過激化する人材獲得競争
少子高齢化を背景として日本国内における労働力の将来的な減少及び不足が長らく懸念されてきたとおり、企業の規模や業界にかかわらず多くの企業にとって人材の確保は難しくなってきています。
厚生労働省の公表しているデータによると有効求人倍率は2010年から2019年まで増加を続けており、労働力自体の減少に加え、終身雇用の前提が失われ、若者の間で数年以内の転職が一般的になってきたことにより、人材の獲得のみならず流出防止に向けた取り組みも求められています。優秀な人材の労働力の獲得競争は激化の一途を辿っています。
出典元『厚生労働省』一般職業紹介状況(平成30年12月分及び平成30年分)について
重要性を増す離職防止の取り組み
現在働いている社員(特に優秀な社員)の離職を防ぐことは、新規人材の獲得と合わせて考えられるべき戦略です。一般に優秀な人材ほど転職などの離職が高い上、厚生労働省の調査によると大卒の3年以内の離職率は長らく3割程度と、改善されていません。
中小企業庁の調査によると、中途採用は新卒採用よりも離職率は低いながらも、3割以上であるとされています。
出典元『中小企業庁』第2部 中小企業・小規模事業者のさらなる飛躍
正社員として長く働いてくれる人材の獲得ももちろん重要ですが、それ以上に優秀な人材の離職防止の取り組みに注目が集まっています。人材の流出によって採用や教育にかけたコストの損失、職場の人間関係が不安定になる、社会的に悪いイメージを持たれやすいなど多くのマイナスが出る一方で、離職率向上のメリットはその裏返しとして大きなものになるからです。
今回は離職率の改善に成功した企業の具体的な事例を3つご紹介します。
カネテツデリカフーズの離職防止事例
神戸市に本社を置く食品製造会社であるカネテツデリカフーズは教育制度を見直すことで50%以上あった三年以内離職率をわずか数%にまで改善させました。
「新入社員指導員制度」と名付けられたこの取り組みは平成17年に開始されました。新人への技能伝承不足、コミュニケーション不足を補うために行われ、同じ部署の原則2・3年先輩の社員を教育係として配置し、共同の目標設定から日々の相談事までマンツーマンで面倒を見ます。
新人は数年上の先輩の有用なアドバイスを絶えず受けることができ、指導員となった先輩社員においては人を育てる視点が自然と養われる相乗効果もある上に、社内コミュニケーションが活発化され、教えあう風土や広がる中で同社が掲げる「大家族主義」の理念のように社員同士の家族的な強い結びつきを育んでいます。
サイボウズの離職防止事例
人材が流動的なIT業界の大手であるサイボウズですが、社員の多様性を認める人事制度・働き方設計により、一時期28%あった離職率を4%にまで改善させました。
サイボウズは社員の働き方の多様なニーズを把握するところから、どんな人も気持ちよく働ける人事制度の拡充に乗り出しました。在宅勤務制度の積極的な活用の推進や成果・生産性をより重視する「ウルトラワーク制度」を創設し、それぞれの社員がニーズやライフスタイルの変化に合わせて働き方を選択できる「選択型人事制度」を導入しました。
副業も自由に認めるなど、多様な働き方を自分で主体的に選べるように仕組みを変えることで、社員の仕事に対する意欲も高まり、離職防止に繋がりました。
ビースタイルの離職防止事例
人材サービス業を営むビースタイルは、社内コミュニケーションの改善を図ることで20%あった離職率を3年の間に8%にまで改善しました。
タテ・ヨコ・ナナメ全方位コミュニケーションを掲げ、上下関係なく社員の関係性を強化すべく、感謝の気持ちを表す「バリューズアワード」、幹部に率直な意見を全員が伝える「全社日報」、マネージャクラスとのランダムな1対1面談「1ON1」など具体的な工夫が細かく設定されました。社員の交流の活発化のため運動会などの社内行事も積極的に取り入れられました。
会社全体を上げての取り組みが浸透していくにつれ、選択式時短勤務制度や午前・午後6時-9時には家に居ようという「69ファミリーシフト」、「新規事業プランコンテスト」など形骸化していた諸制度も積極的に利用されるようになり好循環が生まれました。
まずは自社の問題の把握から
離職防止には多くの企業が取り組んでいますが、大幅な成果を出した企業は問題点・課題を明確にする、問題を解決できる施策を立案し実行する、定期的な改善を行うなど論理的に考えながら定期的な改善を行っていることがわかります。
自社の離職率を改善するためには、なぜ自社で離職が発生しているのか、根本の原因を調査し、有効な解決策を実施することが必要になるでしょう。