性格を科学的に記述する「ビッグ・ファイブ理論」
「行動の科学」=近代心理学において、人間の性格における分類方法で広く活用されている「ビッグ・ファイブ(The Big-Five factor structure)」があります。現代の性格分類において、最もメジャーである分類方法として確立されている「ビッグ・ファイブ」は、多くの適性検査においても用いられている、非常に汎用性のある理論です。
「ビッグ・ファイブ理論」は、1990年代に心理学者のルイスゴールドバーグが『パーソナリティの特性論(性格分析)』において「人間が持つさまざまな性格は5つの要素の組み合わせで構成される」としたものです。
心理学の性格研究では、長年にわたって様々な性格類型や特性が提案されてきましたが、お互いに別物であり科学にならない、という難問を長らく抱えていました。ゴールドバーグが大規模な多変量解析によって特定した構造が「ビッグ・ファイブ」で、現在は最も信頼性のある性格分析と言われています。
多くの企業で用いられる適性検査を理解するための指標ともなっており、ビッグ・ファイブ理論に基づいて、さまざまな研究も行われています。適性検査における性格検査もビッグ・ファイブ理論に基づいたものが多く、適性検査を理解する上ではビッグ・ファイブ理論を理解することも非常に有用です。
今回は、ビッグ・ファイブ理論における5つの要素のうちの1つ「誠実性」について説明します。
ビッグ・ファイブ理論における「誠実性」とは?
ビッグ・ファイブ理論の考え方は、5つの要素でその人のパーソナリティの特徴を大まかに説明できるとするものです。
5要素は研究者によって多少その内容は異なりますが、基本的な考え方は全て同じです。現在最も広く利用されているのは「コスタ&マックレー」のモデルとされており、「外向性」「調和性」「誠実性」「神経症的傾向」「経験への開放性」の5つに大別されます。辞書にある何万という言葉の中から性格に関する言葉を洗い出し、区分し、最後に残った5つの言葉だとされています。
傾向 特徴 外向性 興味関心が外界に向けられる傾向 積極性、社交性、明るさ 調和性 バランスを取り協調的な行動を取る傾向 思いやり、優しさ、献身的 誠実性 責任感があり勤勉で真面目な傾向 自己規律、良心、慎重 神経症的傾向 落ち込みやすいなど感情面・情緒面で不安定な傾向 ストレス、不安、衝動的 経験への開放性 知的、美的、文化的に新しい経験に開放的な傾向 好奇心、審美眼、アイデア
それぞれの因子が高いから良い、低いから悪いというわけではなく、それぞれにメリットとデメリットが存在しています。
協調性が高いことは、特に日本においてはポジティブにとらえられがちです。しかし協調性が高い人は、対人における愛着心が強い一方で、自分なりの独立した考えを持つことに難がある、という性質とセットになっています。
ある特性に強く偏っているタイプは、良くも悪くもその影響を強く受けており、さまざまな形態で”個性的”になります。
一般的な「個性とは何か?」という印象と同様、心理学のパーソナリティもまた、その人の持っている安定的な構造ととらえられています。デメリットだけ打ち消して成長する、という発想はないのです。
誠実性の意味や特徴とは?
「誠実性」は、「勤勉性」「継続性」「真面目さ」とも呼ばれ「自己コントロール能力の高さ」を示すものです。自分の目の前で起きた出来事や定められた目標に対して、どう対応していくかを示すのが、誠実性の特徴です。「何かをやりたい!」という思いや衝動に対して、自分をどのようにコントロールしていくのかを示しているものとも言えます。
「誠実性」が高い人は、自己抑制力や集中力の高さなどがあり、一方低い場合は、アドリブ力や行動力などが高い傾向にあります。
誠実性は何に影響を与えるのか
誠実性の性質は、計画的で責任感があり勤勉な性向を示すもので、その一面を示すキーワードとしては「自己規律、忍耐、根性、熟慮、達成努力」などが挙げられます。野心を持ち、目標に向かって自分を律しながら、どんな困難があっても粘り強く責任感を持って努力していく資質という側面を持っています。
「ビッグ・ファイブ」の中でも特に、仕事の成果との関係が強い特性だとも言われています。
誠実性が高い人の特徴と適した仕事とは
「誠実性」が高い人は、一点集中型で、目の前の問題の解決や目標の達成に向けて丁寧に取り組む性質を持っています。長期的な計画を立案し遂行することも得意で、オフィスなどでは安定感のある人として頼られる存在になる可能性が高いタイプです。
誠実性が強い自制的な人は、自制心が働きやすいためストレス耐性が強く、衝動的な行動を抑えて理性的な行動をとることができます。苦手な仕事や失敗に直面しても投げ出さず、目標に向かって計画的に努力できる人材とも言えます。
時として柔軟性に欠け、アドリブも苦手なので、臨機応変な対応が求められる状況は不得意です。とはいえ、自制的であり努力家なので最後は成功するタイプでもあります。
「誠実性」が高い人は、立案した計画を手順に沿って遂行したり、継続した努力が必要な仕事などを得意としています。コツコツと積み上げ、高い技術を必要とする仕事も得意とするため、計画性や責任感が求められるプロジェクトマネージャーなどの中間管理職も最適でしょう。苦手な仕事でも努力でカバーできるため、さまざまな職種で活躍できます。
誠実性が低い人の特徴と適した仕事とは
「アドリブ力に長け、行動力がある」のが誠実性が低い人の特徴です。注意散漫で飽きっぽい性格とも言えますが、さまざまなものに興味を持ち、行動力を発揮する能力を兼ね備えているとも言えます。
感情的・直感的なタイプで、自制心があまり働かないため、物事に執着せず早々と諦めてしまう面もあります。
もともと地頭がよい傾向にあるため、予測不能の事態に柔軟に対応する能力が優れており、好きなことにのめり込むため、瞬間的なアドリブが必要なスポーツ選手やタレント、俳優などのパフォーマーなどの仕事に向いています。想定外の問題が発生しやすい上級管理職(や経営者)や専門家などにも適しているでしょう。その時々の状況によって柔軟な判断力がいる業務なども楽しめます。
誠実性は年齢に関わらず伸ばすことが可能な要素
「誠実性」の高い人は、計画性や責任感が求められるプロジェクトマネージャーなどの中間管理職に、逆にこの傾向が低い人は、想定外の問題が発生しやすい上級管理職(や経営者)や専門家などに適しています。
誠実性は仕事の成果と最も関係していますが、年齢に関わらず伸ばすことが可能な要素であるため、採用や配属などではあくまでも現状把握に留め、教育研修などで中長期的に育成する環境を整えることも有効でしょう。