「求職者の嘘」と「リファレンスチェック」
採用の現場では求職者が「なんとか自分を良く見せよう」とつい「話を盛ってしまう」ということがめずらしくありません。ただ、人事業務の経験がある方などは実感があるかと思われますが、求職者の「嘘」というのは察知できるもので、実際に採用担当者の約7割がそれに気づいているというデータもあります。
リクルートが運営する就職ジャーナルの調査によると、4人に3人が「就活生の誇張した話」に気づくと回答しています。エピソードの真偽を裏付ける調査を行うのではなく、学生の態度や話を掘り下げていく上での矛盾、他の情報と照らし合わせた場合の信憑性の低さによって気がつくと回答されています。
出典元『就職ジャーナル』就活で「嘘・盛った話」はアリ?採用担当者300人の本音アンケート
では、学生の誇張した話や嘘はどのように選考に活用されるのでしょうか?同調査では、影響範囲についても調査されています。
出典元『就職ジャーナル』就活で「嘘・盛った話」はアリ?採用担当者300人の本音アンケート
過半数がケースバイケースという回答ですが、話のなかに「嘘」が感じ取られたときにどちらかといえば選考にネガティブに働くという回答は35.0%にのぼります。
理由として、仕事の成果を誇張する可能性、信頼性のなさ、自己肯定力の低さなどが挙げられており、「嘘」というのが負の部分の隠蔽のために使われている可能性に着目したとき、確かに選考過程でプラスに考慮するのは難しいと考えられます。
どれほどの求職者が採用選考で「嘘」を用いるのでしょうか?INOUZの調査では、現在正社員の職についている男女100人を対象に「採用面接でウソをついたことはありますか?」というアンケートを行った結果、ちょうど半分が「ある」と回答したという結果が得られました。
出典元『INOUZ Times』社員アンケート「採用面接でウソをついたこと、ありますか?」
ウソがバレている・バレていないに関わらず、従業員の半数が採用面接でウソをついていることになります。求職者がウソをついてしまうということで最悪のケースは経歴詐称などが考えられますが、些細なウソであっても採用ミスマッチにつながりうる問題でもあります。
アメリカのマサチューセッツ大学の調査によれば、81%が面接官に偽りの返答を行い、33%が履歴書にウソの経歴を記入したことがあると回答していると報告されており、これは採用担当側から見れば「ほぼ全員が嘘をついている」というくらいの心構えでなければ精度の高い選考ができないとさえ思える数字です。
参考URL『FinTech online』8割が就職活動で学歴・経歴詐称ーー米マサチューセッツ大学調査
First Advantageが各国の採用候補者を対象に実施したスクリーニング調査によると、日本における経歴詐称率は諸外国と比べて低い水準にあるものの、5.47%となっています。自社の採用において、経歴詐称が起きないと言える保証は一切ありません。
出典元『Japan PI』海外の採用事情 経歴詐称が多い国・少ない国ランキング 日本は何位?
入社後に発覚した経歴詐称は、最悪の場合クライアントにも悪影響を与えてしまう恐れがあり、たったひとりの嘘とはいえ、会社全体の信頼性に大きな打撃を与えかねません。しかし、日本の法律では経歴詐称が発覚した場合にも必ず解雇できるわけではありません。それゆえに、経歴をどこまで採用基準に含めるか十分に検討しておく必要があります。
今回は、採用段階での経歴詐称を防ぐリファレンスチェックについて説明します。
リファレンスチェックの意味や定義とは?
リファレンスチェックとは、「身元照会」や「経歴照会」を意味する言葉です。履歴書や採用面接で得られた情報の裏をとるということですが、主に採用する側がリスクを回避するために実施されます。
リファレンスチェックは主に中途採用で行われ、前職の在籍期間や成果・業績についてを採用担当者が行うことが多くあります。特に内容を精査したい場合などは、人材エージェント会社などに外部委託して前職関係者に取材することもあります。リファレンス先は情報の偏りが出ないように2~3名以上を挙げ、正確性を担保しています。
リファレンスチェックの目的について
主たる目的は「採用にあたってのリスクを排除する」ことです。
経歴詐称が入社後に発覚すると、クライアントへの悪影響や会社全体の信頼性へのダメージが懸念されます。選考段階に一手間かけることで、そうしたことが起こってしまうリスクを回避できると思えば、リファレンスチェックにかかるコストは大したものではないという考え方もあります。
リファレンスチェックによる企業側のメリットとは
リファレンスチェックは情報の正確性を担保するために行われるものですが、採用に置いてのミスマッチ防止や、求職者との信頼関係の構築ができるといったメリットもあります。
悪く言えば「リファレンスチェック」とは「求職者を疑うこと」でもあります。しかし、リファレンスチェックの過程で「求職者がどのような情報をどれくらい正確に述べているか」という思考過程の深い部分を垣間見れます。職務能力や成果、定性的なスキルについてはどうしても求職者の主観評価でしか面接では語られませんが、第三者の意見を参照することで客観的な評価が可能になります。
リファレンスチェックにより、求職者の考えとズレまで精査した採用選考が可能になり、採用ミスマッチを減らすことにもつながります。
リファレンスチェックによる求職者側のメリットとは
リファレンスチェックは必ずしも「嘘を見破る」だけの効果をもたらすものではありません。「嘘」が軸になってしまうと求職者にとって負荷に感じられるものですが、逆に考えれば「自分の主張を第三者が保証してくれる」ということでもあります。
伝わりにくい定性的なスキルや業務態度・成果などについても、第三者が証明してくれるため、誠実な求職者にとってリファレンスチェックは長所をさらに強くアピールできるきっかけにもなります。
リファレンスチェックによる企業側のデメリットとは
リファレンスチェックを行うデメリットは、やはりコストがかかってしまうことが挙げられます。リファレンス先は求職者の前職関係者を複数当たることが一般的であり、多数の求職者に対して行うとなると馬鹿にできないコストになります。
リファレンスチェックが必要なのか、必要ならばどのタイミングでどのような求職者に行うのか、そうしたことをまず精査する必要があります。
リファレンスチェックによる求職者側のデメリットとは
求職者にとって、前職関係者と転職先の人間が接触してしまうということは心情的にこころよいものではないケースもあります。特に、退職理由が人間関係の不和やハラスメント被害を受けたなどであれば、転職によって断ち切りたかったものを引き連れて来られてしまう恐怖心を抱きうるでしょう。
情報の正確さの担保とはいえ、時に求職者のプライバシーに関わることもあります。実際に個人情報保護法によりリファレンスチェックを実施するには本人の同意が必要ですが、たとえ了承したとしても対象者の精神面の気遣いを怠ってはなりません。
リファレンスチェックではデリケートな情報も扱いうる
リファレンスチェックとは、採用の意思決定時に求職者の前職の上司などに身元紹介人となってもらい、経歴や勤務情報の確認を行うことです。リファレンスチェックの目的は職歴詐称などを防ぐことで、こうした問題が入社後に発覚すると会社の信用問題に発展することもありえます。
求職者に関する情報が増えることで企業側にもメリットがありますが、個人情報保護法の観点から本人による承諾が必要です。なかにはプライバシーに関わるものもありますので、取得する情報についても十分に注意しなければ違法となります。
転職の動機は人によりますが、なかにはデリケートな理由を抱えている方もいます。人事担当者はそうした求職者の心理も配慮して業務を行うことも大切です。