【協調型vs競争型】「価値観」を科学する戦略的人材戦略:VUCA時代を勝ち抜く組織設計論
VUCA(Volatility, Uncertainty, Complexity, Ambiguity)と呼ばれる予測不能な現代において、日本の経営者が直面する最大の課題は、間違いなく「人材戦略」です。労働人口の減少、働き方の多様化、そしてグローバルな競争激化は、従来のスキルや経験のみに頼った人材採用の限界を露呈しています。
「即戦力」として採用した人材がすぐに離職する。部署間の連携が機能せず、イノベーションが起きない。目標達成のために必要なはずの競争原理が、逆に社員を疲弊させ、組織の活力を奪っている。こうした課題は、採用手法や研修制度の欠陥ではなく、「組織の価値観設計」という、より根源的な問題に起因しています。
企業の永続的な成長と競争優位性の源泉は、事業戦略そのものよりも、それを実行する「人」と「組織の仕組み」にあります。そして、その組織の質を決定づけるのが、社員一人ひとりの「性格」や「価値観」です。
本記事は、人事担当者および経営者の皆様へ向けて、適性検査などで可視化される「協調型」と「競争型」という二つの価値観を切り口に、組織の競争優位性を確立するための戦略的な組織設計論を徹底解説します。
単なる離職率の低下に留まらない、生産性・イノベーションの最大化を目指す経営のためのロードマップです。
目次
なぜ今、「価値観」が経営戦略の最重要テーマなのか
近年、人事領域で「カルチャーフィット採用」という言葉が注目されています。これは、候補者のスキルや経験だけでなく、企業の理念や風土との相性(フィット度)を重視する採用手法です。その最大のメリットとして「早期離職の防止」が語られがちですが、経営戦略の観点から見れば、それは本質ではありません。
カルチャーフィットが経営にもたらす真の価値は、以下の2点に集約されます。
- 生産性の劇的な向上(効率性)
- 価値観がフィットしている社員は、組織の意思決定の基準やコミュニケーションスタイルを無意識に理解しているため、無駄な摩擦や誤解が減ります。
- 結果として、報告・連絡・相談にかかる工数が減り、本業への集中度が高まり、組織全体の労働生産性が向上します。
- イノベーションの促進(有効性)
- 事業戦略と組織の価値観が一致している(ストラテジック・カルチャー)場合、社員は自律的に戦略に沿った行動をとります。
- 特に変化を求められる局面において、組織の核となる価値観が共有されていることは、リスクテイクを伴うイノベーションへの挑戦を可能にします。
価値観は、スキルと異なり、入社後に教育で変えることが極めて難しい「不変性の高い特性」です。この変えがたい特性を、いかに自社の競争優位性の源泉とするかが、現代の経営者に問われています。
組織の価値観を構成する二大要素:「協調性」と「競争性」
組織の価値観は多岐にわたりますが、人を動かす基本的なモチベーションの根源として、「協調性」と「競争性」は極めて重要な対極概念です。適性検査では、この価値観のどちらに重きを置く傾向があるかを測定できます。
| 価値観タイプ | 特徴 | 強み(組織への貢献) | 弱み(組織のリスク) |
| 協調型 | チームでの協力、調和を重視する。他者の感情に共感し、影響を考慮して意思決定する。 | 組織の安定性・安全性を高める。チームの連携を円滑にし、人間関係の摩擦を最小化する。 | 意思決定が遅延しやすい。リスク回避傾向が強く、変化やイノベーションが停滞しやすい。 |
| 競争型 | 競争、切磋琢磨、個人の目標達成にモチベーションを感じる。結果と相対的な評価を重視する。 | 成長速度・成果の最大化に貢献。チャレンジ精神と向上心が高く、組織の活力を生む。 | 人間関係の孤立化やストレスを生みやすい。情報共有が滞り、組織全体の視点が欠けがちになる。 |
経営者としては、どちらか一方を「善」と見なすのではなく、事業戦略に応じて、どちらの特性を「戦略的に」組織に注入すべきかを見極めることが肝要です。
組織風土を数値化する「価値観アセスメント」の活用戦略
「うちの会社は風通しが良い」「うちの社風はアグレッシブだ」といった抽象的な表現は、採用現場や経営会議で何の役にも立ちません。組織風土は、データに基づいて可視化して初めて、経営指標として機能します。
価値観アセスメント(適性検査)を導入する目的は、単に採用時の「スクリーニング(不適格者の除外)」を行うことではありません。真の目的は、既存社員と部署ごとの価値観をマッピングし、現状の組織風土を「協調型か競争型か」「論理型か情熱型か」といった連続値上の相対的な位置として把握することです。
これにより、以下の戦略的なインサイトが得られます。
- 現状分析
- 組織全体が、事業戦略上必要な価値観(例:新規事業部門なのに協調型が多すぎる)と乖離していないかを検証できる
- ギャップ分析
