行動心理学の知見を人事業務にも活用する
ビジネスシーンでは様々な行動心理学やその効果が活用されていることをご存知でしょうか?
たとえば、人の行動から何を考えているか推定できる行動心理学に精通していることで、商談などで有利に事を運べることもあります。行動心理学を上手に活用できれば、相手から自分がどのように思われているかがわかります。顧客のニーズを捉えることで、おすすめの商品の広告を配信したり、新商品を開発する参考にしたりすることも可能になるでしょう。広告にも行動心理学のテクニックが数多く活用されています。
具体的な心理効果の例を挙げてみると、「人気のある企業であれば安心して応募できる」と人が人を呼ぶ現象でもあるバンドワゴン効果、「後輩や部下に期待するほど、期待に答えようとパフォーマンスが向上する」ピグマリオン効果などもその一部です。
ビジネスの現場の多くでさまざまな心理効果が活用されていますが、人事や経営に携わる人にとって活用したいのが、人材採用の場面ではないでしょうか。人材サービスを展開するディスコによると、母集団形成状況で想定よりも応募者が少ないと回答した企業は過半数以上で、多くの企業が母集団形成に苦戦を強いられています。母集団形成を実現するためにも、自社に興味を持ってもらい、応募してもらうことが課題となっています。
出典元『株式会社ディスコ キャリタスリサーチ』2019年卒採用活動の感触等に関する緊急企業調査
さまざまな心理効果が営業や採用活動に活用されている中で、今回は初頭効果がビジネスシーンにどのような影響を与えているのかの具体例について説明します。
初頭効果がビジネスシーンに与えている影響とは?
初頭効果とは、最初に与えられた情報が後の情報に影響を及ぼす現象を指します。人や物に対する第一印象が長い間残り続けるのは初頭効果の影響です。初頭効果はポーランド出身の心理学者であるソロモン・アッシュ氏が、1946年に行った印象形成の実験によって発見・提唱したと言われています。
彼の実験は、人物の性格を表す形容詞をいくつか記載した文章を2つ用意し、それを読んで、それぞれのグループにどのような印象を持ったかをチェックするというものです。2つの文章の内容はまったく同じですが、記載されている形容詞の並び順が異なります。
A:明るい、素直、頼もしい、用心深い、短気、嫉妬深い
B:嫉妬深い、短気、用心深い、頼もしい、素直、明るい
Aは前向きでポジティブな形容詞を先に、Bはネガティブなワードを先に記載しています。実験の結果としては「Aは比較的ポジティブ、Bは比較的ネガティブな印象」と回答する人が多かったそうです。同じ内容であってもポジティブな言葉を先に説明するとよい印象を与えられることを「初頭効果」と呼びます。
たとえば「オーガニック食品に興味がある方必見」「人材採用で他社を圧倒する方法とは…」のように、最も強調したい強みを最初にユーザーに伝えることで初頭効果を発揮させ、その先を知りたいという気持ちにさせます。このポイントを意識することで、仕事の上でのプレゼンテーションや採用業務などで成果を挙げやすい話術として効果的に活用できます。
初頭効果は、人は最初に与えられた情報を元に物事や人を印象付けるものであることがわかります。なお初頭効果は、情報を並列に扱った場合に起こりやすいとされています。
初頭効果が有効となるビジネスシーンの具体例について
営業職などでの事例
相手に好印象を持ってもらいたい場合、最初は相手が望むであろう人物像を演じることも有効です。「初頭効果」がヒトの印象を決める重要な要素だからです。クライアントが大人しい性格の人が好きな場合は落ち着いた印象を与えた方が有効ですし、フレンドリーな雰囲気を重視する相手にはオープンな雰囲気を心がけましょう。クライアントはあなたに好印象を持ち、結果、商談やPRがうまくいくことにつながります。
初頭効果は、初対面の相手でなくても十分効果があります。同僚や上司、面接時の応募者など、できるだけ良い印象を与えたいと思う相手がいるならば、いつからでも初頭効果を使ってみることも有効です。
採用業務での応用
数社で開催される合同説明会などに参加する際、参加している学生にとって、自社が周りの競合より魅力があると感じてもらうため、PRする際はわかりやすく他と比較できる数字などを使ってみましょう。
たとえば業界シェア、世界規模、競合他社、経年比較を使用し「日本で最大、世界的なシェア〇%」など自社をより良く見せることは、マーケティングの観点からもよく行われています。
人事システム導入の際の事例
