人材の将来性に大きく関わる「やり抜く力」
近年ではインターネットを利用したビジネスインフラの変化や労働者のライフスタイルに注目した働き方改革が推進されたこともあり、人材採用・人材育成の現場でも対応が不可欠となっています。
2006年、日本では経済産業省が「人生100年時代」や「第四次産業革命」を背景に「職場や地域社会で多様な人々と仕事をしていくために必要な要素」として「社会人基礎力」を提唱しました。「社会人基礎力」は3つの能力「前に踏み出す力」「考え抜く力」「チームで働く力」を軸に構成されていて、今回紹介する「グリット(=やり抜く力)」という概念にもつながるものです。
グリットはこれまで心理学概念として研究されていました。2019年、川西氏と田村氏は労働生産性向上・行動経済学研究への応用を見据えたグリットとマインドセットの研究論文を発表しました。彼らは2つの研究を通して、労働生産性を低水準にしている原因として人材の先天的資質を重視する認知バイアスへの警鐘を鳴らしています。
グリットは「努力を継続する力」ともいうことができ、成功する人材が持ち合わせている能力です。グリットの高さは才能や知能の高さなど先天性の高い要素とは関係ないとされています。グリットは後天的に伸ばすことができる汎用性の高いスキルであり、人材マネジメントにおいて非常に重要な概念です。
この記事では、成功する人材に共通する能力である「グリット力」について解説し、その伸ばし方の理解を深めていきます。
グリットを育成する方法とは?2つのことを心がけよう
グリットとは「やり抜く力」です。英単語「grit」では「勇気・闘志・根性・歯を食いしばる」という意味があり、困難に対して粘り強く立ち向かい、最後までミッションを完遂するというニュアンスがあります。
「失敗は成功の素」という言葉があるように、ビジネスだけでなく様々な分野で成長において失敗や挫折は決して無駄なものではありません。なかなか結果が出ない人は一度の失敗や挫折ですぐに諦めてしまいがちですが、経験をうまく活かす機会の損失とも解釈できます。グリットは成長に不可欠な経験を十分に活かすために必要な能力であるとも言えるでしょう。
グリットを構成する4つの要素
グリットは人材の先天的性質ではなく、教育やトレーニングによって後天的に伸ばすことができる能力だということです。グリットのレベルは以下のような主観的アンケートによって計測されるため、グリットの教育・研修を検討されている方は自社の従業員にアンケートをとってみると大雑把な現状の把握ができます。
過去のグリット研究より特にビジネス現場での生産性に重要と考えられているのは以下の4項目です。
- 興味
他の人がつまらないと感じるようなことにも興味を持って楽しめる。目標を達成することに喜びを感じられる。 - 練習
より高い目標を常に設定し、それを達成するプロセスを粘り強く継続できる。 - 目的
仕事が他の人の役に立っていることを認識している。 - 希望
どんな困難に直面しても、「やればできる」という希望を失わない。
グリット力を育成する2つの方法について
グリット力を育成するには、前述の4つの要素へいかにアプローチするかを検討するのが正攻法となります。究極的にはグリット力はスキルではなく意識の問題です。ですので、行為を長期的に持続させる動機付けと目標管理がトップマネジメントの立場にある層が従業員に働きかけとなります。
注目してもらいたいのが「マインドセット」という心理学概念です。マインドセットとは物事に対する向き合い方や思考に対する姿勢を示す言葉で、現状維持を志向する「固定思考」とより高みを目指す「成長思考」という、一見して矛盾している2つの思考を含んでいるのが特徴です。
マインドセットの研究は「失敗経験」を起点としてはじまり、子どもを対象とした学習テストが実施されました。失敗経験に対して先天的資質に根付いた「固定思考」を表明した子どもは成績が伸びにくく、目標設定も行えていなかったのに対し、初回の結果が悪くても「運が悪かっただけ」とポジティブな姿勢を見せた「成長思考」の子どもは達成目標を強く意識し、成績が伸びやすいことが示されました。
グリット力は動機と目標達成意欲に大きく依存します。働く上での有能さとは先天的素質に依存するのではなく、だれにでも可能な努力の継続により得られるものだという意識改革がなによりも重要です。
グリット力の育成ですべきことは「部下が失敗したときにしっかりとフォローし、前向きな目標を一緒に立てること。」「部下が目標を達成したときに一緒によろこぶことです。」のたった2つです。
グリットの育成には組織全体の「やり抜く力」が必要
グリットとは簡単に言えば「やり抜く力」です。心理学の分野で研究されてきた概念で、特に近年では労働生産性との関係性も注目されており、人材が成功するに必要な要素とも言われています。
グリットは性格や価値観からの影響を受けてますが、大事なのは完全に先天的な性質ではないということです。教育や研修により後天的に育成して伸ばすことも可能な能力であるため、人材マネジメントでお悩みならば知っておいて損はない能力です。
即戦力を望むのであれば「グリット力が高い人材の採用」、中長期的な育成が可能であれば「グリット力の有無を気にせずに採用する」など、採用要件にどのように組み込めるかも人事業務では重要です。
グリットはトレーニングによって後天的に伸ばすことができますが、すぐに伸ばせるものでもないことには注意しましょう。モチベーションや仕事の意識の問題ですので、じっくりと腰を据えて粘り強く取り組んでいかねば伸ばせない能力です。人事や上司ができることは、従業員と一緒に伴走すること。グリットは実践だけでなく育成においても粘り強さが求められますので、定期的なフードバックや研修、評価制度への組み込みなどを実施しながら組織全体で伸ばしていきましょう。