- 経営層が目指す「理想の組織像」と「現状の組織風土」とのギャップを数値で把握できる
「理想の組織風土」を事業戦略から逆算する
理想の組織風土は、競合他社や成功企業の真似をするものではありません。自社の事業フェーズと競争戦略から、逆算して設計する必要があります。
- 成長・変革フェーズ
- 競合に打ち勝ち、市場を切り拓く必要があるため、競争型の価値観を強く求心力とする方が、イノベーションや成長スピードを高めやすい。
- 安定・成熟フェーズ
- 顧客との長期的な関係維持や、高い品質・安全性が求められるため、協調型の価値観を重視し、組織の安定性とリスクマネジメントを優先すべき。
特に注意すべきは、ハイブリッド型の組織設計です。
例えば、営業部門は競争型を強く、研究開発部門は協調型を重視するなど、部署ごとに求められる価値観は異なります。全社で一律の価値観を強制するのではなく、戦略に基づいた「最適な価値観のポートフォリオ」を設計することが、経営者に求められます。
「協調型」組織と「競争型」組織の成功パターン
協調型組織が成功するビジネスモデル
強固な協調性を持つ組織は、顧客満足度と定着率が重要となるビジネスで優位性を発揮します。
例: BtoBのカスタマーサクセス、高齢者向け介護・医療サービス、高い安全基準が求められる製造業。
チームとしての成果が重視され、情報共有がスムーズで、属人化が起こりにくい。助け合いを是とする文化が、社員の定着を促す。
競争型組織が成功するビジネスモデル
高い競争性を持つ組織は、スピードと個人の突破力が求められるビジネスで成功します。
例: 成果報酬型の営業組織、短期間で結果を出すことが求められるコンサルティングファーム、インターネット関連のスタートアップ。
個人の目標達成率や相対的な成果が厳しく評価され、それが社員のモチベーションに直結する。優秀な人材の早期成長を促す環境が整っている。
多くの企業はこれらの中間に位置しますが、成功している企業は、「協調性の基盤の上に、健全な競争原理を組み込む」というバランスを見つけています。
価値観を軸とした「採用」「配属」「マネジメント」実践論
採用戦略:価値観による「母集団形成」と「選抜基準」
価値観を戦略的に採用に組み込むことで、採用の精度と効率は飛躍的に向上します。
母集団形成における価値観の明文化
採用の入り口で、自社の「求める価値観」を明確に打ち出すことが重要です。
- 求人票での記述例
- スキル要件に加え、「チームの調和を最優先できる協調型の働き方を重視します」といった価値観の記述を加えることで、求職者側でのセルフスクリーニングが働き、カルチャーアンフィットな応募者を事前に除外できます。
- 採用ブランディング
- 企業のブログやSNSで、具体的な社員の働き方(協調的なプロジェクト進行や、成果を競い合う社内コンペの様子など)を公開し、「企業文化」を情報発信することで、価値観の合う人材を引きつけます。
面接における価値観の見極め方
「協調性があるか?」という直球の質問では、求職者は「ある」と答えます。重要なのは、過去の行動特性(Behavioral Interviewing)を通じて、その価値観の傾向を把握することです。
| 価値観 | 行動特性ベースの質問例 |
| 協調型 | 「チーム内で意見が対立した際、あなたはどのように行動しましたか?」 「自分の成果を犠牲にしてでも、チーム全体を優先した具体的な事例を教えてください。」 |
| 競争型 | 「目標を達成するために、周囲の協力を断ってでも、ご自身でやり切ったことはありますか?」 「チームメンバーと競い合った結果、最も嬉しかったことは何ですか?その時の評価についてどう感じましたか?」 |
戦略的配属:協調性と競争性の最適な配置設計
採用の次に人事担当者が直面する問題が「配属」です。配属こそ、組織のパフォーマンスに直結する「戦略」です。
職務の性質と個人の価値観の相性
協調型社員は、人と人との仲介役、チームの潤滑油となるポジションに向いています。周囲の調和を汲み取り、人間関係を円滑にする役割が認められた時に、最大のモチベーションを発揮します。
競争型社員は、個人の成果が明確に定義され、成果が他者と相対的に比較できる環境で力を発揮します。営業職やインセンティブの高い職務、または技術開発など、自己の成長が組織全体の成長に直結すると感じられる環境が最適です。
意図的な「異質な価値観」の配置と摩擦のマネジメント
すべての部署を同質の価値観で固めるのは、安定をもたらしますが、イノベーションの機会を奪います。
- イノベーション促進のための配置
- 協調型の部署に意図的に競争型の人材を配置することで、異なる視点による摩擦(建設的衝突)を生み出し、新しいアイデアや改善のきっかけを作ることができます。
- 摩擦のマネジメント
- この異質な配置を行う際は、「なぜこの価値観が必要なのか」という戦略的な理由を明確に伝え、価値観の違いを個性として尊重する心理的安全性を組織に担保することが、人事担当者の重要な役割となります。
