国も推進する「ディーセント・ワーク」
ディーセント・ワークとは、「働きがいのある人間らしい仕事」のことです。もともとは、1999年に国際労働機関・ILOにおいて、この年の総会で提出されたファン・ソマビア事務局長の報告において初めて用いられたもので、「ILOの活動の主目標」としても掲げられています。
日本政府としても、このディーセント・ワークの概念の普及や労働政策の推進により実現を目指し、さまざまな施策を展開しています。実際に、女性活躍推進やシニア採用、非正規労働者の待遇改善など、働き方改革の関連法案によって、徐々に実現を目指している段階であるといわれています。
今回は、厚生労働省が公表している、みずほ情報総研の調査『ディーセント・ワークと企業経営に関する調査研究事業報告書』から、どのような施策を推進しようとしているのかについて説明します。
ディーセント・ワークと企業経営に関する調査研究事業報告書
みずほ情報総研株式会社の調査『ディーセント・ワークと企業経営に関する調査研究事業報告書』では、『企業におけるディーセント・ワークの実現状況が、従業員満足度の向上や定着率の上昇等を通じて、企業経営にプラスの影響をもたらす』との仮説を立てその検証を試みたものとして、日本のディーセント・ワークの研究の中で、特に注目されていると言われているものです。
日本において「ディーセント・ワーク」は「働きがいのある人間らしい仕事」とされていますが、ILOが提唱した概念を大きな骨子としています。ILOは、この実現に向けて「雇用の創出」「労働における基本権利の保障」「社会保護の拡充」「社会対話の推進と紛争解決」といった4つの大きな目標を掲げています。
「すべての労働者のディーセント・ワークの実現」を ILO憲章目的達成に向けた政策の中核に位置付ける「公正なグローバル化のための社会正義に関する ILO 宣言」や、ILOがディーセント・ワークに係る課題は、国連などの国際機関やサミット(主要国首脳会議)など、国際社会からも広く賛同・支持を得ているものとして有名です。
ILO はディーセント・ワーク国別計画を通じて加盟国におけるディーセント・ワークの実現を支援しています。2006 年には「アジアにおけるディーセント・ワーク実現に向けた 10 年(2006~2015 年)」が国際的な合意を受け、日本においてもその取り組みが推進され始めました。
2010 年 6 月に閣議決定された「新成長戦略」においても、「『ディーセント・ワーク』の実現に向けて『同一価値労働同一賃金』に向けた均等・均衡待遇の推進、給付付き税額控除の検討、最低賃金の引上げ、ワークライフバランスの実現(年次有給休暇の取得推進、労働時間短縮、育児休業等の取得推進)に取り組む」と記述されており、併せて、2020 年までの各種数値目標が掲げられています。
日本の個別企業におけるディーセント・ワーク実現に向けた取り組みは、ディーセント・ワークの推進が企業経営の負担になることを懸念する声も少なくなく、必ずしもすべての企業で人事管理に活かされているとは言い切れないと言われています。日本全体としてのディーセント・ワークは、政府目標はもちろん、各企業が労働法制の遵守を基本とした活動を展開し、場合によってはこれらを上回るようなさらなる取り組みで実現されるものと考えられています。
ディーセントワークの調査内容や取り組むべき施策
本調査研究では、具体的には、企業アンケート調査・従業員アンケート調査により把握したディーセント・ワークの実現状況をスコア化し、以下の項目との相関関係を分析しています。
- 従業員満足度
従業員満足度とディーセント・ワーク達成度スコアの間には、相関関係がみられた。 - 人事管理アウトプット指標(平均勤続年数等)
人事管理アウトプット指標とディーセント・ワーク達成度スコアの間には、一部(正社員の平均勤続年数)において相関関係がみられた。 - 企業経営指標(売上高・利益等)
企業経営指標とディーセント・ワーク達成度スコアの間には、相関関係がみられなかった。また、従業員満足度と企業経営指標との間にも相関はみられなかった。
今回の調査から、以下の項目で高い数値にある企業は、ディーセント・ワークに関する取り組みが進んでいる傾向がみられました。
- 業経営者が社員の働きやすさ向上の取り組みに理解を示している
- 働きやすい職場に関する制度・取り組みの内容を各種研修内で時間をとって説明している
- 部下が上司に仕事のこと・プライベートなことを問わず相談できる職場風土・雰囲気がある」
ディーセント・ワークの実現には「経営者のさらなる理解や積極的関与を促すこと」「全社員に各種制度や取り組みを着実に周知・浸透させること」「上司に相談でき、お互いを認め合える良好な職場風土や雰囲気づくりに向けた社員への働きかけを行うこと」が有効であると考えられます。
ディーセント・ワークに係る取り組みの進展度と、「平均勤続年数」「女性正社員比率」「所定外労働時間」「年次有給休暇取得率」「女性管理職比率」や「売上高」「経常利益」には、有意な相関関係がみられないことがわかりました。
上場企業を対象とした調査では、ディーセントワークがよりよく実現している企業ほど正社員の平均勤続年数が長くなる傾向がみられており、今後は非上場企業でも同様の傾向がみられるかを把握すべく、引き続き非上場企業で働く社員のデータを収集・分析するなどの必要があると考えられます。
日本企業ならではのディーセントワークを実現する
日本は現在、政府としてもディーセント・ワークを推進しており、ワークライフバランスや女性の活躍推進など、さまざまな実態調査や法改正を実施、その啓蒙と実現に努めています。
今回のみずほ情報総研の調査には、ハラスメントなどの人間関係に依存する問題についても含まれており、働き方改革に対応する上で非常に参考となるものも多く、多くの企業で人事活動を考える際の一助になる側面もあります。
まずは何よりも、自社が抱える課題を明確にしていくことが大切です。