組織文化・社風とは?学術研究と最新の理論で文化の本質に迫る

目次

文化こそが組織繁栄のカギである

地球上のほとんどの生物は、生まれた瞬間から、個体一つの力だけでは生きていくことはできません。この事実は、我々ヒトによく当てはまるでしょう。ヒトは生まれながらにして、他人に依存しなければ生きていけません。

我々が暮らしている現代の社会は、他の生物に比べて少し奇妙なことに気がつきませんか?現代ほどの複雑な社会では、我々ヒトは、様々な組織に属して生きています。生まれた瞬間は家族という組織から社会活動をスタートしますが、次に地域のコミュニティー、そして学校、会社...。人生の段階毎に、私たちは様々なグループに属して生きていくことを学びます。たった一つの組織に属することなく、同時に異なるグループに属して生きている私たちは、他の生物と比べても、とても高度な社交性を持っていると言えるでしょう。

次のような世界を少し想像してみて下さい。赤信号でも無視して車が縦横無尽に突き進んでいる、電車の中では誰でも大きな声で電話をしている、レストランではお金を払わずに好きな物だけを食べていい社会。このように規則が無視された社会では、果たしてヒトは全体としてうまく繁栄する事ができるでしょうか?このような秩序のない社会で生きてる種族は、きっと争い合い、種族として存続する事ができないでしょう。実際、そのような規則の全く存在しない人間社会を、現代では見つけることはできないと思います。

我々ヒトは、そのような混沌とした社会ではなく、秩序のある、協力して安定した社会生活を送る事ができています。このような社会を実現するために必要なのが「文化」です。文化によって、我々ヒトは、ある一定のルールや規則を作り、一人一人が過ごしやすい社会を創り、結果的に種族として絶滅する事なく地球上で最も繁栄している生物となりました。

このような「文化」というコンセプトをビジネスとしての組織に応用する事ができます。実際に、産業・組織心理学といった学術研究では、このような文化を小さな単位である組織や会社などに応用してきて、その効果や有用性を実証してきました。そこで本記事では、文化を広い意味で最初に研究してきた人類学や心理学、そして現代のビジネスへ応用させてきた産業・組織心理学の理論と実証研究を紹介します。

我々ヒトが創り出せる文化の本質を理解することは、人間の秘めたパワーを最大限に活用することに繋がります。本記事の目的は、我々ヒトがもつ文化のパワーを理解して、組織運営や経営に活かしてもらうことです。

人類学による「文化」の定義とは

今回の記事で役に立つ学術的な文化の定義には、大きく分けて2種類あります。

一つ目は、しばしば文化(カルチャー、culture)と呼ばれ、主に人類学や心理学を中心に研究されてきました。人間のもつ文化の本質を最初に学術的に研究し始めたのは、人類学だと言われています。細かくみると学派や研究者によって千差万別の定義がありますが、人類学での文化の定義は、一般的にまとめると「ある集団の構成員(メンバー)によって共有された考え方、慣習や規則」と定義する事ができます。

この定義には、重要なポイントが2つあります。

一つ目は、共有されていないものは文化とは言えないということです。ある考え方や慣習に対して、もしグループのメンバーが一人一人異なった意見を持っていたり、同意をしていなかったり、認識できないのであれば、それは文化と呼ぶにはふさわしくありません。あるグループにおける一人一人が高い割合で共有して初めて、文化となり得るのです。

二つ目のポイントは、共有された文化は、目に見えるものとそうでないものの両方を含むと言うことです。例えば、信念、価値観、宗教心などは、実際には目には目なくとも「こういう場合にはこういう風に行動すべきだろう」といった抽象的な概念として共有されます。一方で、儀式における作法、挨拶の仕方や、規則・制度などについては、動作として共有したり、文書化して物理的に共有することができます。抽象的なものも、物理的なものも、ある程度の割合で集団として共有されて初めて、文化と呼べるものとなります。

文化は集団に共有されて初めて効果を発揮します。人は集団で生活をするために、決まったルールや規則を持つ集団でなければ生存できません。混沌とした社会には、共通の文化が存在しなく、逆にまとまりのある社会とは、共通の文化が存在している状態です。したがって、文化のもつ重要な機能は、集団生活を円滑にし、結果的に集団全体の生存率を高めることと言えます。言い換えれば、文化を持つことは、集団全体の幸せを向上させる事に役に立つのです。

文化を最初に研究した人類学の大きな問いの一つに「なぜこの地球上には異なる文化が存在するのか?」という問いがあります。この問いに答える際に、人類学では生物学者チャールズ・ダーウィンが提唱した自然淘汰による進化論の考え方を採用しています。

