早期離職を防ぐための人材の適材適所
7・5・3問題とは、中卒者の7割、高卒者の5割、大卒者の3割が3年以内に離職すると言われる問題です。厚生労働省の調査によると、大卒者の新卒3年以内の早期離職率は、20年以上経っても、30%以上で推移しており、改善されていない状況であることがわかります。
労働政策研究・研修機構(JILPT)の調査で、初職が正社員であった離職者の初職を辞めた理由を見ると、「労働条件・休日・休暇の条件がよくなかった(29,2%)」「人間関係が良くなかった(22,7%)」「仕事が自分に合わない(21,8%)」といった理由になっています。
出典元『労働政策研究・研修機構』第6章 早期離職とその後の就業状況
在籍している社員と新入社員の人間関係のマッチングは難しい部分もありますが、1つ目の「労働条件・休日・休暇の条件がよくなかった(29,2%)」と、3つ目の「仕事が自分に合わない(21,8%)」の離職理由は、会社側(人事)の取り組み次第で、事前回避ができる項目ではないでしょうか。
今回は100年以上前に提唱された、パーソンズによる「人と仕事のマッチング」特性因子理論について説明します。
特性因子論と職業指導の父パーソンズとは?
特定因子論とは、一言で言うと「人と仕事のマッチング理論」です。キャリアカウンセリング理論の中でいう特性因子論は、その人を構成する特性(スキル、能力、性格、価値観等)と、その職業の条件(仕事内容や仕事に必要な要件)を上手くマッチングさせることが重要である考え方を言います。100年以上前にアメリカで提唱された理論ですが、現代でも活用することができる理論です。
フランク・パーソンズ(Frank Parsons)は、アメリカの社会改革運動家です。産業革命後、アメリカではヨーロッパからの移民が増加し、労働環境が変化するなど、社会的に混乱を来していました。移民支援の目的から、1901年にボストン市民サービス館が創設されました。当館で支援にあたっていたパーソンズは、活動を通じ青少年たちのジョブチェンジの実態を知ります。
青少年たちは定職に就くまでに何度も転職を繰り返していました。当時、その原因は彼らのスキル不足と考えられていましたが、パーソンズは、問題はスキル不足ではなく場当たり的な職探しが失敗の原因だと気づきました。職業相談の必要性を感じた彼は、1908年ボストン職業相談所を開設しました。
パーソンズは、1909年に出版された『職業の選択』中で「人と職業のマッチング」という基本原理に触れ、特性因子理論を提唱しました。
パーソンズの特性因子理論について
パーソンズのこの特性因子理論は、「人は必ず他の人と異なる能力や特性を持っている。しかもこの能力・特性は測定可能である。」「人の特性と仕事の内容、スキルが一致すればするほど、仕事における満足度、業績、安定性は高くなる。」「個人は、自分の能力・特性に最も相応しい職業を選択する。」の3つの仮説に基づいています。
パーソンズは3つの仮説に基づき「3段階プロセス」を提唱しました。
- ステップ1-自己分析(自己理解)
自分自身、適性、能力、興味関心、資源、限界などに関して明確に理解する。 - ステップ2-職業・職務分析(職業理解)
仕事の内容、条件、報酬、求められる能力、メリット・デメリット、仕事についての展望に関する知識・情報を収集する。 - ステップ3-理論的推論(両者のマッチング)
ステップ1と2を合理的に推論して、自身にとって最も適した仕事を選択する。
パーソンズは3段階プロセスを用いて、より賢い職業選択を実現するには次の7つの項目がポイントになるとしています。
- 個人資料の記述
個人の就業に関する主要な要因を記録する。その際には職業教育と関係がある課題を忘れずに記述する。 - 自己分析
カウンセラーの指導の下実施する。職業の選択に影響を与えそうな傾向や興味事項は記録することが望ましい。 - 選択と意思決定
選択と意思決定は、①と②で起きる可能性がある。カウンセラーは、職業選択はクライアント自身によってなされるべきであるということを心に留めておく必要がある。 - カウンセラーによる分析
カウンセラーはクライアントの意思決定の結果が、クライアントが求めていたものと整合性が取れているかを分析する。 - 職業についての概観と展望
職業分類、職業訓練などの情報に精通しているカウンセラーの知識等により、クライアントの職業に対する概観と展望を支援する。 - 推論とアドバイス
論理的で明確な推論の下、アドバイスを行う。 - 選択した職業への適合
クライアントが選択した仕事への適合と、意思決定に関して振り返りを支援する。
現代にも使えるパーソンズの特性因子論
パーソンズの特性因子理論は、100年以上前に提唱された理論ですが、当時新しい職種や職業が多く出現した一方、長く就業できずに失業者が増加した背景から生まれた理論です。現代の日本においても、技術革新と共に、新しい職種や職業が出現しており、一方で20年以上若手の早期離職率が改善されていない状況でもあります。
人材の特性と仕事の因子をマッチングさせることで離職を防止するには、特性因子理論の考え方は非常に参考になる点も多く存在します。特性とはなにか、因子とはなにか、どのような特性と因子がマッチするのかなどを整理していくことが、自社の離職率改善に繋がることでしょう。