パフォーマンス最大化のための「価値観別マネジメント」
社員の価値観の傾向を知ることは、マネージャーの部下育成とモチベーション管理の質を劇的に向上させます。
評価・報酬制度の最適化
- 協調型社員への評価
- チームへの貢献度、プロセス(コミュニケーションの質、情報共有の姿勢)など、集団への影響を重視した定性・定量評価のウェイトを高める。
- 競争型社員への評価
- 個人目標の達成度、相対的な成績、市場価値への貢献度など、個人成果を重視した評価と、それに見合った報酬を提示する。
協調型社員を個人成果のみで評価すると、組織への貢献意欲が失われ、競争型社員をチーム貢献度のみで評価すると、モチベーションが低下します。価値観に合わせた評価制度の設計こそ、経営者の公平性へのコミットメントを示す重要な手段です。
モチベーション源泉の違いを理解したコミュニケーション
- 協調型へのフィードバック
- 「君の行動がチームにどれだけ貢献したか」「あなたの配慮のおかげで皆が気持ちよく働けている」など、他者への影響と感謝を中心に伝える。
- 競争型へのフィードバック
- 「君の成果は、他の誰よりも優れている」「この課題を達成すれば、君の市場価値は飛躍的に高まる」など、個人の成長と優位性を中心に伝える。
経営者に求められる「カルチャー変革」と人事の役割
既存社員のエンゲージメント向上と価値観の再構築
価値観の設計は、新規採用者だけのものではありません。既存社員のエンゲージメント向上と、事業戦略に合わせた組織の価値観の「微調整」こそ、継続的な組織力の鍵です。
価値観アセスメントの結果の活用
全社員を対象に価値観アセスメントを実施し、その結果を匿名化・集計した上で、組織全体へフィードバックします。「我が社は〇〇という価値観が強いが、今後は△△の要素も強化していく必要がある」といった形で、現状と理想のギャップを全社で共有します。
- 教育・研修プログラム
- 組織が強化したい価値観(例:協調型組織における「建設的な衝突を恐れない競争心」)を体現するための行動規範を定め、トレーニングを通じて、社員の意識と行動に刷り込んでいきます。
経営トップが発信すべき「価値観」のメッセージ
組織の価値観は、現場のマネージャーや人事担当者だけが作るものではありません。経営トップの行動と発言こそが、最も強力なメッセージとなります。
- 理念とビジョンへの埋め込み
- 経営理念やビジョンの中に、「我々は何を大事にして成果を出すのか(協調か競争か、プロセスか結果か)」を明確に埋め込み、朝礼や社内報で繰り返し発信する。
- リーダー層のロールモデル化
- 経営層が、理想とする価値観を体現した行動をとること。
- 例えば「競争」を重視すると言いながら、成果を出した社員をねぎらう場を設けないことは、理念と行動の矛盾となり、社員のエンゲージメントを低下させます。
データドリブンな組織設計への道
これからの人事部門は、単なる管理部門ではなく、経営戦略を牽引する戦略パートナー(戦略人事)としての役割を担う必要があります。そのための武器となるのが、HRテックを活用したデータ分析です。
- データ統合分析
- 価値観アセスメントデータと、社員のパフォーマンスデータ、離職率データ、昇進・昇格データを統合し、「どのような価値観を持つ社員が、どの部署で、最も高い成果を上げ、長く定着しているか」を科学的に分析します。
- 採用基準の自動アップデート
- この分析結果に基づき、「理想の価値観プロファイル」を常に最新の状態にアップデートすることで、採用と配属の精度をデータに基づき最適化し続けることができます。
人事担当者は、このデータを駆使して、「この事業戦略を成功させるためには、今後3年間で、協調型の社員を〇名、競争型の社員を〇名、どの部署に配置すべきか」という提言を経営層に行えるようになる必要があります。
これが、人事部門が企業の競争優位性の源泉となる道筋です。
競争優位性の源泉は「人」の価値観にある
本記事では、協調型・競争型という価値観を核に、経営戦略に直結する組織設計論を解説しました。
今日のビジネス環境において、技術や資本による差別化は容易に模倣されます。しかし、戦略的に設計された「組織の価値観」と、それに基づいた一貫性のある「採用・配属・マネジメント」は、他社が簡単に真似できない無形の競争優位性となります。
人事担当者と経営者の皆様には、単なる「人柄の良さ」や「優秀なスキル」という曖昧な基準から脱却し、データと戦略に基づいた「組織の価値観」設計に今すぐ取り組むことを強くお勧めします。
組織の価値観を科学し、戦略として活用すること。これこそが、企業を次の成長フェーズへと導き、激しい競争を勝ち抜くための唯一の道筋です。
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