自然淘汰による進化の原理は、一言で訳すと「環境によって適応した個体が淘汰されていく」と言うことです。よって、それぞれの地域で違った形の文化が存在するのは、それぞれの環境が要求するものが違うからと言えます。

全ての文化の持つ機能は、その集団全体の生存を高めることですが、その達成の仕方は、その文化が存在する環境によって定義されるのです。つまり、人類学的な見地からみると、文化とは、ある一定の環境の中で人々が適応していく過程で形成されるものだと言えます。

Keesing, R. M. (1974). Theories of culture. Annual Review of Anthropology, 3(1), 73-97.

心理学による「文化」の実証研究

人類学的な文化の理論の発展に、後から貢献したのは心理学です。心理学は「異なる文化は異なる環境に人々が適応する過程で生まれる」という視点から、文化の違いと環境の違いの関係を定量化することに努めてきました。

日本などの自然災害や環境リスクが高い国では同調圧力が強くなり、一方で環境の脅威が比較的少ない北ヨーロッパなどでの国では、同調圧力が弱いことを示すデータがあります。 自然災害などの多い地域では、一人一人が好き勝手な行動をしては突然の災害に備える事が困難になってしまいますが、そのようなリスクの低い地域では、強い同調圧力を求める必要がないのです。つまり、日本のような自分のやりたいことを押し殺しても周囲に同調するという文化は、環境リスクの高い日本の環境が土台になって生まれた、と説明できます。

様々な環境下で違った形の文化が形成されていることに着目すると「それぞれの環境が要求するものが違うため、異なるゴールを持つ文化が生まれてくる」と解釈する事ができます。全ての文化の目的は、集団生活をより円滑にして集団全体の生存率を高めることですが、やり方はそれぞれの環境によって決まってくるのです。

人類学や心理学に見られる文化研究の特徴は、部族や国といったより広義な意味での「社会」が分析の対象となっています。このような学術研究は、人間の文化がどうやって形成されるのか、その目的はなんなのか、という本質的な問いに答えてくれます。では、このような文化の理論は、いったいどのようにビジネスや経営に応用できるのでしょうか?

Gelfand, M. J., Raver, J. L., Nishii, L., Leslie, L. M., Lun, J., Lim, B. C., ... & Aycan, Z. (2011). Differences between tight and loose cultures: A 33-nation study. Science, 332(6033), 1100-1104.

産業・組織心理学による「社風」の定義

学術的な文化の二つ目の定義は、しばしば組織文化や社風(クライメット、climate)と呼ばれ、主に産業・組織心理学を中心に研究されてきました。これは、文化を広義の意味で捉えている人類学や心理学の理論を、会社などのより小さい組織に応用させたものです。

ここでの社風の定義は「社員が組織全体としてのアイディアや慣習に対してもつ共有された認識」のことであり、社員一人ひとりが自分の属する組織はどのような文化を持っているか、の総称として扱われる事が多いです。このような文化の定義は、人類学と心理学のそれと本質的には変わらないものの、応用される分析の単位が国や部族などの大きな単位ではなく、組織といったより小さな単位で使われている点でやや異なります。

本質的な定義は同じなので、組織運営やビジネスに、人類学や心理学が明らかにしてきた文化の機能をそのまま当てはめる事ができます。それぞれの会社やビジネスでは、分野や業界によって、または時代によって達成するべき目標やプロダクトのニーズが異なってきます。これらを会社を取り巻く環境の一部だと捉えると、それぞれの組織に違った社風が存在することはとても自然な事でしょう。環境によって定義される異なるニーズに適応するために、違った社風が形成されるのです。

社風が文化として成り立っている状態とは、社員一人一人が共通のアイディアや規則を共有している状態であり、会社全体のゴールとは、会社として利益を出して存続することです。これは、国や社会というマクロな観点から文化の機能を捉える方法と、本質的な同じことをしています。

Pettigrew, A. M. (1979). On studying organizational cultures. Administrative Science Quarterly, 24, 570–581.

Schneider, B., González-Romá, V., Ostroff, C., & West, M. A. (2017). Organizational climate and culture: Reflections on the history of the constructs in the Journal of Applied Psychology. Journal of Applied Psychology, 102(3), 468-482.

