自己主張するスキル「アサーション」はどんな仕事でも必要
「採用がうまくいかない」会社の規模に関わらず、多くの企業でそのような悩みをたくさん耳にします。リーマンショック以降、求人倍率は増加を続けており、求職者数を求人件数が上回ってからも久しくなります。
人材獲得が難しくなったからこそ、今所属している従業員を大切に育てていくことが、いっそう重要になってきました。教育・研修と一言でいっても、「こんなスキルを身につけて欲しい」を求め出せばキリがありません。一般的にはどのようなビジネススキルが重視されているのでしょうか?
リクルートマネジメントソリューションズの人材開発実態調査によると、ビジネススキル研修として導入されている項目では「問題解決、課題解決」「ロジカル・シンキング」「コミュニケーション、アサーション」「コーチング・メンタリングスキル」が特に高い数値を占めていました。
出典元『リクルートマネジメントソリューションズ』人材開発実態調査2017
経営学者のロバート・カッツはビジネススキルを「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つに分類しましたが、上記の調査であげられたものは特に「コンセプチュアルスキル」と「ヒューマンスキル」に該当します。特徴として、業界・職種固有のものではなく、どんな仕事にも必要とされる汎用性の高いビジネススキルであるということができます。
今回は、コミュニケーションにおいて重要度の高い自己主張するスキル「アサーション」についての概要とトレーニングにあたっての心構えを紹介します。
コミュニケーションとしてのアサーションの位置付け
コミュニケーションは、「相手の意見を聞く」「相手に意見を伝える」「双方の意見を検討したのち具体的なアクションを起こす」という3つのステップが基本です。
3つのステップにおける「相手に意見を伝える」というフェーズで重要になるのが「アサーション」だと考えられます。「傾聴」を前提としながら適切な自己主張ができるスキルのことを指します。
自己主張は大切です。しかし、注意しなければならないのが、独りよがりにならないことです。ビジネスにおける議論を進展させるために大切なのは、「相手の考えを尊重しながら、新たな発想を見つけ出すこと」です。この他者とのコラボレーションを大切にした立ち居振る舞いをすることで、コミュニケーションがあるからこそのアイデアの発見に繋がります。
採用選考では、とにかく「自分の意見」の発言を促すことでチェックできます。他者の意見を考慮した回答ができているか、自分の意見にどれほど自信を持てているか、そうしたところが見極めのポイントになります。
アサーションは3つのタイプに分けられる!
自己主張の技術とも言えるアサーションには以下の3つのタイプがあります。
アサーションの3つのタイプは、ドラえもんのキャラクターで例えられることが多いですので、それぞれのキャラクターを想像しながら、どんな特徴がありどんな改善点があるかを考えてみましょう。
1.アグレッシブ(攻撃型/ジャイアンタイプ)
思ったことを率直に伝えるスタイルです。わかりやすい言葉で、かつ大きな声などの強い要求として表現する伝え方です。
ドラえもんの「ジャイアン」に例えられることが多く、自分の思ったことをはっきり主張し、他者を力強く牽引するリーダーシップが強みです。一方で、押し付けがましく、他者に抑圧的な態度をとる傾向があります。
気をつけたいのは他者への配慮がおざなりになりやすいことだと言えます。最悪の場合、組織の人間関係をギスギスさせる危険性があります。
2.ノン・アサーティブ(非主張型/のび太タイプ)
アグレッシブとは真逆に「主張しない」というスタイルです。自分の意見の優先順位を下げ、他者の意見を受け入れることで物事を前に進めます。しかし、相手任せになりすぎる傾向があります。
ドラえもんの「のび太」に当たるのがノン・アサーティブタイプです。言い訳が多く、他責思考であり、人の前に立てるような人材ではありません。しかし、弱い立場の人のことを理解したり、共感することができる穏やかさを持ち合わせています。
3.アサーティブ(中立型/しずかちゃんタイプ)
アグレッシブとノン・アサーティブのバランス型のスタイルです。いつ主張し、いつ自分を抑えて他者を優先するかという判断を状況に応じて行います。
嫌われる要素が実質存在しないため、ドラえもんの「しずかちゃん」に該当するようなタイプです。主張するところと引くところを理解し、かつ場を俯瞰的にみながら振る舞いを調整でき、アサーションにおける理想型だと言えるでしょう。
アサーションのトレーニングで重要な4つの心構え
アサーションの理想は、3つのタイプでは「しずかちゃん」に該当するものです。それは、自分と相手、そして場全体の動きを読みながら、全員にとっての利害を考慮した結論に達することを目的としています。
アサーションのトレーニングは「理想とする状態が明確である」という点を理解しておけば、実はそんなに難しいことではありません。今の自分がどういう状態で、理想である「しずかちゃんタイプ」とどれだけの差異があるのかを日頃の生活の中で顧みることで、着実にアサーションスキルを伸ばすことが可能です。
自分と理想の差異をどのように小さくするかの方位磁針になるのが、以下の4つです。
1.率直に意見や気持ちを伝える
自己主張の第一歩は、自分の頭にあるものを言語化することです。まずは言葉にしなければ、アサーションは始まりません。
2.誠実さと感謝の気持ちを忘れない
アサーションは自分ひとりで成立するものではなく、常に「他者」がいて成り立つスキルです。
自分の意見や気持ちを言語化し、それを聞いてくれる人がいるからこそ、議論を前に進めることができるます。
3.場にいる全員が対等であると考える
自己主張とはいえ「自分の考えを押し通す」ことが最善の結果をもたらすとは限りません。様々な人の率直な意見や気持ちをフラットに検討することで、新たな可能性が開けることもあります。
場にいる全員が平等に意見できるように配慮することが大切です。
4.相手への要求だけでなく、自分も責任を負う
アサーションで注意したいのは「言いっ放し」にならないことです。率直な意見や気持ちは尊重されるべきですが、同時にそれに責任を負わなければ、他者との信頼関係を築くことはできません。
自分だけでなく相手も尊重しながらゴールを目指すスタイルが、アサーションには不可欠だといえます。
アサーションスキルの育成は短期的でなく中長期的な視点で
アサーションは、多くの企業が育成したいスキルの1つです。
理想とするタイプの目標を明確に持ちながら、現状とのギャップを埋めることで、着実にアサーションスキルは伸ばせます。方位磁針となる「4つの柱」を常に意識しながら行動してもらうことが、従業員への教育研修では大切です。
アサーションを含むコミュニケーションスキルは、短期的な育成が難しいのが特徴です。だからこそ常日頃から意識してもらうことで、中長期的な育成を想定して根気強く取り組みましょう。
自社の人事評価などだけでなく、プライベートなども含めて様々なシーンで活用できるメリットもあります。アサーションをつける目的を自分ごと化してもらうことが、効果的な人材育成につながります。