
米国の大手出版社だったデアゴスティーニは、テーマやジャンルをしぼった雑誌を定期刊行する、分冊百科形態で有名になった雑誌出版社でした。デアゴスティーニの人気商品の一部に、付録つきの雑誌があります。雑誌の付録をコレクションしたり組み立てたりすることで、購読者は最終的に1つの作品を作ることができます。
当社が購買者の心をつかんでいる点は、創刊号(1冊目)を通常の半額で販売していることです。1冊目を半額にすることで「アンカリング効果」がはたらき、最初の1冊を購入するハードルは非常に低くなります。最初の1冊を購入した購買者は「次にも続いている(終わっていない状態)」と感じ、次号以降の付録を集めて作品を完成させたくなるのです。
雑誌を購入すればするほど「サンクコスト効果(コンコルド効果)」がはたらき、「せっかくここまで集めたのだからやめるわけにはいかない」気持ちになっていきます。こういった心理状態になると、購入をやめることは難しいのです。
メルマガを分割する
メルマガも、1つのテーマを、切り口を変えていくつかに分割することで、未完の状態を作り出せます。
たとえば「メルマガの作り方」という1つのテーマを「テンプレートの作り方」「メルマガ本文の書き方」「メルマガのタイトルのつけ方」などに分割して3回分にして送ります。受け取った側は次のメールも気になり、結局すべての内容に目を通すことになるのです。
ツァイガルニク効果を発揮することで起こるメリットについて
ビジネスシーンにおいては、どのようにツァイガルニック効果を有効活用できるのでしょうか。
仕事中は、仕事を中途半端な状態で切り上げ次のモチベーションを高める
仕事中に休憩を取るときは「中途半端な、やりかけの状態で休む」ことが重要です。できれば、仕事の完成度が半ばを越えて3分の2ほど進行した状態で休憩を取るのが効果的とも言われています。『あともうひと頑張りで完結する』状態がツァイガルニク効果によって、仕事への関心や意欲を持続させ、短時間ですっきりと仕事に戻ることができるからです。
『キリのいいところまで終わらせた状態』で入った休憩は、ある意味スッキリとした気持ちで休めるので、休憩を切り上げるのに時間がかかってしまい、余計に非効率になってしまうのです。
「引きの方法」で商談の成果を上げる
人事やPRなどで自社を売り込む行動でも「引きの営業」は非常に有効です。
まず相手に会って互いに良い関係になれそうか、なれそうでなければ無理強いしないことが有効な自社アピールになります。初対面から自社の説明を事細かにして『売りつける』のではなく、商品の信頼性とユーザーの声だけをしっかりと伝えて『関心を持っていただけたか』『長いお付き合いをしていただけそうか』をきちんとヒアリングした上で、次の段階にステップを移行していく段取りです。
少々の時間はかかりますが、あえて一度に全てを伝えないことがかえって相手の高い関心を引きつけ、次の説明に聞き入らせることができるのです
不完全だが熱意あるプレゼンで、相手の印象に残る
プレゼンテーションでの最重要ポイントは『印象に残る』ことです。流ちょうできれいにまとめられているプレゼンテーションは、聞く相手にとっては内容が流れてしまい印象に残りにくいものです。多少緊張して声が上ずっているような不完全なプレゼンテーションは、格好は良くないかもしれませんが、相手の印象には残るのです。(内容がよいという前提で)
『上手すぎるプレゼン』よりも『不完全だが熱意のこもったプレゼン』が多くの人の心をつかみ、理解者・協力者に変える力が強いことはわかっています。熱意をもって、理解者・協力者を生み出す自分の有り様を磨いていくことです。
ツァイガルニク効果は様々なシーンで活用できる!
ツァイガルニク効果は、マーケティングだけでなく、営業や人事業務など、さまざまなビジネスシーンで活用できる心理現象です。有効的に活用することで、生産性向上などのマネジメントだけでなく、人材採用などにおいても効果があります。
正しく運用しなければ「中途半端な情報しか与えられなかった」「最後まで仕事をさせてもらえなかった」などのネガティブな感情を生み出す危険性もあるため、運用設計には十分に注意する必要があることには留意しておくようにしましょう。