文化や社風のもつ効果の実証研究

産業・組織心理学の実証研究では、社風とパフォーマンスの関係性についての知見が多くあります。

例えば、サービス業界を調べた分析によると、サービスの質を重視している社風を持つ組織ほど、様々な面でパフォーマンスが高い事がわかりました。ここでのサービスの社風とは、社員がどれだけ生産、配達、消費の過程でサービスの質を重視しているか、そしてそのことについて社員がどれだけ認識しているかの程度を指します。

分析結果によると、サービスの社風が高い組織、つまり社員全体がサービス精神に重きを置いている(と皆が信じている)組織であるほど、顧客からの評価も高く、顧客の満足度も高く、そして結果的に業績も高かったのです。サービス業であれば、サービスの質を高めることは当たり前の価値観のように感じますが、実際に社員全員がサービス精神を信じている状態なのか、共有されている状態なのかどうかは、組織によって異なってきます。

この分析結果は「社員が高い割合で同じ価値観を共有していなければ、組織文化として機能しない」と言うことを示しています。また、 事業や業界に合わせた社風をもつ組織の方がより成果を出しているという、文化の本質的な機能を実証しています。

社員が同じ考え方を共有していることは良いことであり、その考え方が業界のニーズや組織の目的に即していれば、組織として成功する確率が上がるのです。

Hong, Y., Liao, H., Hu, J., & Jiang, K. (2013). Missing link in the service profit chain: A meta-analytic review of the antecedents, consequences, and moderators of service climate. Journal of Applied Psychology, 98, 237–267.

文化や社風を作り上げる事は可能

組織文化や社風は、意図的に作り上げることは可能なのでしょうか?

この問いに応えるために参考になる一つの実証研究があります。ある研究では、鉄鋼業の現場のチームを対象に、「安全な」社風を作り上げることが可能なのかを、フィールド実験(職場などの現場にランダムな介入を与えて、その因果関係を調べる実験)で調べました。

この研究では、それぞれの従業員が現場の安全性やチームワークに関する調査に答えました。一方で、各チームの現場監督には、12週間の間に2回ほど、この調査のフィードバックを与える介入を行いました。つまり、この実験の本当の参加者である現場監督の半分のグループには、実際に従業員の振る舞いや認識について考え、目標と現実を擦り合せる機会が与えられたのです。因果関係を調べるために、もう一方のグループには、なんの介入も与えられませんでした。

効果を時間を追って分析してみると、介入を行った現場監督のいるチームほど、12週間経った後の実際の業務の安全性とチームワークにおいて飛躍的な向上が見られました。リーダーである人物が自分の属する会社の社風について自覚して、それを念頭に置いたコミュニケーションをすることで、従業員の社風に対する認識も向上し、その結果、安全性と生産性を高めることに成功しました。この実証実験は、今まで相関関係が証拠の中心だった研究で得られた示唆を、実際の因果関係へと拡張させた点で、非常に貴重なデータです。

リーダーのポジションにいる人間が、自分の組織のゴールに合った社風を認識して自覚することで、社員の社風に対する認識を促すことができる因果関係が、この分析から明らかになりました。鉄鋼業の現場では安全を重視した社風が合っているように、社風が組織の業務内容や業界のニーズに合っていれば、高い生産性を保つことができるのです。

Zohar, D., & Polachek, T. (2014). Discourse-based intervention for modifying supervisory communication as leverage for safety climate and performance improvement: A randomized field study. Journal of Applied Psychology, 99, 113–124.

組織づくりには文化が必要不可欠である

ヒトの文化は「共有された考え方、慣習や規則」と定義され、それぞれのグループに合った目標を達成しやすいように、集団としての生活を円滑にする機能があります。

学術研究では、大きな単位では国や社会、小さな単位では会社といったグループに対して文化という用語が用いられてきました。一連の研究でわかったことは、それぞれのグループに適した文化のあり方は環境によって定義され、その文化はグループにおける共有度が高ければ高いほど、その効果を発揮するということです。

近年の介入研究では、チームリーダーのコミュニケーションの仕方を変えることで、社風を強化できることが分かってきました。ヒトが創ることができる文化の本質を理解することで、小さな組織作りにも応用することができます。

mitsucari

ミツカリ
会社や組織のミスマッチを予測し、早期離職を未然に防ぐ
2,700社が導入し、151,000人が受検した適性検査。応募者の人物像、社風との相性がひと目で分かり、多くの企業で離職率が改善されています。採用面接だけでなく、内定者フォローや採用要件定義など、様々な人事業務でミツカリが活用されています。

資料のご請求はコチラから

  1. TOP
  2. 組織文化・社風とは?学術研究と最新の理論で文化の本質に迫る