管理職における管理スキルの実態について
求人倍率が増加の一途をたどる昨今、新規人材の獲得だけでなく、若手人材が中長期的な活躍できるよう育成プログラムを整備することの重要性も高まってきました。経験や専門性が未熟でも特化した能力を持つ従業員を抜擢することやバックアップ体制を作ることで、若手が成長するために必要な経験をする機会を多く設ける企業も増えてきました。
人事業務として極めて重要な「人材マネジメントの最適化」では、管理職や経営層のマネジメント能力が重要です。内閣府の調査によると、非管理職である一般職員が最も多く課題として挙げているのが「管理職の経験・能力不足」です。
出典元『内閣府』管理職のマネジメント能力に関するアンケート調査 結果概要(最終報告)
調査から、管理職と非管理職の間には「管理職の経験・能力不足」について認識に大きな乖離があることがわかります。認識の乖離は組織内でのすれ違いの大きな原因になる懸念があり、従業員のモチベーションに大きな影響を与えます。自分の意見が認められない、適正な評価が得られないという事態が続くと、離職率が増加し、組織の生産性も低下します。
では、管理職に対する教育状況はどのようになっているのでしょうか?
HR Proの調査によれば、管理職研修をおこなっている大企業は全体の8割を超えているのに対し、企業規模が小さくなるほど研修の実施率は低下しています。特に従業員規模が300人以下の企業では実施率が過半数を下回っている結果となっています。
出典元『HR Pro』HR総研:人材育成「管理職研修」に関するアンケート調査 結果報告
管理スキルの教育についての問題はこれだけではありません。管理職研修の運営上の課題についてのアンケート調査ですが、「実施効果の測定ができていない」ことが第1位となっています。管理職の教育研修において、その必要性はなんとなく理解されているものの、実際にその効果があるかどうかは明らかになっていないという問題があります。端的に言えば「やっても効果があるのか?」という疑問が払拭できていないとも言えます。
出典元『HR Pro』HR総研:人材育成「管理職研修」に関するアンケート調査 結果報告
今回の記事では、管理職に求められる「管理スキル」とはなにか、どういうスキルがなぜ必要なのかを紹介します。
管理スキルとは?具体的にどのような能力なのか
管理スキルとは、管理職に求められるマネジメントスキルのことです。管理スキルは一般に以下の3つにより構成されると考えられています。
- プロジェクトの進行・管理スキル
- 部下の育成スキル
- 組織の理念・方針を浸透させるスキル
管理スキルの特徴は、業界・業種によらない一般性の高いスキルであるということです。つまりどこで働くにおいても重要だとみなすことができ、社会人の基礎力であるとも考えられています。
管理スキルを支えるカッツモデルとは?
経営学者ロバート・カッツによる分類では、ビジネススキルは以下の3つに分類できます。
- テクニカルスキル(業務遂行能力)
- ヒューマンスキル(対人関係能力)
- コンセプチュアルスキル(概念化能力)
「テクニカルスキル」は、私たちが「スキル」と聞いて思い浮かべる具体的な業務スキルの事を指します。「エクセルが使える」「TOEICが800点以上でビジネスレベルの英語が扱える」といった具体的な能力のことです。
「ヒューマンスキル」は主にコミュニケーション能力に特化したスキルです。仕事は主にチームで行うことが多いですが、メンバーがストレスなく働けるような根回しや、クライアントなど社外の方との関係性を構築する能力です。
「コンセプチュアルスキル」は、ビジネスシーンにおける現状とこれからを大局観を持って冷静に分析し、他者に伝えることができるといった抽象度の高いスキルです。仕事で起きる個々の問題を概念的に捉え、プロジェクトの方向性を見極めるうえでとても大切な能力です。
これら3つのスキルの理解について、組織内のポジションによって求められる程度が異なることが大切です。
出典元『日本の人事部』2. マネジメント・管理職に求められるスキル
管理職・経営層の人材は「ミドルマネジメント」と「トップマネジメント」に分類されます。これを参照するとマネジメントスキルとして必要なのは、コミュニケーションを含むヒューマンスキルに合わせ、抽象思考をキーとしたコンセプチュアルスキルであると考えることができます。
管理スキルが求められる理由について
インターネットの一般化が進むにつれて、市場に飛び交う情報の量と速度が飛躍的に向上しました。それに伴ってビジネスシーンも大きく変化し、企業は従来に比べてより柔軟な対応が求められるようになり、新規サービスの新陳代謝も活発化しました。サービスが増えると負わなければならない責任も増えます。
ミドルマネジメント層、いわゆる中間管理職の多重債務化が問題となっています。管理職としてのトレーニングが不十分のまま重責を負うことになり、常に時間的余裕・精神的余裕がない状態で複数のマネジメントを抱えている管理職が少なくなくありません。
管理職後からの研修期間を設けられない状態であるがゆえに、正式に管理職となる前からカッツが提唱する3つのビジネススキルの習得機会を設けることが重要です。適切な教育研修を受けた上で管理職業務に就くことで、果たすべき責務に正面から取り組めるようになります。
管理スキルが求められるようになった背景として、多様性と柔軟性が生き残りのキーワードとなったことが要因のひとつとして考えられます。組織の今後を左右する決断の機会が増加するなか、時間・人・事業など複雑に絡み合った諸問題をスマートに解決することがより重要になりました。管理スキルとは、そうした判断をスムーズに下し、行動を起こすために必要なスキルです。
管理スキルの育成は早期から着手すべき
管理スキルは管理職に求められるマネジメントスキルです。管理スキルは、カッツモデルで提唱される「テクニカルスキル」「ヒューマンスキル」「コンセプチュアルスキル」の3つのスキルによって支えられていて、マネジメントの層によって求められるスキルの比重が異なり、特に経営の上層部になるほどヒューマンスキルやコンセプチュアルスキルが求められるようになります。
管理スキルは業界・業種に関係なく、どこの組織でも求められるスキルです。現代の多様化するビジネスシーンを考慮すると、管理職になる前から教育・研修によって身につけておくことに損はありません。管理職になる前から準備しておくことにより、企業としてもより柔軟でスピーディーな対応力を養うことができると考えられます。
今後、組織の中核を担うだろう人材が管理スキルを習得することは重要です。そうした人材を早くからピックアップし、昇進など、今後の人事采配のために必要なスキルを教育研修して継続的に人材を育成することが大切です。