自社の特徴として「定着率が高い」「売り上げがいい」「売り上げがいいだけに時に残業が多い」という特徴があったとしましょう。自社を応募者にPRする際、学生にとってポジティブな情報である「定着率」「売り上げ(給与)」という情報をまず提示するのです。こう紹介することで、初頭効果により「定着率が高く売り上げ(給与)もいい」という印象が、相手の中に残りやすくなるでしょう。
初頭効果は「第一印象のつき方」です。ネガティブな情報でも「売上が高いから残業も多くなるのは仕方ない」と納得感を与えることができます。第一印象を良いものにすることができれば、相手にとって魅力的なものに見せることが期待できます。
初頭効果はどのように発揮されているのか
印象付けたい“好印象の見た目”を心がける
見た目とはスタイルや持って生まれた顔などでなく、服装や振る舞いです。自分が相手に爽やかな印象を与えたい場合服の色を淡くする、髪型はすっきりとさせるなどに注意すればよいでしょう。笑顔で柔らかい表情で話をすれば、優しい和やかな印象を与えることができるでしょう。
ビジネスの場でスーツを着るのも、相手にきちんとした印象を与え、しっかりしていて安心できる信頼を得る効果もあります。
ちなみに日本人メジャーリーガーの多くが髭を生やしているのは、小柄であったり童顔であっても、相手になめられないよう強い印象を与えるためと言われています。
プラスの言葉を投げかける
相手に良い第一印象を与えるためには、プラスの言葉を発すると良いでしょう。あくまでも外見ではなく、その人自身が褒められていると感じられる部分と結びつけます。
プラスの言葉を発する意味はいくつかあります。相手が良い気持ちになることで、心を少し開いてくれるという可能性は大きくなります。そうすると会話が続く、共通点が見つかる、更に話が盛り上がるといった良い循環を生みます。
人間の脳の特性として、主語を認識できません。つまり主語が誰であってもプラスの言葉は自分に投げかけていると脳は理解するのです。相手を褒めたつもりが自分の意識の中に蓄積され、自分自身も気分が良くなります。自分で発した言葉が自分に返ってくると言われるのはそのためです。
インパクトを与える
例えば、少し暗めで物静かな人であれば「寡黙な人」と言うよりも「好きなことにはすごく夢中になって人を引っ張って行きそう」などと声をかけてみるのです。人は大抵意外な面を持っていて、見えていることが100%ではありません。見えていることは誰しもがイメージしやすく、その人自身も自覚していることが多いはずです。
敢えて角度を変えてその人を捉えてみて下さい。相手は意外な一面を見せてくれるかもしれませんし、この人は他の人と少し違うぞ!と思えて印象深くなる可能性もあります。あまりに突飛押しもないことを言うと、あなた自身が「少し変わっている」と思われ、敬遠される可能性もありますので、その部分は留意しましょう。
最初の印象があなたのイメージを作り、その後の付き合いに影響してきます。最初の印象を意識して行動することによって、格段に第一印象は良くなるでしょう。
初頭効果が発揮されたことで起こる効果について
初頭効果を効果的に活用することで様々なメリットがあります。
自社に関心の低い顧客や応募者などに、最初に一番重要な情報やイメージを出すことで、相手の関心をつなぎとめて、次のステップ、交渉や採用などにつなげることができます。自社を応募者にPRする際、学生にとってポジティブな情報である「定着率」「売り上げ(給与)」という情報をまず提示することで、初頭効果により「定着率が高く売り上げ(給与)もいい」という印象が相手の中に残り、結果として「良い第一印象」を持たせることができ、希望通りの採用を実現する一助となるかもしれません。
多くの人は、人を第一印象で決めてしまう傾向があることは周知の事実です。採用の場面でも営業やPRする機会には、自分または自社の長所を最大限にアピールすることは難しいことではありません。「好感の第一印象」とできるよう、身なりや言葉遣い、相手への気遣いなど、当たり前のことに留意するだけで、ビジネスに極めて重要な信頼関係を築くことができるのです。
だらしのない外見はもちろんのこと、活気に欠ける言動にも注意が必要です。よれよれの服装や汚れた靴、寝癖のついた髪型はもちろん、活気のない表情や信頼感に欠ける言動においては特にマイナスイメージとなるので、注意が必要です。
初頭効果を正しく活用してみよう
初頭効果とは、最初に与えられた情報が後の情報に影響を与える現象のことであり、第一印象だけでなく、会話の内容などでも影響を与えている心理現象です。
求職者への会社説明などでは、最初に重要な話題をもってくることで印象づける、面接などでは第一印象や冒頭に会話した内容に依存しすぎずに客観的な判断を行えるように心がけるなど、人事業務などの様々なビジネスシーンに影響を与えていることに十分留意しましょう。